著者が未就学児を対象に療育をしていた頃に、散髪が苦手、髪を洗うのが苦手、歯磨きや爪切りが苦手な子どもたちが多くいました。
それも、少し嫌がるレベルであればまだしも、大泣きするなど過度な恐怖や嫌悪感を示す子が多かった印象があります。
こうした背景には、子どもたちの感覚の問題である「触覚防衛反応」が作用している可能性があります。
それでは、「触覚防衛反応」とは一体何でしょうか?
そこで、今回は、感覚統合で大切な触覚防衛反応について、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら考えを深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「木村順(2006)子育てと健康シリーズ㉕:育てにくい子にはわけがある:感覚統合が教えてくれたもの.大月書店.」です。
触覚防衛反応とは何か?
以下、著書を引用します。
「触覚防衛反応」は、脳のなかでの「原始系」=本能的な触覚の機能が暴走してしまい、その結果、原始系優位の行動パターンがいくつも出現してしまっている状態であるということです。
人間の触覚には「原始系」と「識別系」があります。
「原始系」とは、原始反射などに代表される本能的な触覚の機能のことを言います。
「識別系」とは、触覚機能が徐々に発達することで、触覚によって、物の形や硬さ、大きさなどを識別する機能のことを言います。
「識別系」が発達しても、「原始系」は消えてなくなるわけではなく残り続け、「識別系」が大人になるにつれて優位になっていきます。
関連記事:「感覚統合で大切な原始系と識別系について【触覚の発達について考える】」
著書の内容から、「触覚防衛反応」とは、本能的な触覚機能である「原始系」が過剰に反応してしまっている状態ということになります。
つまり、感覚の発達にどこか問題や躓きなどがあると、本来の「識別系」の発達を妨げる形で「原始系」の影響が強く残っているということが言えます。
それでは、このような「触覚防衛反応」が出ている子どもにはどのような理解と関わりが必要なのでしょう?
以下、この点について見ていきます。
触覚防衛反応への理解と関わり方について
著書の中では、触覚防衛反応はある種のアレルギー状態といった例を示してます。
例えば、花粉症がありますが、花粉症に対して、慣れればよい、がまんすれば大丈夫とはならないはずです。
こうした生理的な身体症状と「触覚防衛反応」をイコールで考えるとわかりやすいと思います。
つまり、生理的な反応であるため、がまんを強いること、無理を強要することはやってはいけない理解と対応ということです。
それでは、次に触覚防衛反応への関わり方について著書を参照して見ていきます。
「触覚防衛反応」は、その子の気持ちのレベルではなく、生理的な症状であることを考えると、「慣れる」ことも「がまん」させることもけっして有効な手だてではありません。大切なことは、「原始系」の暴走状態を抑制するだけの「識別系」のはたらきを活性化させることが必要である
著書の内容から、「触覚防衛反応」への対応は、「識別系」を育てることです。
そのため、無理に慣れやがまんを強いる対応ではないということになります。
著書の中に、「識別系」を育てる遊びとして、「手探り遊び」を例に上げています。
「手探り遊び」とは、袋の中に、様々なものを入れておき、それを手の感覚だけで当てるという遊びです。
視覚に頼れない分、触覚の感覚を頼りに識別する力を発達させる遊びとなっています。
それでは、次に著者の経験談から触覚防衛反応について見ていきます。
著者の経験談
著者は昔、未就学児を対象とした療育施設で働いていたことがあります。
その際に、非常に多くの子どもたちに「触覚防衛反応」が見られました。
しかし、当時の著者は「触覚防衛反応」という用語自体知らなかったため、感覚への理解と配慮に欠けた失敗経験を思い出します。
もちろん、日々の子どもたちとの関わりから、感覚に何かしらの問題があるということは感覚的には理解していたつもりでしたが、それでも、上記に見た、無理強いやがまんを強いる対応をしてしまっていた面も少なからずあったように思います。
その後、感覚統合理論について学んでいく中で、当時の漠然とした違和感の正体は「触覚防衛反応」だったということに気づかされました。
それ以降、感覚への配慮や感覚を育てることに興味が湧いてきました。
現在は、放課後等デイサービスで小学生を対象として療育をしていますが、その中にも、未就学児ほどは強くないですが(著者の印象です)、様々な感覚の問題がある子どもたちが多くいます。
そのため、現在は、感覚統合理論を中心とした、感覚への理解を現場に取り入れていきながら、子どもたちの理解を深めようとしています。
こうした経験を通して改めて、人間の行動の背景には様々な理由があるということに気づかされます。
以上、感覚統合で大切な触覚防衛反応について【療育経験と通して考える】について見てきました。
私自身、感覚への理解はまだまだ不十分ですし、学びの最中です。
今後も子どもたちに、より良い支援を届けていけるように、感覚からの理解とアプローチも大切にしていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
木村順(2006)子育てと健康シリーズ㉕:育てにくい子にはわけがある:感覚統合が教えてくれたもの.大月書店.