発達障害児は、発達特性上、社会の中で様々な生きにくさを抱えています。
そうした生きにくさを改善・軽減するためにも、大人の関わり方が大切になってきます。生きにくさも、多様であるため一人ひとりにあった理解と対応が必要になります。
そうした中で、大切な視点が「発達の最近接領域」という考え方です。
「発達の最近接領域」とは、子どもが一人でできる水準と大人の協力のもとできる水準を見極め、その差を認識し、埋めていくという考え方になります。
最近、療育現場でこの視点の大切さを実感する場面がいくつかありました。
そこで今回は「発達の最近接領域」に関する体験談について、事例をもとにお伝えしていこうと思います。
小学校中学年の男子A君の事例
A君は、最初はどのように事業所で過ごしたらいいのかよくわからずに、手持ち無沙汰になる様子が多く、大人が遊びを提案することがよくありました。
そんなA君ですが、次第に他児の遊びが気になり、それを真似ようとすることが多くなり、他児が作っているものを真似て必死に工作遊びに取り組む様子が見られるようになりました。
ですが、手先が不器用なA君は、うまく作ることができずに大人にお願いしてくることがほとんどでした。ですが、学校で、ハサミやノリをうまく使えるようになってから、作れる部分が増え、大人の手伝いが少なくなり、一人で工作をする様子が増えました。
これも、最初に大人の協力のもと作業をすることから、A君自身ができる部分が増えたことで、一人でできる部分が増え、大人の介入が減ったという典型的な例かと思います。
A君は、今では、以前よりも自信を持って何かに取り組む様子が増えました。
小学校中学年の男子B君の事例
B君は大の電車好きで、電車の乗り物をよく段ボールで作り、電車ごっこを楽しんでいました。
B君なりに電車の時刻表を作ったり、駅のホームや名前を考えるなどして、遊びを発展させていましたが、ある日、B君は段ボールの電車を目の前に、動きが止まっている様子を見かけました。その日は、いつもとは違い、仲の良い友達がいない日で、一人で遊んでいました。
普段のB君は自分で何かを考えて作ったり、他児と元気に電車ごっこをしている印象がありましたが、その日は次に何をすれば良いのかよくわからないという感じでした。引っ張ってくれる友達がいなかったこともあるかと思います。
試しに私が、電車の改造という提案をして、テープなどを使って、電車をパワーアップさせました。その過程で、B君にも手伝ってもらいましたが、B君が予想以上にテープを貼るなど、一見できると思っていたことがうまくできないということに気づきました。
一度、その作業が軌道に乗ると、その後は、一人でも進めることが増えましたが、私は、一見すると色々とできそうなB君が大人の手を借りないとうまくできない所が多くあることに気づかされました。
この事例を通して、子どもが一人の力で様々なことができるようになるためには、まずは大人と協力してやってみるという経験が必要不可欠なのだと実感しました。
以上、2つの事例を通して、子どもが独力で何かを達成するには、その過程で大人がモデルを示したり、一緒に取り組むというプロセスが重要になります。
発達障害児は、様々な困り感が定型児よりもあるため、大人の介入がより必要なのは頭ではわかってはいましたし、これまでにも、多くの子どもをサポートしてきましたが、それでも気づかないことがまだまだたくさんあるのだと、B君の事例から気づかされました。
やはり、実際に一緒にやってみるなど、密に関わらないとわからないことが多くあるということです。
一見すると、手持ち無沙汰になり、やることがない子でも、できることが一つ二つと増えてくると、手持ち無沙汰になる様子も少なくなることが、現場ではよく見られる光景です。A君の事例などまさに良い例かと思います。
このような気づきを少しでも増やしていけるように、私自身も初心にかえり、子どもへの関わり方を見直すことは大切だと感じました。
今後も、発達障害児への理解を深めていけるように、大人がどのように関わっていくことが必要なのかを考えていきたいと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。