療育(発達支援)の現場で働いていると発達に躓きのあるお子さんたちと多く出会います。
発達障害には、自閉スペクトラム障害、ADHD、学習障害、発達性協調運動障害、知的障害など様々なタイプがあります。
療育経験で子どもたちの発達特性を分析することは理解と支援においてとても大切です。
その理由は、適切な環境調整など配慮が必要不可欠だからです。
特性からでる子どもたちの行動特徴は、生まれもっての脳機能の問題から生じるという理解が深まってくると、個々への理解と支援に繋がっていきます。
こうした中で難しいと感じるのは、発達障害(発達特性)は、必ずしも一つだけが顕著に見られないケースが多いということです。さらに、特性もスペクトラムで強弱が個々によって幅があります。
そこで、今回は、発達障害の重複(併存)について、著者の療育経験も踏まえて理解を深めていきたいと思います。
今回参考にする資料は、「子育てで一番大切なこと」、「発達障害:生きづらさを抱える少数派の「種族」たち」、「DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル」です。
発達障害の頻度について
以下、「子育てで一番大切なこと」を引用します。
知的障害:1%弱
自閉症スペクトラム障害:2%強
注意欠陥/多動性障害:3~5%
学習障害:5%
こうして発達障害の頻度を見ると、日本で社会的認識が広まった知的障害や自閉症スペクトラム障害よりも、注意欠陥/多動性障害や学習障害の頻度が高いことがわかります。
最近のADHDの当事者に関する情報が多く広がっている様子を見てもこうした頻度は納得できるかと思います。
また、上記の発達障害に加え最近では不器用さなど体の協調に関する発達障害として発達性協調運動障害が注目されるようになってきました。
ちなみに、発達性協調運動障害(DCD)の有病率は以下です(DSM-5より)。
発達性協調運動障害:5~6%
こうした発達障害(発達特性)は、大人になっても残存するとされています。
発達障害の重複(併存)について
発達障害はDSM-5以降に重複診断が可能になったこともあり、一人の人が複数の診断がついていることも多くなってきました。例えば、ASD、ADHD、SLDなど3つの診断を持っている方もおります。
そして、一人の人が複数の特性を持っているケースが高いと述べている方もおります。以下に「発達障害:生きづらさを抱える少数派の「種族」たち」から引用します。
私は、発達障害関連の問題で専門外来を訪れる人の多くは、重複例だと感じています。重複の程度は人によって異なりますが、ひとつの障害の特性だけが存在し、そのための診療だけで対応できるという例は、比較的少ない印象です。
著者も療育経験を通して、重複(併存)例が非常に多いと感じます。
関連記事:「障害の併存とは?ADHDとASDの共通の特徴や違い」
それでは、次に著者の療育経験から発達障害の重複(併存)についての体験談をお伝えします。
著者の体験談
放課後等デイサービスに通所している小学5年生のA君は、自閉症の特性があると保護者の方らか伺っておりました。
A君は、一方的に自分の意見を話す、他者の意図の汲み取りが苦手、場面の空気などの理解が苦手なため、確かに自閉症的な特徴が見られました。
しかし、A君にはこうした特徴以上に、片付けができない、段取りができない(計画立てた行動ができない)、衝動的に行動してしまうなど、どちらかというとADHDの特性の方が強く見られました。
そのため、我々スタッフは、こうしたASDとADHDの両方の理解と支援を大切に関わってきました。
こうした重複(併存)を意識したことで、A君への理解は深まり、支援もうまく進んだように感じます。
A君のような事例は他にも複数存在します。
療育現場に携わるスタッフでも、こうした発達障害の重複(併存)の理解は乏しいように感じます。
私自身もまだまだ未熟ですが、今後も発達障害への理解を深めていけるように学びと実践を継続していきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
杉山登志郎(2018)子育てで一番大切なこと.講談社現代新書.
本田秀夫(2018)発達障害:生きづらさを抱える少数派の「種族」たち.SB新書.
アメリカ精神医学会 高橋三郎・大野裕(監訳)(2014)DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル.医学書院.