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両義性

療育現場で両義性を理解して関わることの大切さについて-子どもの「なる」を育てるために-

投稿日:2022年6月21日 更新日:

 

「両義性」とは、あちらをたてればこちらがたたずといった相反する状態のことを言います。

療育現場で子どもたちと接しているとこうした相反する心理状態に向き合う場面に出会います。

例えば、一人でやりたいがうまく行かない、大人に助けてもらいたが助けてほしくないなどです。

 

関連記事:「療育現場での両義性について考える-自己充実欲求と繋合希求性の視点から-

 

それでは、こうした両義性ですが、子どもの成長においてこうした心情を受け止めることが大切だとされています。

 

今回は、著者の療育経験も踏まえ、子どもの「なる」を育てるために両義性を理解して関わることの大切さについてお伝えします。

 

※この記事は、臨床発達心理士として10年以上療育現場に携わり、修士号(教育学・心理学)を有する筆者が執筆しています。

 

 

今回、参照する資料は「鯨岡峻(2006)ひとがひとをわかるということ:間主観性と相互主体性.ミネルヴァ書房.」です。

 

 

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子どもの「なる」を育てるということ

以下、著書を引用して考えていきます。

子どもと養育者の関係において、子どもを「である」の位相でしっかり受け止めていると、いつしか子どもの側が養育者のありようを取り込むようになり、それによって「なる」の芽がおのずから芽吹いてくるところにある(略)あるがままを受け止めてもらうことによって、子どもの内部に「なる」ことへと向かう力がおのずから生まれてくる

 

著書の内容から、子どもを一人の主体としてその子の両義性の心情を養育者がしっかりと受け止めることで(「である」を受け止める)、子どもの内部から「なる」といった意欲が生じてくると言えるかと思います。

つまり、その子のあるがままの心情(良いも悪いも)をしっかりと受け止めることで、次の「なる」といった心情が芽生えてくるということです。

 

 


それでは、著者の療育経験から、両義性を受け止めることから子どもの「なる」が育った事例についてお伝えします。

 

著者の経験談

Aさんは、大人との関わりを強く求める一方、工作など自分の力で完成させたいといった思いのあるお子さんです。

以前のAさんは、とにかく一人で工作をやろうとするもイメージ通りのできずに癇癪を起こす場面が多くありました。

癇癪を起こしながらも、信頼できる大人にその気持ちをぶつけるなど、「何とかして欲しい」、「なんとか自分の思いを受け止めて欲しい」といった心の声が未熟な著者にはそう聞こえました。

癇癪を起こしながらも、Aさんの思いを受け止めじっくり関わる中で、Aさんは一人で工作ができる所が増えていきました。

Aさん自身の能力を見ると、認知能力(考える力・イメージする力など)の向上や手指の運動の発達が寄与し、工作が一人でできるようになった部分もあります。

一方で、こうした能力の発達だけではなく、できないあるがままのAさんを我々スタッフがしっかりと受け止め続けたことで、次の「なる」といった心情が芽生えてきたことも大きな変化だと言えます。

つまり、能力の成長だけではなく、心の成長もしているといった点が今回お伝えしたかった大切なポイントになります。

その後のAさんは、成長と共にさらに複雑な感情を抱くようになりました。

そして、こうした複雑な感情を我々スタッフは支えることを継続しています。

こうした感情は両義性でいうと、とても複雑になっているとも解釈できますが、その分、心の成長は大きく見られているように思います。

 


療育現場には、Aさんのように発達に躓きのあるお子さんたちが多くおります。

こうしたお子さんたちも能力の成長だけではなく、両義性の心情を抱きながら、それを大人が受容し応援していく中で、心の成長も見られます。

子どもたちの心情は、明確にこれといった感情を言い当てられない複雑な状態のこともよくあります。

そして、そのような時に両義性の心情が出ているケースもあるかと思います。

こうした両義性をしっかりと受け止め、次の「なる」とった子どもたちの成長に携わっていけるように日々の実践を今後も大切にしていきたいと思います。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

 

鯨岡峻(2006)ひとがひとをわかるということ:間主観性と相互主体性.ミネルヴァ書房.

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