自閉症(自閉症スペクトラム障害:ASD)の特徴の一つに、〝こだわり″があります。
それでは、〝こだわり″はなぜ生じるのでしょうか?
そこで、今回は、自閉症の〝こだわり″の原因について、中枢性統合の視点から考えを深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「本田秀夫(2013)自閉症スペクトラム:10人に1人が抱える「生きづらさ」の正体.SB新書.」です。
自閉症の〝こだわり″とは?
著書の中では、〝こだわり″について以下のように定義しています(以下、著書引用)。
筆者は自閉スペクトラムのこだわりを「自分の関心、やり方、ペースの維持を最優先させたいという強い本能的志向」と定義している。
自閉症児の中には、興味関心が非常に限定されているケースが多く見られます。
また、目的地まで決まった道順がある、物を食べるときの順番が決まっている、起きてからのルーティンが必ず決まっている、などやり方やペースの維持が固定化されている場合もあります。
こうした〝こだわり″は自閉症児・者に限らず見られることがあるかと思います。
しかし、定型児・者と自閉症児・者の違いは、今自分が置かれている状況や周囲の変化などを加味して臨機応変に行動を修正できるか、それとも本来のやり方など優先するかの違いがあるように思います。
それでは、なぜ、自閉症の〝こだわり″は生じるのでしょうか?
〝こだわり″の原因について
以下、著書を引用しながら見ていきます。
ウタ・フリス(Uta Frith)という人は、自閉症のこだわりを説明する心理学的仮説として、「中枢性統合」という概念を提唱しています。これは、物事を構成する個々の部分よりも、まず全体像をざっと把握する機能という意味です。
自閉症スペクトラムの人たちは、まず全体像を把握してから部分を見るのではなく、個々の部分しか見えず、それらの部分同士の関係や全体像が見えないのではないか、というのがフリスの仮説です。
著書の内容から、自閉症の〝こだわり″の原因を説明したものに「中枢性統合」を上げています。
「中枢性統合」とは、物事の全体像を理解する機能だと考えらえており、自閉症の人たちは「中枢性統合」が弱いため、全体よりも部分に着目する傾向があり、こうした認知機能の特徴が〝こだわり″に繋がっていると考えられています。
「中枢性統合」の例として、自閉症児が母親の髪型が変わると(身体の一部が変化すると)不安になるなどからも説明できる所があります。
つまり、自閉症児にとって母親という人物を認識する際には、身体の全体像という認識よりも髪型など特定の部分で認識する傾向があるということです。
自閉症児の表情認知の研究においても、定型児が他者の表情の様々な部分(目・口・鼻・耳)に目を向けていたのに対して、自閉症児は特定の部分に焦点を当てる傾向が強いなどの違いあることがわかっています。
「中枢性統合」の他の例として、目的地まで決まった道順で行くということからも説明できます。
つまり、全体像としての地図(経路)の認識があれば、特定の道順にこだわるよりも、最短ルートに変更・修正が可能なはずです。
しかし、部分に着目する傾向が強いことは、全体像を考えて物事を考え、修正するよりも自分のやり方にこだわるということに結果、繋がっていきます。
一方で、「中枢性統合」の弱さは、何も全てがマイナスに働くわけではありません。
物事の細部に目が行く能力は、他の人が気づかないことに気づくことができたり、それが、発展して専門的な仕事に就いている人たちもいます。
以前、テレビ番組で自閉症の能力を活かして仕事をされているものを拝見しました。
その時見たものが、非常に細かい細部知覚を必要とする仕事だったことを思い出します。
以上、【自閉症の〝こだわり″の原因について】中枢性統合の視点から考えるについて見てきました。
自閉症の特徴である〝こだわり″は生涯その対象を変えながらも残り続けると言われています。
そのため、〝こだわり″の特性の理解を深めていくことは、支援においてとても大切な視点となります。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も行動の背景にある原因などにも目を向けながら、より良い実践に向けて日々取り組んでいきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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本田秀夫(2013)自閉症スペクトラム:10人に1人が抱える「生きづらさ」の正体.SB新書.