「〝心の理論″とは、他者の意図、欲求、願望、信念、知識といった心の状態を推論する能力」のことを言います。
自閉症(自閉症スペクトラム障害:ASD)の人たちは、心の理論の獲得に困難さがあると言われています。
一方で、心の理論を獲得した自閉症の人たちは言葉の力を使って他者の心の状態を推測していると言われています。
それでは、言葉の育ちに影響すると考えられる読書経験の有無は自閉症児の心の理論の発達に貢献するのでしょうか?
そこで、今回は、自閉症児の心の理論と言葉の発達について、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら、読書経験の有無は心の理論の育ちに貢献するのか?といった内容について理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「藤野博(2023)自閉症のある子どもへの言語・コミュニケーションの指導と支援.明治図書.」です。
自閉症児の心の理論の発達について
以下、著書を引用しながら見ていきます。
本を読むことの利点はたくさんありますが、そのひとつに心を理解する力を育むということがあります。
自閉症のある子の心の理論の発達には読書経験が関係することも考えられます。
自閉症のある子が人の心の動きに関する知識を蓄えたり推論できたりするようになるのは、本を読むことを通じて行っている面があるように思います。
著書には、自閉症児と心の理論の発達には読書経験が関係していると記載されています。
自閉症児が心の理論を獲得する時期は言語発達年齢9歳頃(小学校の中学年頃)と言われており、ある程度、言語能力が育つことで言葉によって他者の心の状態を推論できるようになります。
定型発達児は、他者の心の状態について〝なんとなくわかる″〝直感的にわかる″という理解であるのに対して、自閉症児は言葉を使って〝○○の場合には○○の意図を持って行動しているのではないか″と推論するという違いがあります(直感的な理解か言葉による推論かの違い)。
そして、こうした言語を使って他者の心の状態を理解する力は著書にあるように読書を通じて鍛えられる面もあるのかもしれません。
読書をしたことのある人なら実感できると思いますが、物語などの本を読むことで様々な人物の心情を想像する力がついたと感じる人も多いのではないでしょうか。
自閉症児にとって、普段の生活の中で他者の心を直感的に理解することに苦手さがある分、読書などを通して言葉によって他者の心の状態を読み取る力が育つことは可能性としてあるように思えます。
著者の経験談
著者がこれまで関わってきた自閉症児の中には、読書を通して心の理論の力が育まれているのではないか?と感じるケースもあります。
知的に遅れのない自閉症児の場合だと、小学校高学年頃になると言葉の発達が顕著に見られる場合もあります。
著者が見てきた高学年の自閉症児の中には、少し難しめの物語関連の本を読むことで、そこに登場している人物の行動を予測したり、その時々の登場人物の気持ちを言葉にして共有・共感を求めてくる姿もあります。
例えば、○○さんは○○したかったんだろうね、○○さんの様子を見て悲しい感じがします、○○さんはきっと次に○○すると思います、など登場人物の意図や心情を推論する様子です。
しかし、こうしたケースはあまり多いわけではないように思います。
なぜなら、自閉症児が好きな本のジャンルは物語などのフィクションではなく、車・電車・植物・昆虫・歴史・天体などが多いからです。
しかし、読書好きな自閉症児の場合には、何かの拍子に物語にも手を出すことがあるため(例えば、歴史に関する物語など)、好きが基盤となって物語の世界にハマっていくこともあるように思います。
実際に著者が見ている自閉症児も自分の興味・関心を探求していく中で、そこに物語との出会いがあったのではないかと思います。
あくまでも可能性の話ではありますが、子どもたちの心の育ちには少なからず読書の影響があるのではないかと著者の経験からも納得できるところがあります。
以上、【自閉症児の心の理論と言葉の発達について】読書経験の有無は心の理論の育ちに貢献するのか?について見てきました。
物語とは何も活字だけとは限りません。
マンガなどイラストが多く載っている本でも良いと思います。
大切なことは他者の心の状態を推測する機会があるかどうか、そして、そのことに興味・関心を持てるかどうかだと思います。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も子どもたちの心の理論の育ちに貢献していけるような関わりや、何が心の理論の発達に貢献するのかということへの学びを深めていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
関連記事:「【心の理論の発達について】物語の視点を通して考える」
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藤野博(2023)自閉症のある子どもへの言語・コミュニケーションの指導と支援.明治図書.