自閉症(自閉症スペクトラム障害:ASD)とは、対人コミュニケーションの困難さとこだわり行動を主な特徴とする発達障害です。
自閉症には様々な行動面や心理面の特徴があると考えられています。
それでは、自閉症の特徴を説明する行動面と心理面にはどのような仮説があると考えられているのでしょうか?
そこで、今回は、自閉症への理解を深めていくために、自閉症の特徴を説明する5つの仮説とは何かについて考えを深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「サイモン・バロン=コーエン(著)水野薫・鳥居深雪・岡田智(訳)(2011)自閉症スペクトラム入門 脳・心理から教育・治療までの最新知識.中央法規.」です。
自閉症の特徴を説明する5つの仮説とは何か?
著書の中では、自閉症とアスペルガー症候群に関して、5つの仮説を取り上げています(以下、著書引用)。
- 実行機能障害仮説
- 弱い中枢性統合仮説
- マインドブラインドネス仮説
- 共感化-システム化仮説(結果としての、超男性脳仮説)
- 大細胞仮説
それでは、以下、それぞれについて見ていきます。
・実行機能障害仮説
〝実行機能″とは、活動をコントロールする能力のことを言います。
私たちは、ある活動をする場合に、目標を設定し、それに向けて計画を立て、必要な情報を更新しながら、目標に向けて注意を維持する必要があります。
自閉症の人たちは、実行機能の弱さの特徴として、〝プランの実行″と〝注意の切り替え″があると考えられています。
〝プランの実行″に苦手さがあると、目標に向けて計画立てることの苦手さから、なかなか実行に移していくことができない、やるべきタスクに着手できないなどがあります。
〝注意の切り替え″に苦手さがあると、ついつい自分の興味のあることや気になることに注意が向いてしまい、やるべきタスクに立ち戻れないことがあります。
関連記事:「【実行機能障害仮説とは何か?】自閉症の特徴について考える」
・弱い中枢性統合仮説
〝中枢性統合″とは、様々な情報を統合し物事の全体像を把握することです。
自閉症の特徴には、様々な情報を統合することの苦手さ、つまり、〝弱い中枢性統合″がある一方で、物事の細部に注意が向く傾向があると言われています。
そのため、物事の理解において全体把握の弱さ、作業のなどもマルチタスクが苦手といった特徴があります。
一方で、特定の興味・関心に注意を向けたり、物事の非常に細かな点への気づきが強い人が多くいます。
関連記事:「【弱い中枢性統合仮説とは何か?】自閉症の特徴について考える」
・マインドブラインドネス仮説
〝マインドブラインドネス″とは、〝心の理論″の弱さのことであり、〝心の理論″とは、〝他者の心の状態を理解する力″のことを指します。
〝心の理論″は自閉症の特徴を説明する非常に代表的な仮説となっています。
自閉症の特徴として、〝心の理論″の弱さがあるため、他者の心の状態(信念、意図、知識など)の推論がうまくできないことが多く、そのため対人コミュニケーションにおいて困難さが生じることがあります。
関連記事:「【マインドブラインドネス仮説とは何か?】自閉症の特徴について考える」
・共感化-システム化仮説(結果としての、超男性脳仮説)
〝共感化-システム化仮説″とは、共感化の弱さ、システム化の強さといった観点から自閉症の特徴を説明したものになります。
〝共感化″とは、文字通り他者と様々な感情を共有することです。
〝システム化″とは、物事の中からルールや規則、構造などを見出していく力のことです。
自閉症の人たちには、上記にも記載した通り、〝共感化″の弱さ、〝システム化″の強さといった特徴が見られます。
最後に、〝超男性脳仮説″についても触れておきます(以下、著書引用)。
共感化-システム化仮説は、自閉症の超男性脳仮説へと広がってきた。共感化(女性は、この多くのテストでより成績がよい)とシステム化(男性は、この多くのテストでより成績がよい)の間には明確な性差があるためである。
関連記事:「【共感化-システム化仮説とは何か?】自閉症の特徴について考える」
・大細胞仮説
以下、著書を引用しながら見ていきます。
自閉症についての新しい仮説は、脳内における情報処理の主要な回路である小細胞回路は損なわれていないにもかかわらず、もう一つの主要な回路である大細胞回路の特異的な機能不全があることを示唆している。
著書の内容から、自閉症の脳内の情報処理の特徴として、小細胞回路は通常に機能している一方で、大細胞回路には特異的な機能不全があると考えられています。
このように、脳細胞の知見からも、定型発達の人とは異なる情報処理を自閉症の人たちは行っていると言えます。
以上、【自閉症の特徴を説明する5つの仮説とは何か?】自閉症理解のために必要な知識について考えるについて見てきました。
ちなみに、以上の仮説の中で自閉症の特徴を最も多く説明しているものは、〝共感化-システム化仮説″であると著書に記載があります。
自閉症研究はまだまだ途上でありますが、著者が初めて自閉症について知った当時を思い起こすと非常に躍進しているという感じがします。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も様々な研究知見を学んでいきながら、研究知見を現場に応用する力も同時に身に付けていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
サイモン・バロン=コーエン(著)水野薫・鳥居深雪・岡田智(訳)(2011)自閉症スペクトラム入門 脳・心理から教育・治療までの最新知識.中央法規.