愛着とは特定の人に対する情緒的な絆のことを言います。
愛着形成に必要なものとして、安全感・安心感といった感覚を子どもが養育者から感じることが大切であり、安全感と安心感をしっかりと持った子どもは外界の世界を探索しようとします。
こうして愛着がしっかりと形成された子どもは(安全基地機能、安心基地機能、探索基地機能が満たされた子ども)、養育者との間に安定した愛着関係、情緒的な絆ができます。
それでは、こうした愛着形成は療育現場で重度のお子さんとの関わりの中ではどのようにして育まれるのでしょうか?
また、その際にどのような視点が大切となるのでしょうか?
今回は、愛着形成と情動的コミュニケーションについて、療育現場で重度の子どもとの関わりから考えていきたいと思います。
今回、参照する資料は「小林隆児(2001)自閉症と行動障害:関係障害臨床からの接近.岩崎学術出版社.」です。
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愛着形成と情動的コミュニケーションについて
以下、著書を引用します。
ではこのような段階で彼の行動の意図(意味)を感じ取ることができるためには、どのような条件が必要だろうか。それを可能にするのが、愛着形成とそれによって初めて可能になる情動的コミュニケーションの成立である。
著書の内容から、愛着形成に必要なものは情動的コミュニケーションの成立ということになります。
愛着形成と情動的コミュニケーションの関係は入れ子構造になっており、安定した愛着を形成するには質の高い情動的コミュニケーションが必要であり、質の高い情動的コミュニケーションもまた、安定した愛着形成においては必要不可欠です。
つまり、安定した愛着形成には、日ごろの子どもとの間での情緒の交流の質がとても大切であり、こうした関係性によって相手の意図や思いを育む力が形成されていきます。
それでは、愛着形成や情動的コミュニケーションが成立しているとはどのような状態のことをいうのでしょうか?
以下、引き続き著書を引用していきます。
このようにその人の意図や気持ち、心の動きを感じ取るためには、勘を働かせる必要がある。勘が適切によく働くためには、これまで筆者が強調してきた情動的コミュニケーションの成立が不可欠になるのである。ここでいう情動的コミュニケーションの成立とは、わかりやすくいえば、彼らがこちらに甘えてくるような関係ができるということであり、つまりは愛着関係の成立ということになる。
著書の内容から、愛着形成や情動的コミュニケーションの成立おいて大切なことは、子どもが甘えてくる状態ができていることが重要であるということです。
以上、愛着形成と情動的コミュニケーションについてお伝えしてきましたが、こうした視点の重要性を療育現場で感じた事例を次にお伝えします。
著者の体験談
重度の自閉症児A君の事例を取り上げたいと思います。
A君は、ほとんど発語がなく、関わるスタッフに対しては、A君独自のイントネーションの発声や、手引きなどで自分の気持ちを伝えてくる様子が多い子でした。
A君は自分の世界にはまり込む様子があるため、著者が近づくと離れるといった行動を当初は見せていました。
私は、A君が車のおもちゃを並べるのを見て、少し離れたところからA君と同じように車を並べてみました。
こうした行動は私の直感によるもので、誰かに教えてもらったわけではありませんでした(この時は)。
すると、A君は私がとる行動に少しずつですが興味を示し始めました。
こうしたA君がとる行動を真似ることを繰り返したことでA君と私との距離は少しずつ縮まっていきました。
数ヶ月位たったある日、A君は私の手を自分から握ってきました。私にとっては非常に感動的なエピソードでした!
それから、少し日が経ち、A君は私にスキンシップを求めてくるなど、甘えてくる様子が増えてきました。また、何か困ると私の所にきて何かを訴える様子も出てきました。
この頃から、A君が私に見せる表情や発声のトーンはとても穏やかなものになってきました。
私もA君の表情や声のトーンなどを聞いて、A君の気持ちの状態が少しずつ分かってきました。
A君は甘えの行動をとるようになってからより一層情緒が安定していったように感じます。
以上が事例の紹介になります。
A君との関わりはまさに言葉以前の情動的コミュニケーションの世界です。
情動的コミュニケーションが私とA君との間でうまく取れるようになってくると、A君との関係もとても良い状態になっていきました。
このように、重度の自閉症児の事例を振り返って見ても、愛着形成と情動的コミュニケーションの大切さが読み取れます。
安定した愛着形成(安定した関係)には、言葉以前の情動の世界の交流がとても大切です。
こうした心の交流は言葉を話す子どもとの関係においても同様に大切です。
著者自身、まだまだ未熟ですが、今後も情動的コミュニケーションの大切さを認識し、子どもとの間で気持ちの交流をしていく中で、安定した関係性を築いていけるように日々の実践を大切にしていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。