療育現場で子どもたちと関わっていると、相手を怒らせるような行動や態度をとるといった挑発行動が時々見られます。
著者の療育経験を振り返って見ても、こうした子は少なからずおり、関わるスタッフは非常に苦慮します。
特に、行動障害が出ている子や、その兆候がある子に多く見られる印象があります。
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それでは、なぜこうした子どもは大人や他児を怒らせるような行動をとるのでしょうか?
今回は、著者の療育経験も踏まえて、なぜ挑発行動を子どもはとるのかについて、愛着欲求の視点から考えていきたいと思います。
今回参照する資料は「小林隆児(2001)自閉症と行動障害:関係障害臨床からの接近.岩崎学術出版社.」です。
挑発行動と愛着欲求について
以下、著書を引用します。
挑発行動が引き起こされる関係において、多くの場合、情動的コミュニケーションが破綻をきたし、その悪循環の産物として挑発行動が引き起こされているのであるから、挑発行動の当事者の気持ちを感じ取ることなどできないのは当然といわざるをえない。さらには、行動の主体である彼ら自身も自らの気持ちの中に愛着欲求が潜んでいることを意識化することは困難なのである。
著書の内容では、挑発行動は単に相手を怒らせるためにわざととっているのではなく、その背景には、甘え等の愛着欲求といった情動的コミュニケーションの充足を強く求めていからとる行動だと記載されています。
さらに、愛着欲求は挑発行動をとっている当の本人でも意識できない無意識的な行動ということになります。
ここでいう情動的コミュニケーションとは、喜怒哀楽など様々な感情を感じ合う気持ちの交流であり、情動的コミュニケーションの質の高さは安定した愛着形成においてとても重要です。
関連記事:「愛着形成と情動的コミュニケーションについて-療育現場での重度の子どもとの関わりから学んだこと-」
それでは、次に著者の療育経験から挑発行動と愛着欲求について見ていきたいと思います。
著者の経験談
小学生男子のA君は大人や他児を怒らせるような挑発行動をとることが多くあるお子さんです。
例えば、大人がやってほしくない行動をあえて大人の顔色を窺いながらやってしまうなどの行動が多く、それに対して関わるスタッフはわざとやっているのではないか?なぜあえて自分がデメリットになる行動をとるのか?と疑問でした。
こうした挑発行動に対して、大人はすぐに止めるという対応策を講じます。当時の著者も背景を考える前にまずは止めて対応していました。
止める対応は重要ですが、さらに重要なのは、A君がなぜ挑発行動をとっているのかという背景を考えるとうことです。
様々な情報を集めていくとA君が挑発行動をとる頻度が増す場面が見えてきました。
一つ目に、A君に対して相手をしてくれる人がいない。
二つ目に、A君の欲求が阻害された時。
三つ目に、A君と関わる以前に何か嫌なことがあり状態が悪い(心のエネルギーが不足している)。
つまりは、A君の心が満たされていない時に多いということがこうした情報から見えてきました。
もちろん、挑発行動は気持ちや心が充足していないこと以外にも、衝動的行動や状況が理解できない認知の問題なども影響して生じることがあります。
このように背景要因を複数考えいくことで、A君の挑発行動に対して単に制止する、といった対応だけではなく、その背景要因を考慮した対応が見えてきたと感じます。
その要因の多くは、心が充足していない、自分にかまってほしい、何か不安感があるなど、愛着欲求が強くなっているときに多いといったことが見えてきました。
こうした要因を分析することで、愛着欲求を満たす、つまり、情動的コミュニケーションを満たす関わりが重要だということや、こうした欲求が不足していると感じる際には、トラブルを防ぐために、未然に環境を調整(刺激となるものを取り除く、他児と環境をわけるなど)するなど予防線を強める取り組みをするようになりました。
こうした取り組みを進める中で、A君は大人への信頼が高まり、挑発行動をとらずとも、何が嫌だったのか、何をしたかったのかを言葉で伝えてくることが増えてきました。
最後に、A君のこうした行動は自覚的ではなく、無意識的にとっているという理解もまた大切なポイントだと感じます。
人間は自分の感情を言葉にするのは思いのほか難しく、特に発達に躓きのある子どもにとっては非常に難易度が高いものだと思います。
以上、著者の経験談を通して、挑発行動の理解について愛着欲求の視点からお伝えしてきました。
子どもの挑発行動は大人や他児を不快なものにさせます。しかし、その行動には必ず理由があります。それも、挑発行動を取っている子ども自身には言葉にできない情動の世界の感覚にも理由があります。
私自身、挑発行動といった行動一つとって見ても、行動の背景には表面上にはわからない様々な理由があることをさらに実践を通して学び続けていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。