自閉症(自閉症スペクトラム障害:ASD)の特徴の一つに〝こだわり″があります。
〝こだわり″と聞くと一般的に、仕事にこだわりがある、趣味にこだわりがある、などポジティブな面もあるかと思います。
それでは、自閉症の〝こだわり″とはどのような特徴があるのでしょうか?
そこで、今回は、自閉症の〝こだわり″の特徴について、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら、精神安定のバロメーターの視点から考えを深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「本田秀夫(2013)自閉症スペクトラム:10人に1人が抱える「生きづらさ」の正体.SB新書.」です。
自閉症の〝こだわり″とは?
著書の中では、〝こだわり″について以下のように定義しています(以下、著書引用)。
筆者は自閉スペクトラムのこだわりを「自分の関心、やり方、ペースの維持を最優先させたいという強い本能的志向」と定義している。
〝こだわり″の例として、非常に限定された興味関心があります。
よく○○博士など、電車や虫、道路標識、歴史など特定の領域において、大人顔負けの知識を有している場合があります。
また、決まった道順にこだわる、物の配置や片付け方が固定されている、時間に厳しく時刻通りに予定を立て行動する、などその人なりのやり方やペースの維持の方法がこだわりとして見られる場合もあります。
それでは、こうした〝こだわり″の特徴が強くなる・あるいは弱くなることはあるのでしょうか?
その一つの指標として、次に、精神安定のバロメーターの視点から見ていきます。
精神安定のバロメーターの視点から見た〝こだわり″について
以下、書著を引用します。
強い心理的ストレスに晒されていると、こだわりの対象が社会的に異常なものへと移ることや、こだわりの対象は異常でなくても、きわめて狭く、かつ程度が異常に強くなることがあります。
私は、いまのところ、こだわりをその人の精神的な安定度のバロメーターと見なすのが実用的だと考えています。
著書の内容から、社会的なストレスの影響を強く受けることにより、〝こだわり″は、その強度を増すことがあります。そのため、〝こだわり″は精神安定のバロメーターと見なす視点が実用的であると記載されています。
著者の経験談
著者も〝こだわり″の特徴は関わる子どもたちの精神状態により、狭まったり、強くなったりするということが経験側から納得できることがあります。
ここでは、自閉スペクトラム症の特性のある小学生男子のA君を例に見ていきます。
A君は、時間への〝こだわり″が強いお子さんです。
A君の中で、当初予定していた時間に○○する、という〝こだわり″が様々な場面で見られます。
例えば、決まった時間に帰りの送迎が出発しないとイライラ感が強くなるなどがあります。
特にA君の情緒が不安定な場合には、イライラ感を翌日以降にも持ち越すことが多くなります。
一方で、時間への〝こだわり″が緩いと感じることもあります。
その背景として、学校や家庭、そして事業所で安心して活動ができている時が上げられます。
A君の精神状態が安定している場合だと、時間への〝こだわり″はそれほど目立たない印象があります。
このように、〝こだわり″は、精神安定のバロメーターとしての特徴からも説明できる部分があるように思います。
以上、【自閉症の〝こだわり″の特徴について】精神安定のバロメーターの視点から考えるについて見てきました。
自閉症の〝こだわり″は生涯にわたりその対象を変えながら残り続けるものだと考えられています。
一方で、〝こだわり″をうまく活用することで、〝こだわり″の力を仕事に活かせるようになった、あるいは趣味の世界が広がったなど、様々な利点もあると思います。
大切なことは、もともと持っている特性といった視点から理解を深め、個々に応じた配慮をしていくことだと思います。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も療育現場を通して、子どもたちの〝こだわり″への理解を深め、より良い実践に向けて日々取り組んでいきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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本田秀夫(2013)自閉症スペクトラム:10人に1人が抱える「生きづらさ」の正体.SB新書.