療育の現場で、発達につまずきのある子どもたちを理解し支援していく過程において、何が療育の成果であったのかを特定することは難しいことです。
その難しさには、様々な要因が絡んでいるからです。
例えば、本人の成熟の要因があり、成長するに伴って理解力などが向上したことによる変化、また、環境要因など本人が過ごしやすい、あるいは学習が促進されやすい環境が整備されたことによる変化、そして、成熟と環境の両方による変化などが考えられます。
こうした複合的な要因が子どもの発達に相互的に関連しているため、療育による成果は、子どもの発達のどういった部分について、どのくらいの期間に誰が、どのように働きかけをしたかなど、アセスメントと支援計画とその実施、支援過程の中での変化などを見ていく必要があるため簡単ではありません。
むしろ現場は複数の子どもたちがいて、その都度、子どもたちに変化が生じます。ですので、想定外のことが多く起こるのも特徴としてあります。その中で、療育の成果を把握することは非常に難しいことだと常々感じます。
そうした中で、私自身、長年療育現場に勤めている中で、療育の成果をどのように捉えてきたのかを考え続けています。その中で、大切にしている視点を今回は以下の3点にまとめました。
療育の成果を捉えるために大切な3つの視点
1.子どもたちの変化をよく観察すること
まずは、変化に気づかなければ何も始まりません。そのためには、行動や言動などをよく観察することです。
現場では、どうしても子どもたちの問題行動に気がいってしまいます。それも当然で、リスクを防ぐこと、安全を確保することが非常に重要なため、成長や変化とったポジティブ要因は思いのほか気づきにくいといったことがあります。
変化に注意を向けるという意識と、それを言葉にするという作業がまずは始まりとしてあります。
2.変化した要因を考えてみること
ここには様々な要因が想定されるため、経験や知識など多くの引き出しを作っていくことが大切です。また、冒頭でお伝えした、本人の成熟の問題もあるため、私たち大人の支援だけでは変化したと言い難いものもあるため、要因の特定は難しいです。
重要なことは、変化の要因を仮説としてとにかく多く出していくことだと思います。
問題行動などネガティブ要因についてはよく現場では議論されるかと思いますが、ポジティブ要因についての議論は少ない印象があります。また、問題行動が軽減されるとある種の安心感から、その要因を考えることが少ない印象もあります。そうなると、「○○くんは最近変わりましたよね」ということだけで終わってしまいます。
変化の過程を考えることは自分たちの取り組みの成果に直結する視点の獲得にもなりますので、もしこの作業がうまく循環すると療育の成果と言えるものが出てくるかと思います。
3.観察し考えた内容を他の職員と共有すること
最後に、観察し考えた内容を他者の視点も交えながら議論を重ねていくことです。この議論は成果に繋がるものですので、楽しく行うことができるかと思います(時間の制約もありますが)。
そして、現場での子どもたちの変化は現場に携わる大人の実感が必要不可欠ですので、議論の中での相互の納得感が大切です。
以上、3つの視点から、療育の成果を捉える視点について述べてきました。
私自身も現場にいると問題行動にばかり目がいってしまい、ポジティブな変化などへの気づきが少ないように感じています。そのため、時には、あえてポジティブな変化を徹底的に考え抜くことも大切だと思っています。
事例紹介
最近感じたあるお子さんのポジティブな変化についてお伝えしていこうと思います。
小学校の中学年女子のAちゃんは、低学年のBちゃんの行動が気になり、Bちゃんが近くに来ると、「くるな!」と怒鳴る様子がありました。
こうした行動は以前から見られるもので、考えられる要因としては、AちゃんはBちゃんの行動の意図がうまくつかめずに、近くにくると何をされるのかがわからないという不安からくるものだと思いました(仮説です)。
こうした情報を他の大人とも共有し、とにかく大人が慌てずに冷静に対応し、Bちゃんの行動の意図などをAちゃんにもわかるように大人が言語化していくことにしました。
それから、数か月が経ち、先日の活動内で、Aちゃんは近づいてくるBちゃんに優しく声をかける様子がありました。
こうした変化は急激なものではなく、少しずつ二人の距離感が近づいてきたものから変化の兆しは見えていました。
私はこうした変化を嬉しく思い、その要因を考え、他の職員と共有しました。
その中で、有力だったものに、Aちゃんは自分が他児に関わるときなど、関わり方が分からない時など、大人の表情をみることが多くありました。
対応策として考えていた、大人が冷静に対応している様子を見せながら、行動の意図を言語化してきた繰り返しが、AちゃんのBちゃんへの関わりを変えたものになったということで納得感を得ることができました(私も他の職員も)。
著者のコメント
こうした変化などは、現場で少なからずあることかと思います。
ですが、話題として変化の要因まで考え議論するということは少ないのではないかと思います。気になる行動がポジティブに変化、あるいは減少すると、人は当時の気になっていた行動の記憶を忘れ、次の問題へと向かっていくのだと思います。
それはそれとして、自然なことかと思いますが、療育の成果とは、こうした小さな変化を見逃さずに、変化の要因を挙げて、他の職員と考え抜くことの積み重ねで見えてくるのではないかと思います。
忙しい現場で、こうした時間をとることは難しいと感じる一方で、こうした思考や議論を重ねることで個人やチームが成長し、療育の成果を深めていけるのではないかと思います。
私自身、まだまだ未熟な中で、今後、以上述べてきたことを少しでも実行し、療育の成果について考えを深め、他の職員と喜びを共有していきたいと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。