発達理解・発達支援・ブログ

人間の多様な理解と支援を目指して!

自尊心 自閉症

自閉症療育で大切な視点-自尊心について-

投稿日:2022年4月28日 更新日:

著者は、様々な療育現場で発達に躓きのある子どもたちと関わってきています。

療育では、〝発達特性”の理解や配慮、将来を見据えた理解と支援といった〝発達的視点”、さらに、ソーシャルスキルトレーニングやペアレントトレーニング、認知行動療法、感覚統合療法など様々な療育方法があります。

こうした様々な取り組みの中で、大切な視点として、「自尊心」を育てることがあります。

 

それでは、そもそも自尊心にはどのような意味があるのでしょうか?

また、自閉症児の自尊心を育む上で、どのような視点が大切だと考えられているのでしょうか?

 

そこで、今回は、自閉症療育で大切な視点について、自尊心の持つ意味と、自尊心に影響する4つの要因について理解を深めていきたいと思います。

 

 

今回、参照する資料は、「別府哲・小島道正(編)(2010)「自尊心」を大切にした高機能自閉症の理解と支援.有斐閣選書.」です。

 

スポンサーリンク

 

 

自尊心とは

以下、著書を引用しながら〝自尊心“とは何かについて見ていきます。

自尊心とは、自分自身のことを価値ある存在と認識することである。

 

自尊心は本人の考え方や感情が反映される心理的機能であるので、支援に関わろうとする場合には、まずはより深くその対象となる子どもの内面世界を知ろうとする姿勢が欠かせないのである。

 

著書の内容から、〝自尊心“とは、〝自分自身を肯定的に受け止めること“だと言えます。

そして、自尊心を育てるためには、相手の心情を深く理解していくことが重要だと考えられています。

もちろん、自尊心を育てると聞けば、多くの人が漠然とは大切だと感じていると思います。

一方で、自尊心といった概念はとても抽象的ですので、さらに具体的な理解が必要だと言えます。

 

 


そこで次に、〝自尊心“にはどのような要因が影響しているのかをさらに詳細に見ていきたいと思います。

 

自尊心に影響する要因について

著書の中では自尊心に影響を与える要因として以下の4つがあると述べています(以下、著書引用)。

①重要な他者からの評価、②他者との比較、③理想自己と現実自己との差、④失敗及び成功経験

 

 


それでは次に、これら4つについて説明していきます。

 

①重要な他者からの評価

幼い子どもの価値判断は、大人のまなざしや言葉がけなどの評価軸が重要な要素を占めます。

特に親など重要な他者からの評価は子どもの自尊心に大きく影響します。

特に小学校低学年までは大人の存在が重要ですが、中学年以降になると徐々に友人関係へと重要度が移行していきます。

支援において大切なことは、自閉症の特性を理解していきながら、肯定的に関わることです。

それは、言葉がけや態度などから伝えていくことも併せて重要です。

 

 

②他者との比較

人は社会的な生き物ですので、少なからず他者との比較をする部分があります。

そのため、他者との比較により、自分を評価し、自尊心が下がったり上がったりすると言えます。

 

この点について、以下に著書を引用しながら見ていきます。

①と②は、いずれも他者との関係性に関わる要素である。つまり、自尊心はその個人が単独で育むものではなく、他者とのかかわりのなかで、形成されていくものであるといえる。

 

支援において大切なことは、自閉症の場合には、他者の意図の理解が難しい面あり、また、ある内容に固執する傾向があるため、こうした特性を理解しながら、本人が理解しやすい伝え方などを工夫しながら、他者との比較ではなく本人の頑張りを認め・褒めることが大切です。

 

 

③理想自己と現実自己との差

人は「こうなりたい」といった理想の自己と、現実の自己があります。

理想の自己を目指していく過程で、うまくいったり、いかなかったりします。

それによって自尊心も高低します。

支援において大切なことは、自閉症の人が、無理な理想の自己像を描くことで、過剰適応になったり、自分を嫌いになったりすることを避けるような予防的な関わりが必要です。

また、本人の得意を周囲が理解し、それを伸ばす関わりも大切です。

 

 

④失敗および成功体験

人は成功体験を重ねることで自尊心をさらに高めていくことができます。

もちろん失敗体験もその過程には必要です(避けられない部分があります)。

支援において大切なことは、自閉症など発達に躓きのある子どもは、対人面など様々な場面で失敗経験を多く体験してしまうことがあります。

そのため、自閉症の特性を理解し、特性への配慮をしていきながら、成功体験を多く作っていけるように環境を調整していくことが必要です。

 

関連記事:「自閉症の療育-思春期前後で大切にしたいこと-

 

 


以上、自閉症療育で大切な視点-自尊心について-見てきました。

著者も、これまでの療育経験を振り返って見ても、先に見た4つの要因はとても大切だと感じています。

つまり、重要な大人や他児からの評価、自分の良い所・がんばりなどを認められた体験、理想と現実の中で自分を肯定できること、多くの成功体験を重ねることが大切だと言えます。

自閉症は、発達特性の影響から周囲の世界の捉え方が独特なため、それが、対人面や自他理解に影響します。

自閉症の人の世界を理解していくことは、今回取り上げた「自尊心」を育む支援に繋がっていきます。

私自身、今後も自閉症への理解をはじめ、様々な子どもたちに対して、より広く深い発達理解をしていきながら、より良い支援を目指していきたいと思います。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

 

 

別府哲・小島道正(編)(2010)「自尊心」を大切にした高機能自閉症の理解と支援.有斐閣選書.

スポンサーリンク

-自尊心, 自閉症

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

【弱い中枢性統合仮説とは何か?】自閉症の特徴について考える

自閉症(自閉症スペクトラム障害:ASD)とは、対人コミュニケーションの困難さとこだわり行動を主な特徴とする発達障害です。 自閉症には様々な行動面や心理面の特徴があると考えられています。 中でも、中枢性 …

【自閉症児の集団遊びで身に付く力とは?】療育経験を通して考える

自閉症(自閉スペクトラム症:ASD)とは、〝社会性の障害″〝コミュニケーションの障害″〝こだわり行動″を特徴とする発達障害です。 自閉症の子どもたちは、上記の特徴が背景となって、〝集団遊び″に難しさを …

【自尊心とレジリエンスの違いとは?】療育経験を通して考える

療育において、子どもの〝自尊心″を育むことはとても大切なことです。 〝自尊心″とは、自分に対する自信や自分を大切に思える感情のことを言います。 一方で、〝レジリエンス″といった立ち直る力を育てていくこ …

自閉症の実行機能について:実行機能の3つの要素と療育での困難事例を通して考える

自閉症を理解する上で、様々な視点があります。 その中には、相手の意図や信念を理解する能力の「心の理論」の困難さや、全体よりも細部にこだわる「弱い中枢性統合」や、感覚の過敏さ・鈍感さなどがあります。 さ …

自閉症児の愛着形成について【認知能力との関連から考える】

愛着とは特定の養育者との情緒的な絆のことをいいます。 自閉症児においても安定した愛着形成は可能です。   関連記事:「自閉症児との愛着形成は可能か【定型児との違いはあるのか?】」 &nbsp …