療育現場で発達に躓きのある子どもたちと関わっていると、知的障害や発達障害のお子さんと多く出会います。
しかし、これら二つの障害に関して、私自身、関わる機会を多く持ちながらも、どのような違いがあるのかがよくわからないなど疑問に思うことがあります。どうもしっくり分類できないという感覚です。
もちろん個人差があることや単純に分類できるものではないところもよく理解しています。分類することの意味は、レッテル貼りではなく、本人の状態像をできるだけ的確に理解し、より良い配慮や支援を行うためです。
こうした違いの難しさは、障害の程度によって状態像が重なることや、複数の障害があるケースがあるからだと思います。
例えば、知的に重度のお子さんと重度の自閉症は似ていると言われています。また、自閉症の方でも知的に遅れがある方とそうでない方とでは状態像が変わってきます。
このように多様な状態像を理解する上で、各障害についてそれぞれの特徴や違いを理解していくことは大切なことだと思います。
そこで、今回は知的障害と発達障害の違いついて、ご説明していきたいと思います。
まずは、それぞれの定義について説明します。
そして次に、知的障害と発達障害が国内においてどのように規定されているかについて説明していきたいと思います。
今回、引用・参照する文献は、「アメリカ精神医学会 高橋三郎・大野裕(監訳)(2014)DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル.医学書院.」「本田秀夫(2019)あなたの隣の発達障害.小学館.」と「大石幸二・山崎晃史(2019)公認心理師・臨床心理士のための発達障害論:インクルージョンを基盤とした理解と支援.学苑社.」になります。
知的障害について
DSM-5と発達障害者支援法を参照しながら、知的障害と発達障害について見ていきます。
【知的障害(DSM-5)】
知的発達症(intellectual developmental disorder)あるいは知的障害、知的能力障害(intellectual disability)は、知能の発達が標準的な発達に比して遅れていて、学習や生活のしづらさが生じているものである。米国知的・発達障害境界(American Association on Intellectual and Developmental Disabilities:AAIDD)の「知的障害:定義、分類および支援体系第11版」によれば、3つの主たる基準があり、それは、①知的に機能に大きな制約があること(知能検査で2標準偏差以上低い)、②適応行動に大きな制約があること、③発症は18歳以前であること、である。つまり、知的機能の指標となる知能検査の数値だけで診断することはない。
適応行動は、日常生活において人々が学習し、発揮する概念的スキル、社会的スキル、実用的スキルの集合である(詳細は以下)。
概念的スキル:言語(読み書き)、金銭、時間、数の概念
社会的スキル:対人的スキル、社会的責任、自尊心、騙されやすさ、無邪気(用心深さ)、規則/法律を守る、被害者にならないようにする、社会的問題を解決する
実用的スキル:日常生活の活動(身の回りの世話)、職業スキル、金銭の使用、安全、ヘルスケア、移動/交通機関、予定/ルーチン、電話の使用
知的発達症の状態の支援の必要度の目安となるために、最重度、重度、中度、軽度と程度を分けることが多い。知的機能(知能)では知能指数(IQ)あるいは偏差知能指数(DIQ)でIQ20、IQ35、IQ50、IQ70あるいは75をそれぞれの境界線の目安としつつ、適応行動の状態に基づいてその判断を行う。
知的発達症は理論的には人口の1~2%と見られている。
発達障害について
【発達障害→発達障害者支援法:第2条】
(この法律において)発達障害とは、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低学年において発現するもの。
【神経発達症/神経発達障害(DSM-5)】
2013年にアメリカ精神医学会が「精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(DSM-5)」を出版した。ここでは、発達障害を含む精神障害全般について、診断の分類と基準が改定さている。これらの診断分類では「発達障害」という言葉は登場していない。これに相当するのは、「神経発達症群」というグループ。ここには、「知的能力障害」、「コミュニケーション症群」、「自閉スペクトラム症(ASD)」、「注意欠如・多動症(ADHD)」、「限局性学習症(SLD)」、「運動症群」、「チック症群」、「他の神経発達症群」が含まれる。
詳細は「神経発達症/神経発達障害とは何か?」に記載しています。
以上が、知的障害と発達障害の定義になります。
知的障害と発達障害について
知的障害と発達障害のについて参考書を引用して見ていきます。
わが国(日本)では、“発達全般の遅れ”である「知的障害」に対して、先に法制度が整備されており、そこに、発達全体の遅れのないタイプの障害についても対策が迫られたため、「発達障害者支援法」ができたのです。このため、わが国の法制度では、「知的障害」と「発達障害」が別になっています。しかし、医学では、「神経発達症」のグループのうち、“発達全体の遅れ”というかたちの異常を示す診断として、「知的能力障害」が含まれています。本田(2019)
現在の日本の発達障害の範囲として、狭義の発達障害に自閉スペクトラム症、学習障害、注意欠如・多動症、発達性協調運動症などが含まれるとし、広義の発達障害に知的障害などが含まれるとしています。大石・山崎(2019)
【知的障害と発達障害について】
本田(2019)と大石・山崎(2019)の引用から言えることは、どちらも、日本において、障害の認知や法制度の進捗などにより、発達障害の範囲が定められたものだと言えます。DSM-5など医学的定義では、知的障害も発達障害も同じ神経発達障害という中に入っている。日本における発達障害は、広義としては、知的障害も含まれる。
以上が、知的障害と発達障害の違いについての説明になります。
知的障害と発達障害の違いを理解するためには、国内でどのような経緯でそれぞれの障害の定義ができてきたのかを知ることが大切です。
冒頭でもお伝えしましたが、私自身、療育現場で、知的に遅れのあるお子さんや、知的に遅れのないASDのお子さんなどと接する機会が多くあります。
接する上で、障害の定義の理解はとても重要かと思います。それは、知的の程度や障害の重複などにより状態像や困り感が多様化してくるからです。
こうした障害の違いや定義などを知ることは現場で関わる人たちの理解のヒントになると実感しています。
今後も障害への理解を現場と知識の両輪を持って深めていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
アメリカ精神医学会 高橋三郎・大野裕(監訳)(2014)DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル.医学書院.
本田秀夫(2019)あなたの隣の発達障害.小学館.
大石幸二・山崎晃史(2019)公認心理師・臨床心理士のための発達障害論:インクルージョンを基盤とした理解と支援.学苑社.