自閉症に人たちには様々な情報を統合することの苦手さ、つまり、〝弱い中枢性統合″があると考えられています。
一方で、物事の細部に注意が向く傾向があるといった細部知覚に優れている特徴もあります。
〝弱い中枢性統合″があると、物事の細部に目が行く反面、全体的な理解の弱さが様々な場面で生じます。
私たちの身の周りには、細部を細かく理解すること以上に、物事の全体像を理解することが様々な場面で必要になります。
それでは、〝弱い中枢性統合″にはどのような具体的な支援方法があるのでしょうか?
そこで、今回は、自閉症の弱い中枢性統合への支援について、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「下山晴彦(監修)(2018)公認心理師のための「発達障害」講義.北大路書房.」です。
自閉症の〝弱い中枢性統合″への支援について
以下、著書を引用しながら見ていきます。
・中枢性統合の弱さ:部分に注目しやすく部分を統合して全体像を把握することが苦手
➤重要でない細部に目がいく:重要点に注目しやすい工夫・全体像を把握できる工夫
➤物事の意味理解を促す
著者の内容から、自閉症の〝弱い中枢性統合″への支援として、〝1.重要点に注目しやすい工夫″、〝2.全体像を把握できる工夫″、〝3.物事の意味理解を促す″などの方法があると考えられています。
それでは、以上の3つの観点から著者の療育現場で行っている(行っていきたい)ことについてそれぞれ見ていきます。
1.重要点に注目しやすい工夫
重要点に注目しやすい工夫として、言葉による説明の際に、重要な点についてキーワード形式で伝達するなどがあります。
例えば、遊びのルールは上げればきりがありませんが、絶対に守って欲しいルールを1~3つ程度に絞って伝えるようにしています。
全体像の把握が得意な子どもであれば、一つ言えば複数の理解が可能です。つまり、一つ言えば、その一つをキーワードにそれと関連する内容を結びつけて考えることができます。
しかし、〝弱い中枢性統合″があると、一つのことを言っても一つの理解といった印象があります。
そのため、重要なキーワードに絞り込むことが重要であり、それ以外の内容はある程度は守れなくても許容するといった態度が大切だと思います。
また、言葉以外にも、写真・イラストなどで伝えることも工夫の一つだと思います。
2.全体像を把握できる工夫
全体像を把握する工夫は、活動の見通しを伝える上でとても大切になります。
例えば、その日の予定をホワイトボードに〝時間→活動内容″といった形で列挙していくなどがあります。
言葉での理解が難しい子どもの場合には、絵カードや写真などを使用すると効果があります。
また、活動場所の全体像をマップ(写真など)で伝えることも大切です。
例えば、公園遊びと言っても、〝弱い中枢性統合″の子どもたちには、どの範囲までが公園遊びで使用可能かとった理解が難しいケースがあります。
そのため、写真などで使用可能な範囲を示す工夫も必要だと感じています。
つまり、文字や絵カード、写真などを使用し、全体像を見える化していくことが大切です。
3.物事の意味理解を促す
物事の意味を理解することは全体把握の理解に繋がります。
例えば、公園遊びといった際に、〝弱い中枢性統合″があると、すべり台=公園だと認識している子もいます。
意味理解を促すことは、公園とった概念がどのようなものであるかを伝えていくことでもあります(すべり台が無い公園もあるなど)。
つまり、意味理解とは、様々な事柄が関連づいてより深い理解に繋がっていくものだということです。
〝弱い中枢性統合″の強みを活かした支援について
ここまでは、自閉症の〝弱い中枢性統合″への支援方法について見てきました。
一方で、冒頭で述べた通り〝弱い中枢性統合″が強みになる場面もあります。
以下、著書を引用しながら見ていきます。
・部分の把握には優れており、それがサヴァン的な能力につながるとされる(記憶力の高さ、細かい描写の絵など)
著書の内容から、自閉症の人の特徴である〝弱い中枢性統合″の力は、特定の部分的な領域において高い記憶力や細かい描写力などの能力の発達に繋がる可能性があるとされています。
そのため、ある専門領域やアートといった芸術領域において、優れたパフォーマンスを発揮する方もいます。
つまり、〝弱い中枢性統合″は、部分の認識や理解において強みとなるケースが多くあるということです。
以上、【自閉症の弱い中枢性統合への支援について】療育経験を通して考えるについて見てきました。
〝弱い中枢性統合″への支援のキーワードは、全体把握を促す(補完する)工夫です。
つまり、苦手な全体把握を様々な方法で促し・補完していく取り組みが大切だということです。
一方で、〝弱い中枢性統合″は、見方を変えると〝強み″にもなります。
つまり、弱みと強みは表裏一体であるという理解がとても大切だと言えます。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も自閉症の特徴への理解を深めていきながら、より質の高い療育に繋げていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
関連記事:「【自閉症の中枢性統合の特徴について】療育経験を通して考える」
下山晴彦(監修)(2018)公認心理師のための「発達障害」講義.北大路書房.