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発達障害を抱える人の自己理解の必要性について-ASDを例に-

投稿日:2022年6月15日 更新日:

発達障害とは、ASDやADHDやLDなどが主なものとしてあります。

関連記事:「神経発達症/神経発達障害とは何か?

また、これらの発達障害が重複するケースも多いとされています。

著者は長年、療育現場で発達障害など発達に躓きのある子どもたちと関わる経験が多くありました。さらに、子どもだけではなく、成人の方とも関わる機会も同時にありました。

青年期や成人期の発達障害の人たちと関わる中で大切な視点が「自己理解」です。

定型児では思春期以降から特に周囲との比較から自分というものを捉える視点が強くなります。

それによって自己肯定感が高まったり、低まったりするなど、周囲の人たちの関わりの中で自己を理解していく意識が高まります。

発達障害のある人は、特に思春期以降から周囲との中で違和感を抱きやすくなると言われています。

 

それでは、発達障害の人において、自己理解の必要性にはどのような意味があるのでしょうか?

 

今回は、著者の経験も踏まえ、ASDを例に、発達障害を抱える人の自己理解の必要性についてお伝えします。

 

 

今回、参照する資料は「岡田尊司(2020)自閉スペクトラム症:「発達障害」最新の理解と治療革命.幻冬舎新書.」です。

 

 

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発達障害の自己理解について-ASDを例に-

以下、著書を引用します。

ASDを抱えた多くの人が、自分自身や自分が生きている世界に対する違和感をもち続けています。(略)うまくいかないことで自分を責めたり、自己否定に陥っていることもしばしばです。(略)自我に目覚めた頃から、そんなふうに思い続けてきたことへの、一つの明白な答え、もちろんそれはその人の特性の一部に過ぎないにしても、長年の苦しみの原因となってきた特性について、その正体を知ることは、多くの場合、救いとなります。

著書の内容を踏まえ自己理解の必要性を考えてみると、世界に対する違和感などの生きづらさにより、自己否定感に苛まれている状態に対して、特性を知ることで救いとなる場合があるということです。

ASDの人たちは特に、対人・コミュニケーション上の困難さを抱えることが多いため、周囲との関係性や関わり方での躓きが、徐々に堆積して自己否定感に陥ってしまうことがよく起こります。

もちろん、ASDなどの発達特性はその人の全人格の一部にすぎませんが、それがうまくいかなさの原因になってしまう場合には、特性を知る、つまり、自己理解を深めていくということが必要になってきます。

もちろん、悩んでいる本人は特性から躓きが生じていることはそもそも知らない場合も多くあります。

そのため、医療や福祉、教育などの専門機関などと繋がることで少しずつ道が開けることがあります。

自己理解(特性理解)で大切なことは、不得意な面の理解だけではなく、得意な面も合わせて理解していくことだと思います。

この得意な面の理解は、うまくいっていない状態が長いと、なかなかうまく見出すことが難しいかと思いますが、特性の良し悪しには必ず表裏一体があります。

 

関連記事:「発達の特性を「選好性」という視点から考える

 

著者も特性の強みをさらに引き出すために、療育の現場でお子さんの不得意や苦手な面だけではなく、得意な面も見つけ伸ばしていけるような関わりを意識しています。

 

 


それでは、次に著者の経験談から自己理解の必要性について考えてみたいと思います。

 

著者の体験談

現在成人男性のAさんは、ASDの診断を高校時代に受けました。

診断を受ける前のAさんは、年齢を重ねると同時に(特に思春期以降に)様々な面で周囲との間に違和感を抱くようになりました。

その違和感はなかなか周囲から理解されるほどの大きなギャップだったわけではないので、本人はもちろんのこと周囲もAさんの苦しみの正体にはなかなか気づけずにいました。

こうした状態が長期化したAさんは、精神的に病んでしまう状態にまでなってしまいました。

その時に、医療と繋がったことで、ASDの診断を受けました。

ASDの診断を受けたAさんが最初に感じたのは安堵感でした。

つまり、これまで努力など自分の力が足りなかったなどというわけではなく、何となく周囲との間でうまくいかなかったことには原因・理由があったという安堵感です。

ASDの診断を受けたAさんは、福祉機関と繋がり自己理解(特性理解)を進めていき、徐々にエネルギーを取り戻していきました。

これを機に、周囲と同じように努力していくこと、同じような人生を歩むことから(そもそも違いますが)、少しずつAさんなりのやり方、考え方、生き方を探していこうとするようになっていきました。

 

現在のAさん自身にまだまだ困難や悩みはありますが、自己を理解していくことは、自分なりの生き方を見つめる上でとても大切だと思います。

正体のわからない違和感は時に人の人生を大きく動かします。

それが苦しみに繋がらないように、私自身、発達支援の現場で様々な発達特性や発達的視点の理解をさらに深く学び、実践に繋げていきたいと思います。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

 

岡田尊司(2020)自閉スペクトラム症:「発達障害」最新の理解と治療革命.幻冬舎新書.

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