自閉症(自閉症スペクトラム障害:ASD)とは、対人コミュニケーションの困難さとこだわり行動を主な特徴とする発達障害です。
自閉症児・者への支援方法として代表的なものに〝構造化″があります。
〝構造化″とは、空間・時間・手順などを本人にとって分かりやすいように見える化する方法のことを言います。
それでは、現在、構造化も含め自閉症児・者への支援にはどのような方法が活用されているのでしょうか?
そこで今回は、自閉症児・者への支援の5つの原則について、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら、〝SPELL″をキーワードに理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「藤野博(2023)自閉症のある子どもへの言語・コミュニケーションの指導と支援.明治図書.」です。
〝SPELL″とは何か?
〝SPELL″とはイギリスの自閉症協会が提唱している理念になります。
つまり、自閉症への支援の方向性として大切にしている考え方になります。
〝SPELL″のそれぞれの頭文字を取り以下の5つから構成されています。
Structure(構造)、Positive(肯定的)、Empathy(共感性)、Low arousal(刺激の低減)、Links(連携)から成っています。
それでは次に、それぞれについて見ていきます。
Structure(構造)
以下、著書を引用しながら見ていきます。
定型発達の人では、情報の取捨選択が自然に行われますが、自閉症のある人ではそれが難しいのです。その問題への有効な支援が構造化です。
自閉症児・者には弱い中枢性統合があります。つまり、細部知覚が優位となり物事の全体像の理解が難しいといった認知傾向があるということです。
こうした認知傾向もあり、外界の様々な情報を自然に取捨選択することが難しく、何か興味のある特定の情報に注意が向いてしまったり、全体把握よりも細かい点に注意が向くことが多くあります。
こうした特徴は、著者が関わる自閉症児・者にも多く見られると実感しています。
そのため、空間・時間・手順を本人にとって分かりやすい形で見える化するという〝構造化″はとても大切だと感じています。
Positive(肯定的)
自閉症児・者は独特な認知傾向を持つことからも周囲から問題視されることも少なくありません。
そのため、関わりの中でネガティブワードが増えてしまうこともあります。
大切なことは、自閉症児・者の認知スタイルや興味・関心の傾向をポジティブに捉えるということです。
そのために、以下のような事項が大切になります(以下、著書引用)。
物事の見方をネガティブからポジティブに変えることを「リフレーミング」といいますが、それは自閉症のある子の特性の理解に必要な視点の変更でもあります。
定型発達スタイルとの些細な違いは大目に見て、基本的なことができていたらOKとする寛容さが大切です。
著者も自閉症児・者との関わりの中でできるだけ肯定語を多用するように心がけています。
療育では特に自己肯定感を高める関わりが大切です。
そのため、自閉症の認知スタイル(認知傾向)を理解していきていきながら、肯定的な態度で接し、その中で肯定語を使用することが重要であると感じています。
Empathy(共感性)
自閉症児・者と関わったことがある人には実感できると思いますが、自閉症児・者の〝共感性″にはどこか定型発達児・者とは異なる独特なものがあります。
一方で、以下のような状態において〝共感性″を強く発揮する場合があると言われています(以下、著書引用)。
自閉症のある人は同じタイプの人に共感するという仮説です。
自閉症のある子どもたちにはこだわりがあり、マニアックな興味をもっていることが多いですが、それが共感関係を築く糸口になることがあります。
著者が関わる自閉症児・者の中にも、共通の興味関心を通して共感関係が築かれていると感じるケースが多くあります。
そのため、自閉症児・者がどのようなことに興味関心を持っているのかを把握していくことはとても大切なことだと感じています。
Low arousal(刺激の低減)
自閉症児・者の多くは感覚の問題を持っていることがあります。
例えば、特定の光が苦手な視覚過敏、大きな声や騒音が苦手な聴覚過敏、ザラザラ・ベトベトなどの特定の感覚を苦手とする触覚過敏など人により種類や程度が異なると言われています(逆に、鈍感なケースもあります)。
そのため、直接目には見えにくい感覚への問題の理解も大切になります。
著者が関わる自閉症児・者の多くは感覚の問題が見られます。
そのため、一人ひとりが安心できる環境調整がまずは必要不可欠な対応になると考えています。
Links(連携)
以下、著書を引用しながら見ていきます。
自閉症のある子の支援では、保護者、教師や専門家が情報と支援の方針を共有することが重要です。
また、地域社会との連携も大切です。地域の中に同じ特性をもつ子どもたちが集う余暇活動の場があると、先に述べたようにコミュニケーションが促進され、彼らなりのスタイルで社会性が育っていきます。
自閉症への支援は一人で行うことはできません。
そのため、様々な人たちが〝連携″することが大切です。
著書にもあるように、情報の共有や支援方針を共有することは重要であり、こうした日々の情報共有のための〝連携″の蓄積が支援の質を高めることに繋がると実感しています。
また、地域の中で支えるための〝連携″もまた重要な視点です。
著者は現在、放課後等デイサービスで療育をしていますが、同じ地域に住む子どもたちが一緒に余暇を過ごす中で、コミュニケーション能力や社会性が育まれていくことを長年見ていると感じることができます。
そのため、地域社会との〝連携″もとても大切だと思います。
以上、【自閉症児・者への支援の5つの原則について】〝SPELL″を通して考えるについて見てきました。
〝SPELL″という理念はこれまで多くの自閉症の人たちを支援してきた著者の実感としても大切な要素が網羅的に組み込まれているという実感があります。
支援をしていく中でうまくいくことやいかないことなど様々なことがあります。
そのため、時に理念に立ち返り自分の支援のあり方を見つめ直すことが重要なのだと思います。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も自閉症の人たちのことを理解していきながら、より良い支援を目指していきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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藤野博(2023)自閉症のある子どもへの言語・コミュニケーションの指導と支援.明治図書.