大学では心理学を専攻し、その後、臨床発達心理士資格を取得し、現場での経験は約8年となります。今回は現在、発達障害の現場に携わる立場として、心理士の専門性を考えてみたいと思います。
私が最初に現場に出たのは10年以上に前になりますが、最初の現場は特別支援学校でのボランティア活動でした。当時は心理学を専攻する学生であったこともあり、ただ純粋に子供たちと関わりたい思いが強く、その中で、何か今大学で学んでいることを社会の中で生かすことはできないだろうかということで日々試行錯誤していました。試行錯誤の内容としては、現場での日々の気づきをそのままにせず、日記なり何か文章に書き起こすという作業、そして、それに関連する文献を探して読むということを繰り返していました。これを繰り返すことで調べるという力や、現場感覚を大切にするという力は育ったように思いますが、それでも数年程度では理想と現実のギャップは遠かったように思います。当時の心境として、「自分には大したことができない」というある種の無力感を抱いていたことを今でもはっきりと覚えています。それでも、日々考えるのをやめなかったのは、この分野への強い好奇心があったからだと思います。好奇心の原点はまた別の機会に書こうかと思います。
その後はより専門性に特化した心理士取得を目指すなど、現場経験と学問との両輪を回し続けて学ぶという姿勢は変わらず続けていました。大きな転機となったのは、大学卒業後に仕事についた療育の現場でした。未就学児を対象に基本的な生活習慣の確立や遊びを通して身体や認知、関係性の発達を促すということをする仕事でしたが、園にくるお子さんたちは実に多様でこれまでの私の経験や知識ではとうてい太刀打ちできないものでした。この経験が私の学びをさらに後押しする原動力となり休日は勉強に励む日々が続きました。数年でかなりの文献を読んだかと思いますが、当時もボランティア活動時代と変わらず自分が現場で経験した疑問や気づきを調べ考えるという行動を続けました。この行動を繰り返すうちに徐々にこの分野への経験と知識が蓄積され、園長先生から勉強会をやってほしいとお願いされるようにまでなりました。また、当時の療育現場では心理学を学んできた人は自分しかおらず、周りのほとんどは保育士だったこともあり、レア度が高かったということもあったかと思うます。
未就学児との関わる仕事から学んだことは多くありますが、その後は、もっと年齢の高い発達段階の方たちとも関わりたい思いも出てきて違う現場に転職しました。当時の自分からするとかなり思い切った行動だったように思います。ただ、自分が大切にする視点として発達を支える立場の人間として様々なライフステージに寄与できることが重要で、そのためには学生時代からこだわり続けてきた現場経験を大切にするということであり、今は小学生を中心に発達支援を行っています。今も学びの内容は変わらず現場での気づきや疑問を言語化し、それを調べ、いい発想があれば現場に取り組むというスタンスでやっています。わからないことは多くありますが、それでも蓄積されたエピソードの量や知識の量は学生の頃とは格段に増えたことで、当時の無力感を抱いた心境はいつの間にか消えていました。
ここで改めて心理職の専門性を振り返ってみたいと思います。心理職にも福祉や教育、産業、医療など様々な領域があり、その領域ごとに求められる能力に相違はあるかと思いますが、私の中で専門性といえるものは、現場経験を大切にしながら、その中で、自ら問いや仮説を生成し、自分で調べ考え、他者と協力しながら課題解決できる能力だと思います。さらに、発達障害の領域に特化して言えることは、障害特性の理解や、発達段階や発達課題の理解、長期的な視座に立った発達の理解と支援などがあるかと思います。根拠のある支援が重要であると言われている現代において、少しでもより良い理解と支援ができるように日々学びに邁進していこうと思います。
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