〝ワーキングメモリ(working memory)″とは、情報を記憶し、処理する能力のことを言います。〝脳のメモ帳″とも言われています。
ワーキングメモリの機能として、〝言語性ワーキングメモリ(言語的短期記憶)″と〝視空間性ワーキングメモリ(視空間的短期記憶)″とがあり、両者を統合する司令塔的役割が〝中央実行系″と言われています。
一方で、〝実行機能(executive function)“とは、課題目標(task goal)に即して我々の思考と行動を管理統制する汎用的制御のメカニズムのことを言います。
もう少しかみ砕いて言えば、〝やり遂げる力“のことです。
ワーキングメモリと実行機能の関連性は様々な研究者によって異なる見解があります。
例えば、〝実行機能をワーキングメモリの一部とする見方“〝ワーキングメモリを実行機能の一部とする見方”があります。
それでは、ワーキングメモリを実行機能の一部とした場合には、実行機能上のどの部分にワーキングメモリは位置づけられるのでしょうか?
そこで、今回は、ワーキングメモリは実行機能の3つの構成要素の中にどう位置づけられるのかについて理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は、「湯澤正道・湯澤美紀(2017)ワーキングメモリを生かす効果的な学習支援―学習困難な子どもの指導方法がわかる!.学研.」です。
実行機能の3つの構成要素とは?
実行機能の3つの構成要素とは、「更新」、「抑制」、「シフト」があると考えられています。
「更新」とは、新しい情報に注意を向けて、その情報を記憶し処理することです。
例えば、学校の授業で先生が次回の活動に持ってきて欲しい物を説明する際に、先生の声に注意を向け、先生から指示された必要な物を記憶に留め、次回の活動までその情報を保持し準備することが必要となります。
「抑制」とは、必要な情報に注意を向けるために、他の情報や刺激に注意を向けないことです。
例えば、先の例で言えば、学校の授業で先生の口頭指示がある際に、他に気になってる刺激を抑えて、先生の声に注意を向け続けることです。
「シフト」とは、必要な活動に向けて、今取り組んでいることから気持ちや注意を切り替えることです。
例えば、学校の休み時間にお絵描きに没頭していたが、チャイムがなったので、お絵描きを止め、次の授業に注意を切り替える(シフトする)ことです。
ワーキングメモリは実行機能の中にどう位置づけられるのか?
ここまで見てくると、なんとなくワーキングメモリが実行機能の3つの要素(「更新」、「抑制」、「シフト」)のどこに位置づくのか予測できた方もいるかと思います。
正解は、「更新」です。
ワーキングメモリは、実行機能の3要素の中の「更新」に位置づけられています。
以下、著書を引用しながら見ていきます。
「ワーキングメモリ」は、目的に合わせて必要となる情報を「更新」しつつ処理する機能であるので、授業中に先生の話を「理解」し、学習内容を「習得」し、グループで学び合うなどの「活用」をする働きをする。
著書の内容から、ワーキングメモリは、必要な情報を「理解」し、その情報内容を「習得」し、次の活動に向けて「活用」する機能だと言えます。
例えば、学校の授業で環境問題についてのテーマを取り上げたとしましょう。
先生は、生徒に現在の環境問題とその解決方法の取り組み例を説明します。
その際に、生徒は、環境問題と解決方法を「理解」し、その内容の要点を紙に書くなどして(「習得」して)、グループワークなどで「活用」するといったことが考えられます。
この際に、ワーキングメモリといった「更新」機能があることで、授業の「理解」「習得」「活用」がうまく進むことができます。
以上、ワーキングメモリは実行機能(3つの構成要素)の中にどう位置づけられるのか?について見てきました。
これまで見てきた内容からも、実行機能の中にワーキングメモリを位置づけることで、その機能は実行機能でいう「更新」の役割を果たし、ワーキングメモリ=「更新」は、新しい情報の「理解」「習得」「活用」に役立つことがわかります。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後もワーキングメモリへの理解を深めてきながら、療育現場で関わる子どもたちへの支援にその知見を役立てていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
関連記事:「実行機能とワーキングメモリの関係:両者はどのような関係にあるのか」
参考となる書籍の紹介は以下です。
関連記事:「ワーキングメモリに関するおすすめ本6選【中級編】」
湯澤正道・湯澤美紀(2017)ワーキングメモリを生かす効果的な学習支援―学習困難な子どもの指導方法がわかる!.学研.