ワーキングメモリとは
ワーキングメモリ(working memory)とは、情報を記憶し、処理する能力のことを言います。脳のメモ帳とも言われています。
私たちは、人が話した内容を一時的に記憶し操作したり、映像などの視覚的な情報を一時的に保持し操作することが可能であり、この時にワーキングメモリを活用しています。
前者を言語性ワーキングメモリ、後者を視空間性ワーキングメモリと言います。
ハデリーとヒッチのモデル
ワーキングメモリで有名なモデルに、ハデリーとヒッチのモデルがあります。
このモデルでは、ワーキングメモリを3つの要素から構成しています。
1つ目に、注意をコントロールし、高次の処理に関わる中央実行系になります。中央実行系の下位システムとして、視空間性の情報の保持を担う視空間性スケッチパット(視空間的短期記憶の働き)と、言語の情報の保持を担う音韻ループ(言語的短期記憶の働き)があります。
このモデルから、視空間性ワーキングメモリを説明すると、中央実行系と視空間性スケッチパットが共働した状態を指し、言語性ワーキングメモリは、中央実行系と音韻ループが共働した状態になります。
ワーキングメモリと短期記憶の関係
ワーキングメモリと短期記憶は似た概念ですが、このモデルを見ると、短期記憶(視覚・言語)は、ワーキングメモリを構成するため、ワーキングメモリの一部ということになります。
言語性ワーキングメモリ・視空間性ワーキングメモリ
学校の授業で考えると、言語性ワーキングメモリは、指示を覚えたり、言葉を学んだり、文章を理解するときなどに使用し、視空間性ワーキングメモリは、出来事の系列、パターン、イメージを覚え、数学を学ぶときなどに使用します。
学習のピラミッドモデル
学習において、学習のピラミッドというモデルがあります。これは、ピラミッドの最上位に位置する、読み、書き、算数の学習を高めるためには、その下に位置する、行動、IQ、ワーキングメモリが影響するという図になっています。もっも根底にあるのがワーキングメモリになります。
一見すると、学習に最も影響を与えそうな要素として、IQと考える人も多いと言われていましたが、ワーキングメモリの研究者たちは、学業成績を既定する最大の要因にワーキングメモリが挙げられるということを実証しました。
つまり、学業成績を決めていたのは、IQではなく、ワーキングメモリの得点であり、ワーキングメモリが小さいと、読み、書き、算数へのつまずきが見られました。IQは学業成績と何ら関係がなく、ワーキングメモリこそが学業成績を決定づけるスキルでした。
こうした知見から、学校での学習(読み、書き、算数など)において、ワーキングメモリを高める必要があるということがわかってきています。
現在、日本では本格的にワーキングメモリの能力を測定するということは少ないのが現状です。心理検査での活用が高いWISCなどにおいては、下位検査にワーキングメモリを測定する内容もありますが、あくまでも言語性ワーキングメモリに関する能力の測定になります。
ワーキングメモリと様々な障害との関係
ワーキングメモリは、自閉症やADHD、学習障害、発達性協調運動障害などによってプロフィールに違いあるとされています。
プロフィールの違いの詳細は下記の参考文献に記載されています。
著者のコメント
私自身も現場で様々な発達障害の人たちと関わる機会があり、その中には、言語・視覚の情報を一時的に保持し、その情報を操作するワーキングメモリに苦手さが見られる人たちが多くいます。
そのため、彼らにどのような情報を、どの程度提示すればよいのか、それも、言語情報なのか視覚情報が良いのかを試行錯誤しています。
ワーキングメモリなど認知機能は人によって様々です。
今後も、発達支援の現場において、ワーキングメモリなど認知特性への理解や配慮なども視野に入れながらより良い支援を目指していきたいと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
T.P.アロウェイ(著)湯澤美紀・湯澤正通(訳)ワーキングメモリと発達障害 教師のための実践ガイド2.北大路書房.