著者の療育現場には、自閉症児も多くいますが、中には、過去の〝負の記憶″をしっかりと覚えている子どもがいます。
例えば、○○の時に言ったあいつの言葉や態度は許さない、○○が作ったルールはむかつく、など何年も前の出来事をはっきりと覚えていることがあります。
著者から見て〝まだ覚えているのか!″〝今は楽しく活動しているので別に気にすることはないのでは?″など様々な思いが過りますが、当の本人からすれば割り切れない思いがあるのだと言えます。
それでは、自閉症の人に見られる負の記憶に対してはどのような対応方法があるのでしょうか?
そこで、今回は、自閉症の負の記憶への対応について、臨床発達心理士である著者の意見も交えながら、3つの対応方法を通して理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「前田智行(2023)子どもの発達障害と二次障害の予防のコツがわかる本.ソシム.」です。
自閉症の負の記憶への3つの対応方法について
以下、著書を引用しながら見ていきます。
1つは、「失敗が少ない環境設定です」。
2つ目は、「理由をつけて説明する」です。
3つ目は、「嫌なことがあれば、納得するまで話し合って終わる」です。
次にこの3点について具体的に見ていきます。
1.失敗が少ない環境を作る
当然ではありますが、マイナス経験を積み重ねないような環境調整が必要です。
つまり、様々な記憶の中での総量がプラスのものを増やしていくという対応が大切です。
人によっては、〝失敗から学ぶことができる″と考えている人もいるかもしれません。
しかし、発達障害児(ASD児やADHD児など)は、失敗経験からの学びを苦手としているケースが多くあると思います。
失敗経験が続くと、二次障害へのリスクも高まります。
そのため、子どもの頃には、できるだけ配慮された環境の中で、成功体験を多く積めるような関わり・対応が重要だと著者は考えています。
2.理由をつけて説明を行う
ASDの人たちにとっては、相手の思いの汲み取りに苦手さがあったり、漠然とした状況理解に難しさがあります。
そのため、言葉で具体性を持って本人に分かるように説明する必要があります。
例えば、大人が良かれと思ってとった言動・態度に対して反発心があれば、なぜこうした行動を取ったのかをその人に分かりやすく伝えることが必要です。
著者が見てきた子どもの中には、他児の言動や行動が気になり文句を言い始めていため、著者は他児の言動や行動の意味を何度もその子にわかるように試行錯誤して伝えるようにしたことがあります。
こうしたやり取りの中で、その子の中で、〝わかった″〝納得できた″という思いが生じるとその後はそれほど気にする様子は見られないのだと感じています。
3.嫌なことがあれば、納得するまで話し合って終わる
以下、著書を引用しながら見ていきます。
特に、明確な謝罪や損失と同じ対価をもらうなどのゴール設定が有効です。あいまいなまま終わったり、自分のほうが損をしていると感じて終わると、長期的に負の記憶を引きずるため、1つひとつのトラブルに丁寧に対応していきましょう。
ASDの人たちは、曖昧さを苦手としています。
一方で、白黒思考といった物事を極端に考えたり、はっきりさせたい思考があります。
そのため、著書にあるように、曖昧な状況で本人が納得できない場合には、納得をするまで話し合うことが有効だとされています。
その中で、本人が納得できるゴール設定に持っていくことを意識して話を進めることが効果的だとされています。
著者も可能な限り、その子の気持ちのもやもや感が引きずらないこと、そして、自分だけが損をしたと感じないような関わり方を考えるように心がけています。
以上、【自閉症の負の記憶への対応】3つの対応方法を通して考えるについて見てきました。
自閉症の負の記憶の想起は様々な場面で見られることがあります。
それは、数年前といった年単位にまで遡ることもあります。
今の状況とは何ら関係のない内容もあるため、著者は驚くこともありますが、それだけネガティブな記憶はその子の中で強く残り続けることを意味しているのだと思います。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も療育現場で関わる自閉症児に対して、負の記憶を極力作らないような関わり方を考え実践していきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
関連記事:「【自閉症の時間感覚障害への対応】療育経験を通して考える」