私たちは、様々な対象に注意を向けながら生活しています。
例えば、人の話に注意を傾ける、本や動画などに注意を向けるなどがあります。
自閉症(自閉症スペクトラム障害:ASD)の人たちは、注意の配分や持続に特徴があると言われています。
著者も療育現場を通して様々な自閉症児・者と関わる機会がありますが、ある人は特定の対象に過度に集中する傾向があったり、またある人は様々なことに注意が向くなど注意散漫な様子も見られます。
それでは、自閉症の人たちにはどのような注意の特徴があると考えられているのでしょうか?
そこで、今回は、自閉症の注意の特徴について、〝ギャップ効果″を通して理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「千住淳(2014)自閉症スペクトラムとは何か-ひとの「関わり」の謎に挑む.ちくま新書.」です。
自閉症の注意の特徴について
以下、著書を引用しながら見ていきます。
自閉症を抱える方々の心の動きの研究から知られていることの一つに、彼ら・彼女らは「注意の解き放ち」が難しい、というものがあります。
著書の内容にある「注意の解き放ち」の難しさとは、〝注意の切り替えの困難さ″とも言い換えることができます。
例えば、自分の興味関心があるものには高い集中力を発揮することができるも、そこから他のものに注意を切り替えることが難しいという状態です。
著者の療育現場でもこうした行動はよく見られています。
〝ギャップ効果″とは何か?
〝ギャップ効果″とは、ある対象に注意を向けた際に、そこから他の対象に注意を向けるまでに必要な時間のことを言います。
先行研究では、事前に注意を向けて欲しいものを指定しておき、そこから注意を向けて欲しい他の対象へ注意が切り替わる時間を測定する方法を取ることで〝ギャップ効果″を計測しています。
その結果によれば、定型発達児と比べて自閉症児は、ある対象から他の対象に注意を向けるのに時間を要するといった〝ギャップ効果″が大きいことが分かっています。
〝ギャップ効果″はその対象によって変化する?
一方で、注意を向ける対象によって〝ギャップ効果″に変動があることも分かってきています。
以下、著書を引用しながら見ていきます。
もう一つ強調しておきたい点として、自閉症の「くっつきやすくはがれにくい」注意は何に対しても起こるものではなく、「何に」注意を向けているかによって変わる、という可能性も示唆されています。
著書の内容から、〝ギャップ効果″は、何に対しても起こるわけではないと考えられています。
つまり、自閉症が好むもの(例えば、アニメのキャラクター、虫、道路標識、電車や車など)に注意を向けている時には、〝ギャップ効果″は大きく生じるも、人の顔にはそれほど生じないと言われています。
興味関心が限定されている自閉症にとって、自分の興味関心が高い対象になると注意がはがれにくい傾向があるということです。
著者が関わる自閉症児・者も、その人にとって興味関心が高いものであると高い注意力を発揮し、なかなかその対象から注意が離れることが難しいことがあります。
例えば、療育現場で帰りの会が始まってもなかなかお絵描きや読んでいる本から離れることが難しい状況はよく起こります。
自閉症児・者の中には、一度覚えたルールをしっかりと守ろうとする場合があります。
しかし、社会とはルールが状況に応じて変化することがあります。
そのため、勝手にルールが変わってしまうことでパニックになることも自閉症児・者の中にはあります。
こうした行動の背景にもまた、〝ギャップ効果″の大きさといった〝くっつきやすくはがれにくい″注意の働きがあると考えられています。
以上、【自閉症の注意の特徴について】〝ギャップ効果″を通して考えるについて見てきました。
〝ギャップ効果″が大きいことは、自閉症児・者と関わりの経験が多くある著者から見ても実感できます。
一方で、〝くっつきやすくはがれにくい″特徴は、時と場合によっては強みになると思えることもあります。
例えば、興味関心に没頭しさらにその対象を深く理解していくこと、没頭が必要な作業への高い集中状態の発揮に繋がるなどは仕事や勉強には有利になることもあります。
このように、人間の注意の配分や切り替え、持続は時と状況によって弱みになったり、強みになったりするものだと思います。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も自閉症の特徴への理解を深めていきながら、より良い発達理解と発達支援に繋げていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
千住淳(2014)自閉症スペクトラムとは何か-ひとの「関わり」の謎に挑む.ちくま新書.