〝WISC-V(ウィスクファイブ)″とは、ウェクスラー児童用知能検査WISCの最新日本版となります。
対象年齢は、5~16歳11カ月となっています。
WISC-Vの前に使用されていたWISC-Ⅳは全検査IQ(FSIQ)と4つの指標(主要指標得点:VCI、PRI、WMI、PSI)が算出できるものでした。
日本語表記では、〝言語理解“、〝知覚推理(知覚統合)”、〝ワーキングメモリー“、〝処理速度”の4つの群指数に加え、4つの合計の〝全IQ″の能力を測ることができます。
その後、WISC-Vに変更になってから、5つの主要指標に変わっています。
それでは、WISC-Vに見られる5つの主要指標とはどのようなものから構成されているのでしょうか?
そこで、今回は、WISC-V(ウィスクファイブ)について、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら、5つの主要指標を通して理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「熊上崇・星井純子・熊上藤子(2024)WISC-V・KABC-Ⅱ対応版 子どもの心理検査・知能検査 保護者と先生のための100%活用ブック.合同出版.」です。
WISC-V(ウィスクファイブ)の5つの主要指標について
WISC-Vの5つの主要指標は以下の通りです(以下、著書引用)。
言語理解
視空間
流動性推理
ワーキングメモリー
処理速度
それでは、次に、以上の5つについて具体的に見ていきます。
言語理解
以下、著書を引用しながら見ていきます。
主に言葉の理解力、言葉でのやりとりの力を測るものです。
著書の内容から、〝言語理解″とは、言葉を理解する力、他者と言葉でのやり取りをする力になります。
例えば、先生が喋っていることを聞いて話の内容を理解するなどがあります。
〝言語理解″が苦手だと、先生がクラス全体に向けて話していることがうまく分からずに困り感に繋がることがあります。
そのため、〝言語理解″が苦手なケースにおいては、視覚的な提示の活用が有効な場合もあります。
例えば、写真や絵カード、紙やホワイトボードなどに書いて伝えるなどがあります。
著者の療育経験上、自閉症児は特に視覚的な提示が強い子どもが多いため、何か守ってほしいルールやスケジュールなどを事前に何かに書いて提示することで(口頭での伝達だけではなく)理解が促進されたケースも多くあると感じています。
視空間
以下、著書を引用しながら見ていきます。
目で見て、空間的な奥行きや角度、色や遠近感、視覚で部分的あるいは全体的に情報をイメージしたり把握したりする力を測っています。
著書の内容から、〝視空間″とは、外界の視覚情報(奥行き・角度・色・遠近感・視覚的な全体像の理解など)を正確に捉える力になります。
視空間把握能力とも言える〝視空間″の力は、例えば、他者の動作を真似したり、工作でイメージしたものを作ること、板書スキルなど生活の様々な所で活躍する能力です。
著者の療育経験上、発達障害児の中には、〝視空間″の力を苦手としているケースも多いと感じています。
そのため例えば、工作において、作業工程を分かりやすく提示する(一つずつ順番に説明)ことで、一つひとつの作業過程が徐々に連結して、その結果、全体を構成する力が付いてきたケースもあったように思います。
流動性推理
以下、著書を引用しながら見ていきます。
新たな場面で推理や推測をしたり、合理的な行動ができるかどうかを測るものです。つまり、蓄積された知識ではなく、その場の状況に応じられる力ということになります。
著書の内容から、〝流動性推理″とは、新奇な場面において、取るべき行動を考えて適応的な行動を取る力になります。
人はこれまでの繰り返しの経験によって身に付いた知識が必要とされる場面以外にも、様々な新しい場面に出会うことがあります。
その時に、自分はどう振る舞うべきか、どう行動すべきかを自ら判断・予測することが求められます。
著者の療育経験上、発達障害児は繰り返しによる生活経験で獲得したスキルを、比較的うまく活かすことができる一方で、新奇な体験・場面を特に苦手としているケースが多くあると感じています。
そのため、事前に取るべき行動、安心できる判断材料、事前の見通し(スケジュール)などを伝えていくことが大切だと言えます。
ワーキングメモリー
以下、著書を引用しながら見ていきます。
見たり聞いたりしたことを記憶に一時的に保存しておくこと、短期記憶の能力です。
WISC-Ⅴでは、入力方法の異なる視覚・聴覚両方の情報のワーキングメモリーを測れるようになりました。
著書の内容から、〝ワーキングメモリー″とは、見聞きした情報を記憶に保持しながら、その情報を操作する力になります。
〝ワーキングメモリー″には、目で見た情報の記憶・保持・操作に関わる〝視空間性ワーキングメモリー″と、耳で聞いた情報の記憶・保持・操作に関わる〝聴覚性ワーキングメモリー″があり、WISC-Ⅴでは著書にあるように、両方の力の測定が可能になっています。
〝ワーキングメモリー″の力が弱いと、他者が少し前に話していたことを直ぐに忘れてしまうことがよく起こります。
そのため、メモ帳やタブレット、録音機などの活用が有効であると考えられています。
著者の療育経験上、発達障害児の中にはワーキングメモリーに弱さが見られる子どもが多くいるといった実感があります。
そのため、紙に必要な情報を書いて伝えたり(何度も見られるように)、口頭指示はできるだけ提示数を少なくして(1~3つ程度)、簡潔に伝えるように心掛けています。
処理速度
以下、著書を引用しながら見ていきます。
作業を処理するスピードのことです。
著書の内容から、〝処理速度″とは、作業スピードのことを言います。
例えば、文字をはやく写して書く、単純作業のはやさなどがあります。
〝処理速度″が遅いと、様々な課題に対して素早く行動することが難しいため、どこかいつもゆっくりしている、はやくやろうとすると正確さに欠ける様子が出てきます。
そのため、ある程度多めに作業時間を取ること、複雑な作業を単純化させるなどの工夫が必要になります。
著者の療育経験上、処理速度が苦手な子どもの場合には、前もって多く作業できる時間を取ったり、その子の状態像から見て難易度が高い作業はできるだけわかりやすく、かつ、作業量を少なくするなどの調整を心掛けています。
また、作業が終わるまでゆっくり待つ姿勢も大切だと思います。
以上、【WISC-V(ウィスクファイブ)について】5つの主要指標を通して考えるについて見てきました。
大切なことは、5つの主要指標をもとに、本人の得意・不得意を把握していくことです。
そして、不得意な所には配慮・サポートを行い、得意な所をできるだけ活かせるような関わり方や方法を見出していくことが大切だと言えます。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も心理検査から得られる知見にも目を向けていきながら、より良い発達支援を目指していきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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