医療や看護、教育など様々な分野で実践の根拠を求められることが増えています。
よく耳にするようになった、根拠のある医療、根拠のある実践などエビデンスに基づくというワードのことです。
人は(特に専門家)は、自分たちの取り組みがしっかりと根拠に基づいて行われているのか、そして、その取り組みが成果を上げていることに繋がっているのかを意識します。
それは著者の療育(発達支援)の現場においても同様に必要な考えです。
著者は、発達に躓きのある人たち(発達障害など)の療育に携わっていますが、職場内でも根拠というワードを耳にする頻度が高まっているように感じます。
その発信は、特に若いスタッフの方から高まっている兆しがあるように思います。
果たして療育現場で根拠のある支援はどのように行えばよいのでしょうか?
今回は、著者の療育経験を通して、根拠のある支援の難しさと必要性についてお伝えします。
根拠のある支援の難しさについて
療育とは、教育的側面と治療的側面の両者を兼ね備えています。
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非常に難しいのは、教育的な観点です(著者が関わる比重が多いため)。
教育は10人いれば10通りの教育があると言われているように、やり方も多様であるということです。
さらに、教育の成果がほんとうにその教育単独の効果なのか、他の要因の効果なのか、両者の相乗効果なのかの見極めが困難なことも難しさの要因としてあります。
さらに、教育の成果(効果)は、短期で成果がでるというよりも、長期的な視座に立って成果がでるものも多いため、時間を要するということがあります。
以上、根拠のある支援の難しさとして、療育内容・方法の多様さ、療育の成果を測る指標には多くの要因が混在していること、療育の成果には時間がかかること、などが挙げられます。
それでは次に、療育現場で根拠のある支援を行う必要性についてお伝えします。
根拠のある支援の必要性について
前述した、根拠のある支援の難しさを見ても、療育現場で根拠に基づく支援をすることはとても大変だと実感しています。
それでも、著者は支援の根拠をつくる必要性があると考えています。
その理由が、①経験の少ない人でも意見が通りやすくなる(考えやアイディアを提案できる)、②根拠の蓄積が専門性を向上させる、③新しい事例において有効活用できる、などがあります。
それでは、それぞれ見ていきます。
①経験の少ない人でも意見が通りやすくなる(考えやアイディアを提案できる)
経験の多い人の意見が通りやすくなるということは、どの職場にもあるかと思います。
経験年数の多い人の意見が強くなってしまうことは、現代社会には多く見られますが、大切なのは、議論の中に多様な考えを作ることです。
それは、現場に関わる人の肌感覚かもしれませんし、外部の情報を学んだ知識からもしれません。
支援の根拠を作る際には、経験の浅いスタッフの漠然とした感覚や問いがとても役に立つことがあります。
そして、経験に頼らない新たな知識の活用も大切です。
人は日ごろの習慣に慣れると、同じ考えや行動をとるようになり、気づくと知識をアップデートしない状態に陥ることがあります。
新しいスタッフの意見や新しい知見を現場に取り入れることは、経験値のみに頼っている状態から脱却する大切な方法です。
②根拠の蓄積が専門性を向上させる
根拠に基づいた支援が現状では難しくとも、少しずつ根拠を作っていくことはできると思います。
根拠をつくるためには、1.仮説思考と2.長期の実践を振り返る、ということが重要です。
1.仮説思考とは、今持っている情報からおそらく○○であろうと予測を立てることです。
例えば、Aさんの○○の行動の原因は○○だろう、Aさんの現状は○○だから、おそらく今後は○○の関わりや○○の支援が必要だろう、などの思考を働かせることです。
仮説思考においてとても大切なのは問いを持つことです。
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こうした仮説思考を通して、積み上げてきた2.実践を長期のスパンで振り返ることもとても大切です。
振り返り方は、何か特定のデータを取っていればそれを活用すれば良いし、ある期間を区切ってエピソード的に変化とその要因を振り返ることも可能かと思います。また、個別支援計画を活用することも大切かと思います。
その際に、大切なのは他者の視点も交えるということです。
支援の成果をはかるためには、他者とその成果を共有することで客観性の質を高める必要があるからです。
③新しい事例において有効活用できる
様々な根拠のある実践は、次の新規なケースのヒントになります。
特に支援が難しい困難なケースなどに対応できたという実践例は、新しい事例においてとても役立ちます。
著者も現場で多くのことを学んだというケースは、特に難しい事例が多かったという印象があります。
例え、一つの事例であっても、他に応用できる様々な視点がある場合があります。
こうした知見をたくさん積み重ねていき、次の事例に活用できている職場はとても専門性のある職場であると感じます。
以上、根拠のある支援の難しさと必要性について著者なりの考えを述べてきました。
こうして振り返ってみると、私自身、まだまだ取り組み不足・力不足であると感じます。
一方で、まだまだやれることがある・成長できる期待もあります。
今後も療育の現場から、支援の根拠の質を高めていけるように、多様な考えを取り入れていきながら、問いを持ち続け、長期のスパンにわたる実践と振り返りを大切にしていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。