「〝心の理論″とは、他者の意図、欲求、願望、信念、知識といった心の状態を推論する能力」のことを言います。
自閉症(自閉症スペクトラム障害:ASD)の人たちは、心の理論の獲得に困難さがあると言われています。
また、心の理論を理解していくプロセスが定型発達児とは異なるといった考え方もあります。
それでは、自閉症の人たちに見られる心の理論の困難さの特徴にはどのようなものがあるのでしょうか?
そこで、今回は、自閉症の心の理論の特徴について、臨床発達心理士である著者の経験談からいくつか事例をお伝えしていきます。
自閉症の心の理論の特徴について
自閉症の人たちには、心の理解に関して状況において様々な困難さが生じます。
著者は療育現場で多くの自閉症児との関わりがあります。
以下、心の理論の困難さに関する事例を見ていきます。
事例1:他者の心情がうまくくみ取れない
自閉症児のAちゃんは、他者の心の状態を理解することが難しいお子さんです。
例えば、相手が興味のない話でも、自分が好きであればお構いなしに話し続けることがあります。
相手のリアクションが弱くても、自分が言いたいことをしゃべり尽くすまで話が止まらないこともあります。
Aちゃんは、他者の興味は自分とは異なるといった理解が弱いため、一方的な話し方をしてしまうなど、心の理論の弱さが様々な場面で見られます。
事例2:他児が何をして過ごしたいのかの把握がうまくできない
自閉症児のB君は、やりたい遊びを自分のペースで進める特徴の強いお子さんです。
もちろん、状況によっては、周囲を引っ張るなどリーダーシップやムードメーカーとなる場面もあります。
一方で、他児が遊びを進めて行く中で見せる様々な反応(表情や言動など)への気づきが弱いため、そのままマイペースで遊びを進めたり、時には、遊びのルールを急に変更しようとすることもあります。
もちろん、B君には、まったく悪気はありません。
時には、〝みんなも面白いだろう″〝みんなも喜んでくれるだろう″といった思いから提案をしている部分もあるのかもしれません。
こうしたB君の行動の背景には、〝他児が今どのような心境にいるのか″といった理解に困難さを抱えているのではないかと感じます。
事例3:冗談が通じない
自閉症児のC君は冗談がなかなか通じないお子さんです。
著者が冗談交じりに発言した内容も本当だと受け取ってしまうこともあります。
そのため、C君は、周囲の誰かが話した言動をすぐに信じ込んでしまう傾向があります。
〝冗談″や〝うそ″がつけるとは、〝相手の心に誤った信念を生じさせる″ことができて初めて可能となる行動です。
つまり、〝相手は自分とは異なる心を持っている″といった理解を前提としています。
こうしたC君の冗談が通じ合えない特徴には、心の理論の困難さが背景となっていることが考えられます
関連記事:「【人はなぜ〝うそ″がつけるようになるのか?】心の理論の発達から考える」
関連記事:「【〝うそ″と〝冗談″の違いとは何か?】二次の心の理論の発達から考える」
事例4:複数人の中での会話が成立しない
自閉症児のD君は、一対一の関係では比較的上手に会話を進めることができます。
一方で、3人以上など複数の人数での状況になると、うまく会話が成立しないことがあります。
例えば、A君、B君との三人で会話をしていたとしましょう。
その際に、A君とB君それぞれの話の内容は理解できても、A君とB君の関係性を含めた会話のやり取りは難しいといった感じです。
関係性とは、A君とB君はお互いのことが好きである、A君とB君はあまり仲がよくない、など両者には様々な関係性があるということです。
そのため、お互いのことをどのようにそれぞれが思っているかで、会話の進め方も微妙に変化していきます。
こうした複雑な関係性を理解していきながら、会話を成立させるためには、心の理論のさらなる発達が必要だと言えます(専門用語では〝二次の心の理論の発達″)。
関連記事:「【一次の心の理論、二次の心の理論とは何か】療育経験を通して考える」
以上、【自閉症の心の理論の特徴について】療育経験を通して考えるについて見てきました。
以上見てきた4つの事例ですが、心の理論の困難さは年齢など発達に伴い成長していくことも十分あります。
中には、これまで冗談が通じなかった子が自ら冗談を言う、冗談を楽しめるようになったケースもあります。
また、一方的な話し方が多かった子が、他者との会話のキャッチボールがうまくできるようになったケースもあります。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も自閉症の心の理論の特徴について理解を深めていきながら、現場でできる支援を実施していきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
関連記事:「【心の理論とは何か?】療育経験を通して考える」