私がいた療育施設では多くの遊びを行っていました。日々遊びをしていくなかで徐々に遊びのレパートリーが増えていきます。
その中には、体を使った遊び、感触遊び、製作遊び、ルールのある遊びなど、ジャンルを分けることもできます。
そうした遊びの中でも、取り組みやすいものとそうでないものがあります。準備に時間がかかる、あるいは、なかなか子どもたちが興味を示さないなど、取り組みにくさにも色々と要因があります。
そこで今回は「ダンス遊び」を例に取り、取り組む上で難しかった点や工夫した点などをお伝えしていこうと思います。
「ダンス遊び」とは、曲に合わせて振り付けなどをして踊るというものです。
「ダンス遊び」は、シンプルですが、頭にイメージ(音と視覚)したものを体で表現するという、イメージと動作という両面の能力が必要です。その前段階だと、大人の真似をして踊るという模倣の力が必要です。見たもの(見ているもの)と聞いた音とを、動作と連動させる能力が必要です。
私がいた療育施設には、運動発達の遅れや、知的障害、自閉症など、曲に合わせて体を動かすことが難しいお子さんたちが多くいました。それは、イメージが難しい、注視するのが難しい、音を聞き取るのが難しい、身体を動かすことが難しいなど、個人間差(人と人との差)や個人内差(その人の中での差)が大きく見られました。
私は「ダンス遊び」の導入として、子どもたちが好きそうな曲に合わせて、まずは踊ってみせるということをします。なんでもそうですが、まずは大人がやってみせます。
例えば、「アパンマン体操」であれば、アンパンマンの衣装を着て、曲に合わせて子どもたちの前で踊るという感じです。
そして、クラス全員で踊るという時間をその後に設けます。こうした「ダンス遊び」を月に何度かやるという流れです。多い時には毎日やっていた週もありました。
何でもそうですが、継続することで、少しずつ変化がでてくることが多いので、まずは、どういったものをよく見るのか、どういった音をよく聞くのかなど子どもたちの興味関心などを探る必要があります。
「アンパンマン体操」以外にも、忍者のダンスや、エビカニクスなど、色々と試しながらクラスで楽しめそうなものを探しました。何かクラスでブームができれば面白い!という感覚でやっていました。
子どもたちの様子も様々です。非常に意欲的に取り組み、遊びが終わった後にも自主練をする子、保育者の動きをじっと見ている子、時間が少したってから踊る子、ある部分だけ踊る子、楽しそうに手足を動かす子、あまり関心のない子など、子どもによって様々です。
私はこうした子どもたちの様子から、「ダンス遊び」という遊びそのものの難易度が高いと感じ、次のことを試しました。
それは振り付けを入れないというものです。つまり、曲に合わせて走る、歩くなどの動作でいいものを考えました。そういった意味では、「ダンス遊び」というより「リズム遊び」と言えます。
最初に試したのは、「さんぽ」です。この曲は子どもに人気でしたし、曲に合わせて歩くだけで気持ちがよくなります(個人的な感想です)。そこで、曲がなったら歩く、曲が止まったら止まるという遊びを大人がモデリングしながらやってみました。
するとこれまで「ダンス遊び」に関心がない、あるいは、ほとんどない子が、意欲的に取り組むようになりました。中には他児と手を繋いで歩く子もいました。
次に試したのは、歩くスピードの緩急がうまくつけれる曲を選びました。曲のテンポがゆっくりの時には、歩く、テンポが速くなると走るといった感じです。
これも子どもたちは喜んで取り組みました。中には、テンポが速くなったところが好きで、その時に急に参加してくる子もいました。
このようにイメージや模倣、動作が難しい場合には、曲に合わせて、動く、止まる、走る、など単純化した遊びにしていくことで子どもたちの参加が増えると思います。
こうした遊びは「ダンス遊び」から少し遠いように思えますが、音を意識しながら動くという意味では、音と動きの学習に繋がるのだと思います。そして、大人や他児の動きも見るため、見て動くという学習にも繋がると思います。
こうした遊びを私は「ダンス遊び」から「リズム遊び」と置き換えて保育計画に書くなどしてよく取り入れるようにしました。なにより、「リズム遊び」はクラスの多くの子どもたちが楽しめたものだったと思います。
このように発達につまずきのある子どもたちにとって、「ダンス遊び」は思いのほか難しいものです。中には好きな子や得意な子もいますが、クラスの子どもたちの個々の能力や興味関心に応じて、柔軟に遊びの大枠の設定変更も必要かと思います。私もその年度受け持つクラスの子どもたちに応じて色々と試行錯誤してきました。
今後も、様々な遊びを通して、子どもたちの興味関心を高めることができるように、その子に合った遊びを考えていきたいと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。