療育をしていると、物を上手に扱うことが苦手な子どもたちが多くいます。
このような子どもの印象として、どこか体の動きに「不器用さ」がある、物の使用が「がさつ」といった感じを受けます。
感覚統合の領域では、上記のような状態には「固有覚」といった感覚の苦手さが作用していると考えられています。
固有覚とは、人間の五感(視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚)以外で大切な感覚です。
それでは、固有覚とは一体どのような感覚なのでしょうか?
そこで、今回は、感覚統合で大切な固有覚について、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら考えを深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「木村順(2006)子育てと健康シリーズ㉕:育てにくい子にはわけがある:感覚統合が教えてくれたもの.大月書店.」です。
感覚統合で大切な固有覚とは?
以下、著書を引用します。
固有覚は、別名「深部感覚」ともいいます。
固有覚のはたらきのひとつは、「筋肉に生じている緊張を感知」します。また、関節のなかにもセンサーがあり、「関節の角度や動きを感知する」役割を担っています。これが、固有覚のふたつ目のはたらきです。
例えば、筋トレを例に考えてみます。
筋トレで有名なものにダンベルを持ち、上下運動することで上腕二頭筋を鍛える筋トレがあります。
ダンベルを持った手(右手・左手)は、ダンベルの重さを筋肉を通じて感じたり、ダンベルを上下することで、腕を曲げることで関節の角度の動きを感じることができます。
よく筋トレで筋肉の負荷がかかっている部分(かけたい部分)に意識を向けると効果が上がると言われています。
これは通常、無意識で行っている動きに対して、固有覚をより意識することだと言えます。
もう一つ例をあげます。
目を閉じた状態で、手のひらに物を置いたとしましょう。
その物の重さを重いものにしていくことで目を閉じていても重くなったことがわかります。
人は通常、視覚情報を元に、物の重さを予測したり、認識する手掛かりとしていますが、このように目を閉じた状態においても重量を認識できるのは、筋肉の緊張具合や関節からの角度の動きを手掛かりとしているからです。
このように、筋肉の緊張具合や関節の動きを通して感じる感覚が「固有覚(深部感覚)」になります。
それでは次に、著者の経験談から固有覚について見ていきたいと思います。
著者の経験談
著者の療育現場で固有覚の苦手さが目立つのは、どこか物の扱いが「乱暴」、体の動きが「ぎこちない」などがあります。
これは、子どもだけではなく、成人当事者の方にもあるように思います。
例えば、物を所定の位置に置くときに、放り投げるように置くことがあり、周囲からすれば、雑に扱っているように見えますが、本人からすると体の動きの調整がうまくいかないことが要因なのかもしれません。
また、体の動きのぎこちなさもあるため、スポーツなどでボールを投げたり蹴ったりする際に、力加減がうまくできない人もいるように思います。
また、歩き方・走り方がどこかぎこちない人も多くいます。
固有覚自体は、私たちにとって無意識として機能している面が強いため、意識に上がりにくい分、周囲からわかりにくいことが多くあるように思います。
それは、当の本人にとってもそうかもしれません。
力加減を調整するように声をかけても、調整が難しいことはよくあるからです。
また、気になった時にその都度声を掛けないといけないことが多く、こうした動きの苦手さは、これまでの生活経験からの繰り返しよって身についたものであるため、修正・調整が特に大人においては難しいように思います。
以上、感覚統合で大切な固有覚とは【療育経験を通して考える】について見てきました。
人間の感覚は、視覚や聴覚など意識に上がりやすいものだけではなく、固有覚とったその多くが無意識的な感覚もあります。
療育現場には、こうした感覚の苦手さがある子どもがたくさんおります。
そのため、感覚統合理論を学ぶことは、我々が通常理解しにくい感覚を知るヒントになります。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も感覚統合理論を学びながら様々な感覚についての理解を深め、実践に活かせるように学びを深めていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
関連記事:「感覚統合について【療育現場で活かすために】」
木村順(2006)子育てと健康シリーズ㉕:育てにくい子にはわけがある:感覚統合が教えてくれたもの.大月書店.