発達障害には様々な感覚処理過程の問題があると言われています。
感覚とは、視覚、聴覚、触覚、味覚、固有覚、前庭覚などがあり、私たちは、様々な感覚を取り込み・調整しながら、外の世界を認識したり、働きかけるなど行動を制御しています。
それでは、様々な感覚を処理する過程において、発達障害の人たちにはどのような困難さや問題があるのでしょうか?
そこで、今回は、発達障害の感覚処理過程の問題について、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら、感覚調整障害とプラクシスの障害から考えを深めていきいたいと思います。
今回参照する資料は「岩永竜一郎(2014)自閉症スペクトラムの子どもの感覚・運動の問題への対処法.東京書籍.」です。
発達障害の感覚処理過程の問題について
以下、著書を引用します。
発達障害に見られる感覚処理過程の問題によって起こる問題は、大きく2つの側面からとらえられています。1つは感覚調整障害の側面、もう1つはプラクシスの障害(運動行動を企画することの障害)の側面です
著書の内容から、発達障害の感覚処理過程には、1.感覚調整障害、2、プラクシスの障害、の大きく2つがあると記載されています。
それでは以下、それぞれについて見ていきます。
1.感覚調整障害とは
以下、著書を引用します。
感覚処理の問題が情動や行動の問題に結びついている状態
<感覚への反応異常>
・感覚過敏 ・低反応 ・探求行動
<生活上の問題>
・教室でイライラする ・触られるとかんしゃくを起こす ・偏食 ・注意散漫になる ・他の人の話に注意を向けない ・多動
感覚調整障害とは、感覚調整がうまくいかないことにより、感覚過敏や鈍感さなどが見られる状態のことを言います。
自閉症をはじめとして発達障害の人に多く見られます。
感覚調整障害への理解とアプローチにおいて、とても有名なものに「感覚統合」があります。
上記にある、偏食や多動、人からの接触を拒否するなどの行動の背景には、感覚調整の問題があることがあります。
こうした行動上、マイナスとして見られてしまうものにも、感覚の理解を深めていくことで目に見えない意味が見えてくることがあります。
関連記事:「感覚統合について【療育現場で活かすために】」
2.プラクシスの障害とは
以下、著書を引用します。
感覚処理の問題などにより運動や学習に困難が生じている障害
<感覚識別の問題>
・前庭覚、固有受容覚情報の識別性の低さ ・触覚情報の識別性の低さ
<生活上の問題>
・姿勢が安定しない ・動きが不器用で体操や球技が苦手 ・手先が不器用で文字が拙劣になる
プラクシスの障害とは、感覚処理の問題によりそれが運動といった行為に影響を及ぼしているといったことが言えます。
人は様々な感覚を統合しながら、外の世界に働きかけます。
こうした運動は「協調運動」などとも言われるかと思いますが、協調運動に困難さがあると、粗大運動や微細運動にマイナスな影響が出ることが多くあります。
例えば、走ったり、縄跳びをしたり、球技をするなどに難しさが生じたり、書字や楽器の演奏、箸の使用など、体の大きな動きから手先の細かい動きにまで個人差はあれど影響がでます。
こうした人たちは、不器用と言われることも多く、最近では、不器用さ、協調運動に関する障害として、「発達性協調運動障害(DCD)」といった診断を受ける人たちも出てきました。
関連記事:「不器用さについて考える:発達性協調運動障害とは?」
以上、感覚調整障害とプラクシスの障害について見てきました。
最後に、感覚の問題を理解していくことの重要性について著者の経験談をお伝えしていきます。
著者の経験談
著者は現在、放課後等デイサービスで発達に躓きのある子どもたちに療育をしています。
また、以前の職場では未就学児に対して障害児保育をしていました。
こうした療育経験を通して感じることは、発達障害の多くに感覚の問題が見られるということです。
そして、感覚の問題はある程度の知識がないと、理解が難しいことも実感としてあります。
それは、長年療育現場で働いている人たちを見ていて思うことでもあります。
人は自分の感覚を頼りに他の人の感覚も同様に捉えてしまう傾向があるからです。
そのため、療育現場で感覚への深い理解がある人たちは何らの学びをしているのだと思います。
著者自身も、発達障害の子どもたちの独特の感覚は自分の想像を超えたものも多く、経験に加え知識を入れることもしてきました。
感覚の問題があることで、上記にも記載しましたが、例えば、偏食がある、多動が見られる、物の使用が不器用など、生活上様々な困難さがあることも事実です。
しかし、こうした感覚の問題への理解がないと、本人のわがままさや努力不足として考えてしまう方もおります。
これでは、困り感が生じている本人からすると、なぜかうまくいかない、つらい、と思っているのに対して、本人の理解から遠のく対応になってしまいます。
そのため、大切なことは、目の前の行動の背景の意味を考えることです。
そして、その背景には感覚の問題も少なからずあるのではないか?といった疑問を持ち考えることだと思います。
以上、発達障害の感覚処理過程の問題【感覚調整障害とプラクシクの障害から考える】について見てきました。
様々なことを書いてはきましたが、私自身、まだまだ感覚の問題への理解は勉強中です。
それだけ難しい領域なのだと思う一方で、子どもたち(大人も含め)への理解においてとても大切でもあります。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も療育現場で子どもたちと関わる中で、感覚の問題への理解も深めていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
岩永竜一郎(2014)自閉症スペクトラムの子どもの感覚・運動の問題への対処法.東京書籍.