知的障害児の記憶には特徴的要素がいくつかあります。
今回は、知的障害児の記憶の特徴について説明した上で、療育上で注意すべき事項を著者の経験も交えてお伝えしていきます。
今回、参照する資料は「立松保子・立松英子(2011)保育者のための障害児療育-理論と実践をつなぐー改訂版.学術出版会.」です。
知的障害児の記憶について
著書の中では、知的障害児の記憶の特徴として以下の二点を取り上げています。
以下、著著を引用します。
①今起きつつあることを覚えていること(短期記憶)は途切れやすく、繰り返し経験したこと(長期記憶)は比較的定着しやすい、②注意が散りやすく、入力された刺激も混乱しやすい(時間順に振り返ったり優先順位をつけたりすることが難しい)
著書の引用から、知的障害児の記憶の特徴として・・・・
①短期記憶は弱いが、経験で学んだことは長期記憶として残りやすい
②注意散漫で物事を計画立てることが難しい
以上の二つが特徴としてあります。
著者の療育経験からも上記の①と②の記憶の特徴はよく見られると感じます。
それでは、次に著者の経験も交えながら、療育上で配慮すべき点についてお伝えします。
療育で注意すべき点
①短期記憶は弱いが、経験で学んだことは長期記憶として残りやすい
上記の記憶の特徴への注意すべき事項は以下(a,b)です。
a 繰り返しの経験を重視する
知的障害のある子どもは、短期記憶に弱さがある分、繰り返しの行動・経験で定着する要素が多くあります。
そのため、生活リズムをできるだけ崩さないように、同じリズムでの経験を重ねていくことでの定着(長期記憶)を促すことが重要になります。
例えば、著者は放課後等デイサービスで療育をしていますが、事業所での活動内容をパターン化することで、子どもたちへの安心感と繰り返しの行動・経験により学習が進むということを実感しています。
子どもたちの様子を見ても、決まった活動内容などを求める傾向が強くあるように思います。
そのため、できるだけリズムを崩さないような対応が必要だと考えます。
b 短期記憶の弱さを補う方法を考える
繰り返しの経験での獲得も重要ですが、その場で新しい情報を覚えていく必要も出てきます。
そのため、短期記憶の弱さを補う工夫が必要になります。
例えば、紙にメモして伝える、口頭指示は短く繰り返し伝えるなどの配慮が大切です。
著者の経験でも、重要なことは繰り返し伝える、視覚的情報として残すなどするとより記憶への定着が増すといった実感があります。
②注意散漫で物事を計画立てることが難しい
上記の記憶の特徴への注意すべき事項は以下(c,d)です。
c 落ち着ける環境を整える
何か作業をする時なども含め、静かで刺激の少ない環境を調整する必要があります。
知的障害のある子どもの中には、感覚過敏なお子さんもおります。
音の刺激、視覚的な刺激などをできるだけ取り除き、やりたい活動に注意が向くための配慮が重要です。
著者も、療育現場で気になる他児と環境を分ける、パーテーションなどを使用し環境を区切るなどの対応を取ることで、子どもたちの注意散漫な状態を軽減できると感じています。
d 事前に予定を立てる
予定を立てることは、様々な認知機能(記憶も含め)を使用します。
そのため、計画を立てるサポートが必要になります。
急な予定変更などが難しいため(パニックや癇癪を起こす子もいます)、事前に変更点などを伝え、予定を大人と一緒に立てることで安心感を持って活動に臨む様子が増えます。
著者も、子どもが予定変更や複数やりたいこと・やるべきことがある際には、早めに(当日及び前日)変更点や活動の組み立てなどをするようにしています。
こうした事前の対応があるかないかで、子どもたちの安心感は非常に変わることを実感しています。
以上、知的障害児の記憶について、その特徴と療育上での注意点について述べてきました。
知的障害のある人たちは記憶にも特徴があります。
しかし、記憶への適切な配慮と、繰り返し生活経験を重ねることでできる所は着実に増えていきます。
私自身、まだまだ未熟ですが、日々の療育での実践を通して、知的障害のある人たちへの理解と支援内容をさらに深めていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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立松保子・立松英子(2011)保育者のための障害児療育-理論と実践をつなぐー改訂版.学術出版会.