発達理解・発達支援・ブログ

人間の多様な理解と支援を目指して!

境界知能 知的障害

境界知能とは何か?療育現場の実体験を通して考える

投稿日:2020年9月1日 更新日:

知的障害という言葉を聞いたことがある方は多いかと思います。

一方、境界知能という言葉はあまり社会の中に浸透しているようには感じません。しかし、境界知能の人たちは社会の中に多くいるもの事実です。

私がこれまで関わってきた療育現場には、境界知能の方も多くいたとは思いますが、実際にそれを裏付けるデータなどがないことも多いため、あくまでも「境界知能ではないか?」という行動からの推測でした。

今回は、境界知能について簡単に説明していきながら、私がこれまで関わってきた療育現場で境界知能の事例についてお伝えしていこうと思います。

 

今回参照する資料は「宮口幸治(著)佐々木昭后(作画)(2020)マンガでわかる 境界知能とグレーゾーンの子どもたち.扶桑社.」です。

 

 

知的障害について

まずは、知的障害についてですが、知的障害とは、IQが69以下のゾーンを指します。最近では、IQ(知能指数)だけではなく、社会適応能力の面が重視されるようになってきました。知的障害は、全人口の約2%(クラスに約1人)になります。

 

 

境界知能について

それに対して、「境界知能」とは、IQが70~84のゾーンを指し、これは人口全体の14%(クラスに約5人)いる計算になります。

「境界知能」は、知的障害や発達障害と比べてなかなか気づかれることは少なく、支援の対象になりにくい傾向にあります。

行動特徴として、学習面や運動面、社会性の面など多くの面で遅れが見られることもありますが、その遅れが顕著でないため、本人の努力不足などとして捉えられてしまうこともあります。

私がこうした境界知能の子どもや大人の方と関わることもこれまでありましたが、一言でいうとわかりにくいということが言えるかと思います。

一見すると、少し頑張れば学習についていける、運動についていけるなど、少しの差という印象がありましたが、長期的にみると周囲に追いつくように努力を強いることは、本人の自尊心の低下や、二次障害にも繋がりかねないと思います。

 

 

著者の体験談

私が見てきた境界知能の方の事例でもこのようなことを実感することがありました。

ここではAさんの事例についてお伝えします。

Aさんは、子どもの頃にはかった知能指数が境界知能のゾーンでした。全体的に発達が遅れている印象がありましたが、時間をかければ学習に追いつく、少しのサポートがあれば集団行動についていけるという感じでした。

しかし、周囲の理解と本人の理解とは解離していました。

本人は「なぜ、自分は他人とは違うのか?」「なぜ、自分は勉強や運動がうまくできないのか?」「周りの人が言っていることがよく理解できないが、理解できているように思われてしまう」など、これらはAさんの後々の語りから困り感の一部を取り上げたものになります。

当時は、自分の思いや遅れなどを言語化することは難しかったので、こうした内容はある程度年齢がいってから聞き取ったものになります。

 


本人にとって何が一番大変なのかというと、周囲から理解されない、努力だけを求められるということだと思います。

このように、境界知能は一見すると周囲とうまくやれるようにも思われるため(実際にやれているケースもあるかと思いますが)、なかなか理解が難しいのが特徴かと思います。

今後は、こうした知的能力についてもさらに理解が進むことが必要になり、そして、今ブームになっている発達障害との関連などから、より総合的に人を理解するということが求められるようになると思います。

私自身、現場で一人ひとりの子どものたちや、成人の当事者の方を理解することの難しさを感じながらも、日々前進していきたいと思います。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

宮口幸治(著)佐々木昭后(作画)(2020)マンガでわかる 境界知能とグレーゾーンの子どもたち.扶桑社.

-境界知能, 知的障害

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

自閉症と知的障害の関係について-療育経験を通して考える-

著者はこれまでの療育経験を通して、様々な発達障害のある子どもや大人と関わってきました。 その中には、自閉症の方や知的障害の方も多くいました。両者は、精神医学界(DSM-5)では、神経発達症/神経発達障 …

知能指数は変化するのか【発達障害を例に考える】

学校の勉強はある程度、平均的な能力に合わせて教材などが作られています。 授業もまた同様に、平均的・標準的な能力の人たちが概ね理解できるように計画・設計されています。 能力でよく聞くのがIQ、つまり、知 …

ADHDと知的障害の違い【医学的見地から考える】

ADHDと知的障害はよく併存するということが知られています。 一方で、両者の行動の背景は異なるため、療育現場で特性を理解して対応していくためには、ADHDと知的障害の違いを理解していくことは重要だと感 …

知的障害児の理解と支援-療育経験を通して「記憶」の面から考える-

療育現場には、知的障害のある方が多くいます。 知的障害とは、知能指数(IQ)と社会適応能力に困難さを抱えるものとされています。   関連記事:「境界知能とは何か?療育現場の実体験を通して考え …

知的障害と他の障害の併存について

知的障害(ID)とは、知的発達の遅れに加え、社会適応上に問題があるといった状態を指します。   関連記事:「知的障害と発達障害の違いについて」   DSM-5以降、医学的な診断分類 …