最近は、‟自閉症”に関して、テレビやネット、書籍などを通して取り上げられることが増え、社会の中での理解も高まってきています。
〝自閉症 ”と言えば、それに関連する用語として、アスペルガー障害、自閉症スペクトラム障害、広汎性発達障害などがあります。
かつて‟自閉症“は、‟広汎性発達障害“に位置付けられていました。
一方で、最近では、‟自閉症スペクトラム障害”といった診断名が使用されています。
それでは、自閉症に相当する‟広汎性発達障害”と‟自閉症スペクトラム障害”には、どのような違いがあると考えられているのでしょうか?
そこで、今回は、広汎性発達障害と自閉症スペクトラム障害の違いについて、DSM-5を中心に理解を深めていきたいと思います。
今回、参考にする資料として「アメリカ精神医学会 高橋三郎・大野裕(監訳)(2014)DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル.医学書院.」「森則夫・杉山登志郎・岩田泰秀(編著)(2014)臨床家のためのDSM-5 虎の巻.日本評論社.」とになります。
広汎性発達障害について:DSM-Ⅲより
DSM-Ⅲ以来、広汎性発達障害は、自閉症を代表とする社会性の発達障害だとされていました。
この名称の理由は、自閉症圏の発達障害が、様々な広汎な領域の発達の問題を引き起こすからだとされています。
広汎性発達障害(Pervasive Developmental Disorder:PDD)とは、自閉性障害(Autistic Disorder)、アスペルガー障害(Asperger’s Disorder)、レット障害(Rett’s Disorder)、小児期崩壊性障害(Childhood Disintegrative Disorder)、特定不能の広汎性発達障害(Pervasive Developmental Disorder Not Otherwise Specified)から構成されています。
自閉症スペクトラム障害について:DSM-5より
DSM-5(2013)における大きな変更点として、広汎性発達障害(Pervasive Developmental Disorder:PDD)から自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder:ASD)への変更がありました。
DSM-5以降には、広汎性発達障害の中のレット障害以外の4つを自閉症スペクトラム障害に押し込む形となりました。
これまで、自閉症および広汎性発達障害は、Wingの3徴候と言われていた、①社会性の障害、②コミュニケーションの障害、③想像力の障害と、それにもとづく行動の障害の各領域の機能の遅れや異常の有無によって判定されていました。
診断基準に関しても、DSM-5以降に以下のように変更になりました。
DSM-5以降には、自閉症スペクトラム障害の診断基準として、①社会的コミュニケーションおよび相互関係における持続的障害、②限定された反復する様式の行動、興味、活動(下位項目に、知覚過敏・鈍感などが追加)になりました。
そして、症状は発達早期の段階で必ず出現するが、後になって明らかになるものもあるなど、どの年齢でも用いることが可能になりました。
関連記事:「【自閉症スペクトラム障害の特徴について】三つ組とは何か?2因子モデルとは何か?」
ここで、「スペクトラム」という用語についても説明します。
「スペクトラム」とは、連続体のことであり、例えば、光のスペクトラムである虹色はどこからどこまでが赤や黄色など明確に線を引くことができず、赤から紫まで変化していきます。
自閉症スペクトラム障害においても、重度から軽度まで境界線を引かずに連続したものとして捉えるようになりました。
さらに、DSM-5では、自閉症スペクトラム障害といった一括したグループに関して、軽度、中等度、重度とそれぞれ具体例を示し、判定を行うことになりました。
障害の重さの3段階は、支援を提供する際の目安とされています。
以上が、簡単にではありますが、広汎性発達障害と自閉症スペクトラム障害の概念の違いになります。
著者のコメント
広汎性発達障害から自閉症スペクトラム障害への概念の変更は、これまでカテゴリー的に捉えられていた自閉系の障害を、連続的に捉えようとしたことに最大の特徴があるかと言えます。
こうした概念を理解するためには、現場での臨床経験も大切になります。
それは一人ひとりの状態像が違うからです。
同じ自閉症でも、先ほど見た「スペクトラム=連続体」であるため、その色の度合いの強弱には個人差があります。
著者の経験上、典型的な自閉症の方はわかりやく、そうでないタイプの方は非常にわかりにくいこともあると感じています。
今回説明した医学的な定義などは、長年現場でやっていく上でも非常に大切であり、今では必須のものと考えていますが、若い頃は軽視していたこともありました。
長年現場に携わってきた中で言えることは、臨床経験を重ねながら、同時に医学的な定義なども学んでいく姿勢が発達障害を理解する上で大切だということです。
今後も、発達障害への理解を進めていくために、医学の分野も含めて、様々な角度から学んでいきたいと考えています。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
関連記事:「神経発達症/神経発達障害とは何か?DSM-5を通して理解を深める」
アメリカ精神医学会 高橋三郎・大野裕(監訳)(2014)DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル.医学書院.
森則夫・杉山登志郎・岩田泰秀(編著)(2014)臨床家のためのDSM-5 虎の巻.日本評論社.