療育(発達支援)の現場には、発達に躓きを抱えている様々な人たちがいます。
最近、発達障害という言葉が我々の社会の中で非常に浸透し始めています。
発達障害とは、先天性の脳の機能障害によって発達期からその兆候が出始め、様々な発達特性などから社会の中で生きにくさを抱えるもの(=障害)とされています。
しかし、発達に躓きが合っても環境要因によって、その躓きから生じる困難さの程度には非常に個人差があります。
発達障害があるといっても一様な困難さがあるとか、○○の特性には○○の支援方法が有効などといった直線的な理解はできません。
また、○○の障害は、脳の○○の部分と関連がある、○○の脳の部分は心の○○に影響するなど脳と心の関係から発達障害を理解しようとする研究知見も多く存在します。
一方で、人は様々な環境との関わりの中で日々を生きています。
そうした環境や社会との関係の中で生きにくさや困難さが生じる、つまり、生活の中で生じる困難さを理解することが障害を理解することにおいてとても重要です。
さらに、時間軸の中で人は発達するという理解も合わせ重要です。
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著者は療育経験を通して、生活上の困難さを軽減すること(=生活障害を軽減すること)が療育においてとても大切だと感じています。
今回は、著者の療育経験も踏まえて、生活障害の視点から療育の大切さについてお伝えします。
今回、参照する資料は、「下山晴彦(監修)(2018)公認心理師のための「発達障害」講義.北大路書房.」です。
生活障害という視点の大切さについて
以下、著書を引用します。
生活上の困難さを抱える子どもたちにとって大事なことは、日々を落ち着いて、安心して生活していくことであり、支援者はそれを応援するべきではないかと思います。これは臨床の基盤をなし、だからこそ、発達障害は生活障害であるという視点を大事にしたいと思っています。
発達障害を生活障害と捉えることの重要性を指摘している方は非常に多くいます。
冒頭にも記載しましたが、生活障害とは、生活の中で生きにくさを抱えている状態のことを指し、その内容や程度は当然ですが個人差があります。
引用した著書の内容も踏まえると、療育において大切なことは、発達障害は生活障害であるという捉え方をすることであり、それは、日々の生活を安心して過ごせるようにサポートすることだともいえます。
療育(発達支援)において、発達障害など発達に躓きのある人たちを何か特別な支援方法でサポートすることも場合によってはあるかもしれませんが、あくまでも、日々の過ごしを安定させることが優先順位として高いものだと思います。
著者もこれまでの療育経験から、支援において大切なことは、何か特別な方法をとったというよりも、日々の子どもたちの悩みに寄り添い、やりたい活動を考えるといった関わりを続けたことが支援において必要不可欠なことだと実感しています。
それは、つまり、生活上の困難さを理解し、地道な支援を継続すること(生活障害への理解と支援)であると言い換えることができると思います。
それでは、次に著者の療育経験を通して、さらに具体的に生活障害の視点から療育の大切さについてお伝えします。
著者の体験談
小学校中学年のA君は、学校で友人がなかなかできずに、それも原因となってか、なかなか自分に自信が持てないお子さんでした。
我々スタッフは、療育現場から、A君の好きな遊びを通して、他児と関わる経験を多く持てるように支援を継続してきました。
その際に、A君の発達特性を踏まえた配慮も合わせて行ってきました。
A君は、日々の生活によって気持ちの変動もありますので、こうした気持ちの変動の理由を、我々スタッフは理解(あるいは予測)して関わることを心掛けてきました。
例えば、学校のお迎え時に、元気がないと何か落ち込むことがあったのではと本人の気持ちに寄り添いながら、その日の活動内容や声掛けなどを工夫してきました。
こうした取り組みを継続した結果、A君には親しい友人ができ自信を持って活動に参加する様子が非常に多くなりました!
A君と関わった数年間の経験から言えることは(もちろん他の事例も多くあります)、発達障害の特性の理解や配慮は必要不可欠でありながらも、日々の生活を支えるということが非常に大切であると実感しています。
むしろ、こうした生活を支えるということがベースとなり、その中で細かな特性への配慮を行ってきたという感じが強くあります。
療育で大切な視点としては様々な内容があるかと思います。
その中で、今回は生活障害の視点からその大切さをお伝えしてきました。
繰り返しになりますが、発達障害への支援は何か特別な方法によって行うというよりも、日々の生活を支えるということがとても大切です。
その上で、必要であれば特別な支援なども行っていく必要あると思っています。
私自身、子どもたちが日々の生活を安心して過ごすことができるように、今後も、子どもたちの状態の変化を理解(予測)しながら、生活上の困難さを軽減していけるような関わりをしていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
下山晴彦(監修)(2018)公認心理師のための「発達障害」講義.北大路書房.