発達障害児・者には様々な感覚の問題が見られると言われています。
そのため、発達障害児・者支援に携わる人たちにとって、感覚の問題への理解と対応に関する知識は必須であると言えます。
こうした中で、人間の感覚について理解を深めていく際に、〝識別感覚″と〝原始感覚″はとても大切なキーワードになります。
それでは、識別感覚と原始感覚とはどのような感覚なのでしょうか?
そこで、今回は、識別感覚と原始感覚について、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「前田智行(2021)子どもの発達障害と感覚統合のコツがわかる本.ソシム.」です。
識別感覚と原始感覚について
著書にはイラストを通して〝識別感覚″と〝原始感覚″について分かりやすい記載があります。
それでは、それぞれについて見ています。
1.識別感覚について
以下、著書を引用しながら見ていきます。
周囲の状況を判断する器官=識別感覚
著書にあるように、〝識別感覚″とは、私たちが外界の状況を察知する感覚であり、主な感覚として、〝視覚″〝聴覚″〝味覚″〝嗅覚″が該当します。
私たちが普段の生活で意識をすることで強く感じることのできる感覚だと言えます。
一方、〝原始感覚″に関しては、普段の生活の中で意識することが少なく、また、どのような〝感覚″があるのかを把握している方も少ないと思います。
それでは、次に、〝原始感覚″について見ていきます。
2.原始感覚について
以下、著書を引用しながら見ていきます。
身体の維持・操作をする器官=原始感覚
著書にあるように、〝原始感覚″とは、身体を維持・操作をして安定させるために必要となる感覚であり、主な感覚として、〝固有感覚″〝前庭感覚″〝触覚″が該当します。
ここで、〝触覚″に関しては、〝識別感覚″と〝原始感覚″の両方を担っていると著書には記載があります。
〝原始感覚″は、〝識別感覚″とは異なり、人間の発達初期に大きく成長・発達する感覚であり、その後の、識別感覚を作る土台になると考えられています。
例えば、私たちは、〝固有感覚″といった物を持つ際に筋肉などから体に伝わってくる感覚や〝前庭感覚″といったバランス感覚などは、普段、無意識的に身体を使う際に活用している感覚であるため(多くの場合)、〝識別感覚″とは異なり意識しづらい所があります。
それは、人間が成長・発達をしていく中で、徐々に〝識別感覚″>〝原始感覚″が優位になっていくからです。
子どもの頃は、特に、様々なものを触ってみたり、様々なものを持ったり落としたり投げてみたり、色々な傾斜や段差のあるところを登り降りして身体感覚を養っていきます。
こうした身体経験がその後の〝識別感覚″の土台になっていきます。
著書のコメント
著者は長年にわたり、発達障害など発達に躓きのある子どもたちとの関わりがあります。
以前、未就学児の療育をしていた際に、感覚過敏の子どもが多くいました。
感覚過敏があると、もちろん、様々なもの(特定のもの)に触れる経験(触覚による経験)が少なくなります。
また、よく転ぶ、よく物を落とすなど、前庭感覚(バランス感覚)や固有感覚に苦手さのある子どもも多くいました。
私たち大人から見て、こうした行動特徴に使用される感覚は原始的な感覚ですので、ある程度の知識がないと理解と対応が難しいところがあると感じます。
それは、自ら無自覚的に活用している感覚であり、そして、言語化しにくい面があるからだと言えます。
そのため、感覚の問題を考えていく上で、〝原始感覚″の理解の重要性、そして、〝原始感覚″の上に〝識別感覚″が育っていくという発達的な理解が療育に携わる方においてとても大切な視点であると、当時の自分を振り返って見て強く感じるところでもあります。
以上、【識別感覚と原始感覚について】発達障害児支援の現場を通して考えるについて見てきました。
私たちは日々の生活の中で意識的・無意識的に様々な感覚を使って生きています。
感覚に問題があることは、日々の生活の様々な所に支障が生じることや、その後の発達過程において問題が生じる可能性があると言えます。
私たち支援者は、こうした感覚の問題についてもより探求心を持って学びを深めていくことで支援の可能性が広がっていくのだと思います。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も様々な感覚の問題について理解を深めていきながら、療育での実践に役立てていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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前田智行(2021)子どもの発達障害と感覚統合のコツがわかる本.ソシム.