自閉症(自閉スペクトラム症:ASD)とは、〝社会性の障害″〝コミュニケーションの障害″〝こだわり行動″を特徴とする発達障害です。
自閉症児への支援で大切なことの一つに〝人間関係″の力を高めるものがあります。
〝人間関係″の力の育ちで有効なアプローチに〝おもちゃ教材″があります。
関連記事:「【自閉症児の人間関係の力を高める方法】おもちゃ教材を例に考える」
それでは、自閉症児は一体どのようなおもちゃ教材を好むのでしょうか?
そこで、今回は、自閉症児が好むおもちゃ教材とは何かについて、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「白石雅一(2024)おもちゃ教材で育む人間関係と自閉スペクトラム症の療育~親・保育園・幼稚園・学校・児童発達支援・放課後等デイサービスのためのガイド~.東京書籍.」です。
自閉症児が好むおもちゃ教材について
著書には、自閉症児が好む〝おもちゃ教材″について〝6つのポイント″が記載されています(以下、著書引用)。
①取っ付きやすさ
②感覚への刺激性
③操作しての楽しさ
④集中と持続性
⑤協働しての達成感
⑥次の課題への発展性
それでは、次に、以上の〝6つのポイント″について、著者の経験談も交えながら具体的に見ていきます。
①取っ付きやすさ
ペグさしや型はめといった入れる・はめるなど、提示された教材の用途がすぐに分かる〝取っ付きやすさ″は大切です。
著者の療育現場でも、見てすぐに〝おもちゃの教材″をどうやって使えばいいのかが分かる物は遊びの入り口としては人気が高いです。
そして、〝取っ付きやすさ″を入り口として徐々に教材の難易度を上げるといった工夫の余地が生まれてきます。
まずは、触ってみたい!遊んでみたい!といった理解のしやすさがベースとなっていることが重要だと感じています。
②感覚への刺激性
粘土遊び、スライム遊び、ブロック遊びなど、〝感覚刺激を得られる″遊びもまた大切です。
一方で、注意点として著書にも記載がありますが、〝ほどよい感覚″が重要であり、感覚刺激がその子にとって強すぎるものであれば、感覚遊びに没頭し続けてしまうこともあります。
そのため、感覚へのアセスメントなど、著者は子どもたちがどのような感覚を好むのか、そして、どの程度の強度を好むかを把握することを心がけています。
関連記事:「発達障害の感覚調整障害について【4つのタイプから考える】」
③操作しての楽しさ
プラレールや音の鳴るおもちゃなど、スイッチを入れると走る・ボタンを押すと音が鳴るといった、自分の行動(スイッチを押す・ボタンを押す)→結果(走る・音が鳴る)の繋がりが理解できる〝操作しての楽しさ″を実感できるものも大切です。
行動→結果がシンプルなものでも、子どもにとっては自分が操作している楽しさを味わうことのできる楽しさがあります。
操作性のある遊びを通して、おもちゃ教材の原理・仕組みを理解していくことに繋がり、さらに難易度の高い遊びへと発展していく様子も見られます。
④集中と持続性
様々な〝おもちゃ教材″の導入に成功したら、〝集中と持続性″を持って取り組むような方向づけの工夫もまた大切です。
そのためには、教材の難易度や操作性、そして、興味関心がその子にフィットしていること、さらに、継続性を持って取り組めることが重要だと言えます。
著者の療育現場では、レゴブロックやパズル、お絵描き、工作遊びなどは継続して行うことができるものであると感じています。
⑤協働しての達成感
特定の〝おもちゃ教材″を通して、他者との関わりの中で得られる〝協働しての達成感″もまた大切です。
積み木遊び、ブロック遊び、工作遊びなど、著者は子どもたちと一緒に創作することが多くあります。
こうした遊びを通して、子どもたちは、他者と協力することでうまくできた!他者と一緒に行うことで遊びがさらに楽しくなった!など、ある種の〝達成感″が生じます。
様々な遊びにおいてこの視点はとても大切だと感じています。
⑥次の課題への発展性
自閉症児の遊びは発展性に乏しく、そして、広がりもまた乏しいことがあります。
そのため、関わる大人が〝おもちゃ教材″の難易度を徐々に上げ〝次の課題への発展性″を作っていくことが大切です。
例えば、お絵描きにしても、大人が書いて見せる→なぞり描きをする→真似て描く(モデル見て)→自分で描く(モデル無し)など、大人が少しずつ難易度を上げていくことで、最終的に一人で非常に完成度の高い絵を描けるようになった子もいます。
そのためにも、〝発達の最近接領域″〝足場づくり″の視点は非常に重要であると感じています。
関連記事:「【療育で大切なこと】能力の発達について:発達の最近接領域と足場づくりをヒントに」
以上、【自閉症児が好むおもちゃ教材とは何か?】療育経験を通して考えるについて見てきました。
今回見てきた〝6つのポイント″は、これまでの著者の療育経験を振り返って見ても、大切だと実感できるものが多くあると思っています。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も療育現場で関わる子どもたちへの支援に関して、おもちゃ教材の重要性をさらに深く学んでいきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
白石雅一(2024)おもちゃ教材で育む人間関係と自閉スペクトラム症の療育~親・保育園・幼稚園・学校・児童発達支援・放課後等デイサービスのためのガイド~.東京書籍.