〝愛着(アタッチメント)″とは、〝特定の養育者との情緒的な絆″のことを指します。
子どもは養育者との愛着関係を基盤として、その後の対人関係を発展させていきます。
一方で、幼少期の愛着形成がうまくいかないことで、〝愛着障害″に繋がる危険性があります。
〝愛着障害″には、2つのタイプ(脱抑制タイプ・抑制タイプ)がありますが、医学的診断名こそないものの、3つ目のタイプも存在していると言われています。
それは、ASD(自閉スペクトラム症)を併せ持つ愛着障害のタイプです。
それでは、ASDを併せ持つ愛着障害のタイプには一体どのような特徴が見られるのでしょうか?
そこで、今回は、ASDを併せ持つ愛着障害のタイプについて、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら解説していきたいと思います。
今回参照する資料は「米澤好史(2024)発達障害?グレーゾーン?こどもへの接し方に悩んだら読む本.フォレスト出版.」です。
ASDを併せ持つ愛着障害のタイプについて
以下、著書を引用しながら見ていきます。
とくにASDのこどもは、愛着の問題を抱えやすい
「自分をわかってもらえている」という安心基地や、「誰かが自分を嫌な気持ちから守ってくれる」という安全基地も形成されにくい
このタイプのこどもたちは、普段から「籠もる」という特徴があります。
今回参照資料として上げている著書の米澤好史氏は、ASDを併せ持つ愛着障害のタイプは存在している(診断名はないが)と述べています。
また、臨床経験の中で、このタイプの子どもは非常に多いと述べています。
ASDを併せ持つ愛着障害の子どもは、対人認知の苦手さから(感覚の問題も内包している可能性あり)、養育者との情緒的な交流がうまく獲得しにくいと言われています。
そのため、著者にあるように、安心基地・安全基地が形成されにくく、感情の発達がうまく進まないと考えられています。
特徴としては、普段から〝籠もる″傾向があり、例えば、帽子やフードをかぶったり、カーテンや狭いロッカーなどに入り込み、安心基地・安全基地を確保しようとします。
いわゆる、〝居場所感″の確保と言われるものであり、このタイプの子どもが〝居場所感″を失う・無理に奪われると、次の2つの行動を見せると言われています(以下、著書引用)。
A パニックになって攻撃する
B 固まって一時的にシャットアウトする
それでは、A、Bの特徴について見ていきます。
A パニックになって攻撃する
以下、著書を引用しながら見ていきます。
感情混乱を引き起こしてパニックになるという反応。突然、攻撃的になります。
たいていの場合、その子のなかでは「フラッシュバック」が起きています。
著書の内容から、〝パニックになって攻撃する″行動の背景の多くに、過去のネガティブな感情経験、つまり、フラッシュバックがあると記載されています。
フラッシュバックを起こすきっかけになるものに遭遇した際に(言動、特定の物、人など)、しつこく攻撃を浴びせてくることが特徴だと言えます。
B 固まって一時的にシャットアウトする
以下、著書を引用しながら見ていきます。
強く注意されると固まってしまうという反応です。
一時的に周囲をシャットアウトしているだけですから、やはりたいていは30分ほどすると自然に回復します。
著書の内容から、〝固まって一時的にシャットアウトする″行動は、外の世界との関わりを遮断(シャットアウト)する行動です。
無理に関わろうとすると、シャットアウトの時間が伸びると言われており、静かに待つことで、自然に回復すると言われています。
著者の経験談
著者はASDを含めた発達障害児との関わりが多くあるため、これまで少なからずASDを併せ持つ愛着障害のタイプだと思われる子どもと関わってきています。
著書にある通り、確かに〝籠もる″ことが非常によく見られます。
例えば、普段からフードを室内でかぶっている、人が少ない狭い場所(部屋の隅、押入れ、ロッカーの中など)に1人で籠もることがよく見られています。
また、居場所がなくなると、攻撃行動が見られるのも特徴だと感じています。
著者は以前、未就学児の自閉症児を帰りの会への促しのため、無理にそれまで過ごしていた環境から引き離そうとしたことで、その後、著者を見ると約一か月以上攻撃し続ける様子がありました。
あまりのしつこさに、その後、関係性の構築に時間がかかりましたが、その子にとって、それほど、著者の行動が脅威に見えていたのだと思います。
また、シャットアウトする行動も時折見られます。
例えば、ある小学校高学年の自閉症児は、大人が怒っている様子を見て、自分がまるで怒られていると感じたのか、その後、しばらく固まってしまう状態に陥っていたことがありました。
ASDを併せ持つ愛着障害のタイプは、ASD固有の認知特性や感覚の問題などが影響して、関わり手との情動の共有が築きにくいことが特徴としてあります。
そして、両者のボタンの掛け違いが長期化すると、愛着障害といった二次障害へと繋がっていくのだと言えます。
以上、【ASDを併せ持つ愛着障害のタイプについて】療育経験を通して考えるについて見てきました。
このタイプの子どもは、著者の実感としても相当多いのではないかと感じています。
そのため、愛着に関する対応に加えて、ASD特性に関する対応も同時に行っていくことが支援の鍵になると感じています。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も療育実践を通して、愛着障害に関する理解と対応方法について学びを深めていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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