特定の感覚に過敏さを示す状態を感覚過敏と言います。
そして、感覚過敏があることで日常生活の生きにくさが生じている人たちが多くいます。
著者は、療育現場で発達に躓きのある子どもたちを支援していますが、その中に、感覚過敏の子どもたちは多くおります。
一方で、感覚過敏といっても、その表れ方(例:視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚など)は様々です。
感覚過敏への対応として大切なことは、苦手とする感覚への配慮です。
例えば、聴覚過敏があれば、苦手な音と距離を取る、イヤーマフで苦手な音を遮断する、苦手な音が鳴る前に事前に予告しておくなどがあります。
それでは、そもそも感覚過敏はなくならないものなのでしょうか?
そこで、今回は、感覚過敏は治るのかについて、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら、感覚を育てることの大切さについてお伝えしていきます。
今回参照する資料は「栗本啓示(2018)感覚過敏は治りますか?.荷風社.」です。
感覚過敏は治るのか【感覚は育てるもの】
以下、著書を引用しながら、感覚を育てることの大切さについて見ていきます。
「感覚を育てる」
受け入れられる感覚を見つける→その刺激を与える→成長がある→様子を見ながら刺激の幅を広げていく→受け入れられる感覚の幅が広がる。
著書では、感覚は育てることができるとして、そのプロセスで大事な点は、まずは、本人が受け入れることができる感覚(刺激)を見つけ、その刺激の量を増やしていくことだとしています。
そして、好きな刺激の幅が広がっていく中で、他の感覚情報を増やしていくという方法が有効だとしています。
例えば、ある野菜があったとして、その野菜が味覚的に苦手だったとしましょう。
一方で、好きな食べ物がお肉だったとしましょう。
そこで、受け入れられる味覚(肉)をベースに、その肉の中に、苦手な野菜をできるだけ細かく刻んで隠れるようにして刺激の幅を増やすというのも一つの方法だと思います。
それでは次に、感覚は育てるものだという視点から著者の経験談についてお伝えします。
著者の経験談
著者が未就学児を対象に療育施設で勤務していた際に、偏食の子どもがとても多くいました。
中には、ほとんど食べるものがない子もいたという状況です。
我々スタッフは、試行錯誤の結果、まずは、子どもが食べられるものを見つける(好む感覚を探す)ということから始めました。
食べられるものが見つかると、その食べ物をベースに、食のレパートリーを増やしていくことが徐々に可能になっていくように思います。
例えば、ヒジキ大好きな子に対して、ごはんをほとんど食べない場合には、ヒジキご飯にしてしまうなどです。
うまくいくとヒジキのおいしさに引っ張られてごはんが進むということがありました。
このように、好きな感覚を見つけることをベースに、それに苦手なものを少しずつ組み合わせていくという方法で少しずつ食べられるものが増えていった子どももいます。
気づいたら、これまで食べていなかったものを食べるようになったという子も多くいます。
これはつまり、味覚という感覚が発達した・育ったということだと思います。
他の例を上げてみましょう。
大きい音や特定の音に苦手さがあるなど聴覚過敏の子どもは発達障害児には多く見られます。
著者はこうした聴覚過敏の子どもに対して、最初は、苦手な音を遮断するなどの配慮を心掛けています。つまり、環境設定です。
苦手な音だと感じる要因には様々なものが考えられます。
例えば、漠然とした嫌な感覚、音の高さや大きさ、何かその音がすることで不安感や嫌な出来事を思い出すなどです。
著者が見ている聴覚過敏の子どもは、嫌な音を遠ざけようとする行動、イヤーマフでの対応、時には嫌な音がする対象への攻撃行動などが見られることがあります。
こうした子どもたちに対して、環境設定からの配慮を繰り返していくことで、次第に年齢を重ねていく中で、苦手な音を受け入れられる子も多くいるといった印象があります。
こうした聴覚過敏の子どもへの対応として著者が大切だと考えていることは、環境設定をしていきながら(苦手な音への配慮)、好む音や安心できる材料を増やしていくということです。
苦手な音があったとしても、その環境内に安心できる要素が多くあることで、次第に苦手な音との付き合い方がうまくなったと感じる子どももいます。
付き合い方とは、自分で嫌な音を特定し、その嫌な感情を大人に伝えること、あるいは自ら対処できる方法をとることです。
また、安心できる要素が増えることで、苦手な音が実は大丈夫だったという認識が増えたり(聴覚の弁別機能の発達)、単純に慣れてくることで大丈夫になることもあるようい思います。
これはつまり、聴覚という感覚が発達した・育ったということだと思います。
こうした聴覚過敏の育ちにも、まずは音への不安感を軽減するといった安心できる環境設定と、その環境の中で好む音刺激を多く取り入れていくことだと思います。
以上、感覚過敏は治るのか【感覚は育てるもの】について見てきました。
一見すると、感覚過敏は一生固定的なもののように思う人もいるかもしれません。
私自身も、目の前の子どもの感覚過敏の様子を見て、今に集中的に取り組んでいることから、感覚の育ちといった未来への展望をなかなか持ちにくいこともあります。
そのため、感覚を育てるといった視点以上に、感覚への配慮に取り組みの比重の大半が占めていたように思います。
しかし、療育現場で関わってきた子どもたちの育ちを振り返って見ると、改めて、感覚は育つもの、育てるものだという実感が湧いてきます。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も感覚の理解を深めていきながら、感覚への育ちにも貢献できるように支援の幅を広げていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
関連記事:「発達障害児の感覚の問題を理解する視点」
栗本啓示(2018)感覚過敏は治りますか?.荷風社.