著者は昔、臨床発達心理学か臨床心理学のどちらを学ぼうか悩んでいた時期がありました。
両者は、心理学領域で高い専門性を持つ学問領域です。
そして、資格としても、順に、臨床発達心理士、臨床心理士といった民間の資格があります。
それでは、臨床発達心理学、臨床心理学、どちらにも心理学といった言葉がありますが、それぞれどのような関係にあるのでしょうか?
そこで、今回は、臨床発達心理学とは何かを理解していくために、臨床心理学と心理学の関係、そして、臨床発達心理学と心理学の関係について見ていきたいと思います。
今回参照する資料は「本郷一夫・金谷京子(編)(2011)シリーズ 臨床発達心理学・理論と実践① 臨床発達心理学の基礎.ミネルヴァ書房.」です。
臨床心理学と心理学の関係について
以下、著書を引用しながら見ていきます。
残念なことには、基礎心理学の研究成果が、臨床心理学に活用されることはきわめて少なく(中略)その意味で、臨床心理学は、(基礎)心理学を現場に「応用」したものではない。両者は出自を別にする異なった学問である。
臨床心理学には、「基礎」に相当するものがない。直接、現場のニーズから生まれたのが臨床心理学である。
著書の内容から、臨床心理学は、心理学を現場に「応用」したものではないとされています。
そして、臨床心理学には「基礎」に相当するものがないとされています。
臨床心理学はもともと精神医学から強い影響を受けており、ヴントといった心理学(基礎心理学・実験心理学)の始まりとも考えられている人物から展開されてきた学問領域とは、異なる出自であると考えられています。
精神医学で有名な人物として、フロイト・ユング・アドラーなどがいます。
こうした人たちは、精神疾患の人たちを通して、人間の心理構造を解明しようとしてきた人たちです。
それでは、臨床心理学とはどのような学問なのでしょうか?
引き続き著書を引用しながら見ていきます。
臨床心理学は、悩んでいる人たちへの援助やサポートの必要といった社会的なニーズから生まれてきたきわめて実践的な学問である。
臨床心理学の援助の方法については、実に様々なアプローチ法があるが、自然科学的な手法が重視されていない点が医学とは異なっている。(中略)臨床心理学では一般に意味理解や了解などを重視する人文科学的な手法がとられている
著書の内容を見ても分かる通り、臨床心理学とは、実際に困っている人たちへの援助の必要性から立ち上がってきた実践的な学問だと言えます。
そして、臨床心理学が医学と異なる点は、医学が自然科学的手法を重視していたのに対して、臨床心理学は人文科学的手法がとられているという違いです。
対して、心理学(基礎心理学)は、人間の感覚・知覚のメカニズムの解明といった実験的手法によるアプローチがとられていました。
このように、臨床心理学と心理学は、そもそも異なる出自から展開されてきた学問領域であり(もちろん接点はありますが)、臨床心理学の援助のアプローチは、医学とは異なっているということです。
臨床発達心理学と心理学の関係について
心理学には、様々な学問領域があります。
例えば、発達心理学、社会心理学、認知心理学、そして、これまで見てきた臨床心理学などがあります(他にも多数あります)。
臨床発達心理学は、発達心理学を学問的な基盤としていることが特徴としてあります。
そして、大切な視点が、〝発達的視点″です。
人は生涯に渡り、個人要因と環境要因とが複雑に関連し合いながら発達していきます。
人を過去⇔現在⇔未来という時間軸の中で理解していくことがこの学問領域の最大の特徴だと言えます。
これまでを振り返って見ると、臨床発達心理学は心理学の中でも発達心理学が基盤(基礎)となっており、一方で、臨床心理学は医学の影響を強く受け、そして、実践から展開されてきた心理学とは出自の異なる実践的な学問だと考えられているということです。
以上、【臨床発達心理学とは何か?】心理学、臨床心理学との関係から考えるについて見てきました。
著者は昔、臨床心理学は心理学が基礎となっており、それを応用したものが臨床心理学だと思っていました。
しかし、実際に今回参照した著書を読み、異なる起源があったことを学ぶことができました。
そして、自分が専門としている学問領域の起源への理解も深まったように感じます。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も様々な学問領域に触れながら、学問領域間の繋がりや違いを理解し、現場での実践に役立てていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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本郷一夫・金谷京子(編)(2011)シリーズ 臨床発達心理学・理論と実践① 臨床発達心理学の基礎.ミネルヴァ書房.