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【自閉症児の人間関係の育て方】乳児期~幼児期の発達段階を通して考える

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自閉症(自閉スペクトラム症:ASD)とは、〝社会性の障害″〝コミュニケーションの障害″〝こだわり行動″を特徴とする発達障害です。

著者は長年、療育現場で未就学児から小学生を対象に療育をしてきています。

自閉症児への支援において、〝人間関係″の力を育てることはとても大切だと実感しています。

 

それでは、自閉症児の人間関係を育てる上でどのような視点が大切になるのでしょうか?

 

そこで、今回は、自閉症児の人間関係の育て方について、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら、乳児期~幼児期の発達段階を通して理解を深めていきたいと思います。

 

 

今回参照する資料は「白石雅一(2024)おもちゃ教材で育む人間関係と自閉スペクトラム症の療育~親・保育園・幼稚園・学校・児童発達支援・放課後等デイサービスのためのガイド~.東京書籍.」です。

 

 

自閉症児の人間関係の育て方について

著書には、乳児期~幼児期の自閉症の子供には、人への〝安心感″や〝信頼感″を丁寧に育てていくことを前提に、以下の8つのポイントを取り上げています(以下、著書引用)。

①環境調整

②感覚的な遊びの提供

③あやしとなだめ

④目線を合わせる

⑤目で追わせる

⑥クレーン現象対応

⑦代替行動の提示

⑧情動調律

 

 


それでは、次に、以上の8つについて著者の経験談も踏まえて具体的に見ていきます。

 

①環境調整

環境調整″の視点は、自閉症を含む全ての発達障害においてとても大切です。

環境調整″には、〝物的環境″といった〝安心できる″〝わかりやすい″環境の調整があります。

自閉症の人に多く見られる〝感覚過敏″など感覚の問題への対応もまた〝物的環境″を考えていく上でキーとなります。

加えて、〝人的環境″といった〝人への安心感″の調整があります。

著者は子供にとって〝人″という〝環境″が最も重要な〝環境調整″だと感じてます。

 

 

②感覚的な遊びの提供

未就学の自閉症児にとって、子供が好む〝感覚遊び″を把握していくことは大切です。

著者は以前、療育現場で、体を使った遊び、例えば、ブランコ遊び、毛布ブランコ遊び、など著者が子供の体を押したり揺らしりする遊びをよく行っていました。

子供は自分が好きな〝感覚遊び″を通して、その感覚遊びを行っている〝大人″に次第に意識が向き、人との関わりを楽しむ基盤ができてくるのだと思います。

 

 

③あやしとなだめ

子供の気持ちが不安定な場合に、その気持ちを落ち着かせる対応・関わりがとても大切です。

子供は、〝この人といると安心できる″といった感覚を、大人が〝あやしとなだめ″を繰り返していくことで、身体を持って少しずつ感じ取るようになっていくのだと思います。

 

 

④目線を合わせる

自閉症児は、他者と視線を合わせること、視線の意味を理解することを苦手としています。

そのため、様々な場面で視線を共有できた!といった経験を増やしていく関わりがとても大切です。

著者も子供の興味関心を通して、視線の共有(共同注意)を促すことを大切にしています。

子供は自分の興味関心を分かち合うことのできる相手がいることで、その相手と視線を合わせる頻度が増していくのだと思います。

 

 

⑤目で追わせる

視線の共有に加えて、おもちゃの物体などを〝視線で追う″こともまた大切です。

著者は療育現場で、車のおもちゃを走らせたり、ボーリング遊びをしたり、的当てゲームをするなど、子供が〝視線を追う″様々な遊びを行ってきました。

子供たちは追視を通して、眼球運動の力を高めること、物事の因果関係を理解する(当たると倒れるなど)力を高めていくことができるのだと言えます。

 

 

⑥クレーン現象対応

クレーン現象″は自閉症児によく見られる行動です。

大人の手を取ってクレーンのように物を操作する様子から〝クレーン現象″と呼ばれています。

クレーン現象″の関わりを通して、〝道具的安全基地″が整ってきたら、次に、〝クレーン現象″に言葉を加えたり、また、大人がモデルを見せて物を取る、操作する様子を見せることで徐々にコミュニケーションの基礎ができてくるのだと言えます。

 

 

⑦代替行動の提示

自閉症児は〝一方的で唐突な行動″をすることがよくあります。

一見すると、ネガティブな行動として映るものであっても、叱らずに対応することが大切です。

そして、望ましい適切な行動に繋がるように〝代替行動の提示″を行っていく必要もあります。

著者は、何かお願いしたいことがある際に、著者の手を無理やり引っ張り続けて自分の意志を表出する子供に対して、〝お願いだよ″と言葉による〝代替行動の提示″を行い続けたことがあります。

この子はある時期から言葉で自分の意志を伝える様子が出てきました。

その際に、著者がその様子を褒めたこと、子供の意図を汲みとり直ぐに行動に繋げたことで言葉での発信が高まっていったのだと思います。

 

 

⑧情動調律

情動調律″とは、大人が子供の思いを受け止めて、その思いを調律・調整することで、子供の気持ちが整っていくことを意味しています。

情動調律″への対応は、後の〝感情のコントロール″の発達に繋がっていくと考えられています。

著者は療育現場で、子供の様々な思いを受け止めて、その不安定な思いを整えていくことが多くあります。

子供にとって、自分の思いがうまく受け止められたこと、そして、その思いがうまく整えられていったという経験の繰り返しが、感情の育ちに繋がっていくのだと実感しています。

 

 


以上、【自閉症児の人間関係の育て方】乳児期~幼児期の発達段階を通して考えるについて見てきました。

自閉症児は定型発達児とは異なる行動を見せることがよくあります。

その一方で、自閉症児の特性を理解していきながら関わり方を工夫していくことで、人間関係の力は着実に育っていくのだと思います。

私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も療育現場で、自閉症児の特性を踏まえた関わり方を実践を通して見出していきたいと思います。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

 

 

関連記事:「【自閉症児・者への支援の5つの原則について】〝SPELL″を通して考える

 

関連記事:「自閉症に関するおすすめ本【初級~中級編】

 

 

白石雅一(2024)おもちゃ教材で育む人間関係と自閉スペクトラム症の療育~親・保育園・幼稚園・学校・児童発達支援・放課後等デイサービスのためのガイド~.東京書籍.

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