最近よく耳にする言葉に発達障害「グレーゾーン」といったものがあります。
発達障害は主なものとして、ASD(自閉症スペクトラム障害)やADHD(注意欠如多動性障害)、LD(学習障害)などがあります。
こうした発達障害の問題として、対人関係やコミュニケーションの困難さ、不注意や落ち着きのなさ、読み書き計算の困難さなどが特徴(特性)としてあります。
それでは、発達障害「グレーゾーン」とは一体どのような特徴があるのでしょうか?
そこで、今回は、発達障害「グレーゾーン」とは何かについて、臨床発達心理士である著者の経験等も踏まえて理解を深めていきたいと思います。
今回、参照する資料は「林寧哲・OMgray事務局(監修)(2020)大人の発達障害 グレーゾーンの人たち.講談社.」です。
発達障害「グレーゾーン」とは何か?
以下、著書を引用します。
医療機関で「発達障害の傾向がありますね」などと診断された人たちがいます。発達障害の「傾向」とは、発達障害とはいえないが、健常でもない、その中間だという診断です。このゾーンをグレーゾーンといいます。
著者も発達障害傾向といった言葉をよく聞きますが、こうした発達障害と健常の中間に位置する人たちが「グレーゾーン」ということになります。
「グレーゾーン」の主な特徴として、なんとなくうまくいかない、生きづらいといった漠然とした感覚です。
これは、特性が明確でない(行動としてグレーな状態)ために生じるものですので、できる部分も多くあるが故の自己理解の困難さでもあります。
以下、引き続き著書を引用します。
「グレーゾーン」とは、「発達障害の診断が定まらない人」という意味だけではありません。「環境への適応がいいときと悪いときの両方がある人」という意味もあります。
著書の内容から、環境への適応が良い時と悪い時の両方を有しているといった特徴もあります。
発達障害は、個人因子と環境因子の相互性によって困難さや問題などが規定されます。
つまり、生まれ持っての特性といった個人因子に対して、学校や友人関係、家庭環境、職場環境などといった環境因子の違いによって、発達障害「グレーゾーン」の特性があっても、うまく環境に適応できる場合とそうでない場合が出てきます。
例えば、発達障害「グレーゾーン」の特性があっても、職場に良い相談相手(理解者)がいれば、特性によるマイナスをカバーしてもらえたり、時には、特性が強みとして発揮されることもあります。
このように、発達障害「グレーゾーン」とは、もともとの発達特性があることに加えて、それが個人因子と環境因子の相互性によって、発達障害から健常のゾーンにまでまたがる範囲を指すものだと言えます。
そして、発達障害「グレーゾーン」には、発達障害傾向に加えて、適応障害が見られるものだと考えられています。
関連記事:「【発達障害「グレーゾーン」と適応障害の関連について】療育経験を通して考える」
著者の体験談
著者の周囲にも、これまで発達障害があるとまではいかないけれども、発達障害「グレーゾーン」なのではないかと感じた人たちがいました。
こうした人たちに共通する特徴として、非常に分かりにくいといった印象がありながらも、困り感・生きづらさを抱えているというものです。
また、できる部分とそうでない所のギャップが激しいといったケースもあります。
できる部分が多いと、そこにつられてできない所もできるようになると思ってしまうことがあります。
もう少し具体的に見ていきましょう。
成人男性のAさんのケースです。
Aさんは、専門職として高い技能を有するといった強みがありながらも、人との会話や距離感などが難しい面があります。
一方で、対人面に困難さを抱えながらも、何となく他者と関われている、何となく他者とやり取りができているといった印象もあります。
また、専門職として、社会の中で自分の力を発揮できている所があるため、周囲からは苦手な面が見えることは少ないのですが、問題は本人が周囲が思っている以上に、主に対人面において困難さを抱えているといった事実があります。
幸い、Aさんの周囲にはAさんが苦手とする対人面を調整してくれる方がいるため、目立った障害とはなっていません。
このように、Aさんのケースを取ってみても分かるように、発達障害「グレーゾーン」は、周囲の環境も大きく影響して、その特性が障壁となるかそこまで目立たないかには個々によって幅があると言えます。
以上、【発達障害「グレーゾーン」とは何か?】著者の経験を踏まえて考えるについて見てきました。
発達障害「グレーゾーン」は、発達障害への社会的理解が進んだことが影響して、認知度が高まったとも言えます。
そして、発達障害「グレーゾーン」にいる人は、周囲が思っている以上に苦労されているケースが多いのではないかと思います。
その理由として、境界ラインにいることでの困り感の分かりにくさが影響しているのだと思います。
私自身、今後も発達障害まではいかないにしても(特性からくる困難さが明確でなくとも)、グレーな部分がある人への理解も深めていきながら、発達の多様性への視点をさらに磨いていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
発達障害「グレーゾーン」に関するお勧め書籍紹介
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林寧哲・OMgray事務局(監修)(2020)大人の発達障害 グレーゾーンの人たち.講談社.