著者は長年、発達に躓きのある子どもたちと関わってきています。
長年の療育を通してよく考えるものに、療育において何を目指していけば良いのか?といったものです。
もちろん、関わる子どもたち一人ひとりは違いますので、10人いれば10通りのゴールがあるということになります。
こうした個別性について考えていくことは必要不可欠ですが、10人すべておいて共通するゴールは何かということも考えていく必要があると思っています。
そこで、今回は著者の療育経験も踏まえ、療育の目標についてお伝えします。
今回、参照する資料は「平岩幹男(2012)自閉症スペクトラム障害:療育と対応を考える.岩波新書.」です。
療育の目標について
著書の中ではASDを取り上げており、以下の2点を最終目標としています(以下、引用)。
ASD、特に高機能自閉症や高機能化したカナー型の自閉症を抱えている場合の目標は、自分に自信の持てる状況、すなわちセルフ・エスティームの高い状況にするということです。(略)もう一つは、社会で生きていけるようにすることです。これは社会の枠組みの中で生きていくスキルや社会生活習慣を身につけることだけではなく、自分で稼ぐことが含まれます。
著書の内容では、療育の目標は、セルフ・エスティーム(自尊心・自己肯定感)を高い状態にすること、そして、社会の中で生きていく力を身につけるといった2点を挙げています。
また、著書では、ASDを中心に取り上げていますが、この内容は発達障害全般、そして、定型児における関わりでも共通のものだと思います。
この2点の内容を深堀していくと、非常に広い意味として捉えることができます。
それでは、それぞれについて見ていきます。
セルフ・エスティーム(自尊心・自己肯定感)について
セルフ・エスティームは、自分に対する自信のことを指します。
関連記事:「療育で重要なこと-自尊心・自己肯定感の視点から考える-」
著者は長年の療育経験を通して、対人・コミュニケーション能力や、認知能力や運動能力の向上など、様々な視点から療育の重要性を考えてきました。」
こうした様々な能力を高める取り組みを本人の興味関心を活用して段階を踏んで学習していけるようにサポートしていくことはとても大切なことです。
また、発達特性の面から苦手な所をサポートし、後々、本人自ら特性への自己理解を通して、自分で自分の環境を整えていく能力を育むこともとても大切です。
このように個々の能力や能力間の繋がり、そして、発達的視点をもって個別の能力間がどのように時間軸の中で影響しながら変化していくのかを考え支え、伸ばしていくことは重要です。
こうした個別のサポートを通して、一貫して大切だと思うのは、セルフ・エスティームを高い状態に保つということです。
個別の能力を伸ばすにせよ、苦手な所をサポートするにしても、しっかりと相手の良さや大変な中での頑張りを認識し褒めるということは、療育で関わる人すべておいて必要なものだと実感しています。
セルフ・エスティームの高さは、後の行動や日々の生活に多きく影響を与えるからです。
社会で生きていけるようにすることについて
様々な著書の中もあるように、療育とは、社会の中で自分の力でやっていく能力を育むことです。
この自分の力とは、できない所を人に頼る力ももちろん含まれます。
そのため、自分で稼ぐ力といっても多様な働き方が出てきます。
重要なことは、社会の中で他者の力をかりながら、自分でできるところは自分でやっていくということだと思います。
そのためには、日々の生活習慣を整えることや、様々な社会的スキルを身につけていくことも大切です。
関連記事:「自閉症療育で大切な視点-社会参加に必要な能力:「自律スキル」と「ソーシャルスキル」-」
そして、さらに著者が大切だと考えていることは、生きがいや、やりがいなどがその人の人生においてあるかどうかだと思います。
○○さんにとって、●●している時が楽しい!
○○さんにとって、●●をモチベーションに日々を生きている!
○○さんにとって、●●をしていることにやりがい感じる!
など、様々なものがこの●●の中に入るかと思います。
療育では、こうした●●という経験をつくること、または、一緒に探すことも重要だと思います。
生きがいややりがいがあれるとその人の人生は大きく変わります。
その内容や大小などは周囲との比較ではなく、その人にとっての価値がとても大切です。
今後も療育を通して、セルフ・エスティームを高める関わり、社会の中で生きていく力を育む関わり、そして、その人なりの生きがいややりがいのあることを一緒に共有したり、探したりできればと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
平岩幹男(2012)自閉症スペクトラム障害:療育と対応を考える.岩波新書.