著者は臨床発達心理士であり、長年、療育現場で発達に躓きのある子どもたちに関わる仕事をしています。
療育現場では、様々なバックボーンを持った人たちが一緒に働いています。
療育現場で大切なことは、自分が属する組織の考え方を理解していきながら、自分なりの良さや専門性を磨いていくことだと思います。
それでは、療育現場において、臨床発達心理士が専門性を高めていくためにはどのようなことが必要となるのでしょうか?
そこで、今回は、臨床発達心理士の専門性を高めていくために必要なことについて、臨床発達心理士の著者の療育経験を通して考えを深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「西本絹子・藤崎眞知代(編)(2018)講座・臨床発達心理学② 臨床発達支援の専門性.ミネルヴァ書房.」です。
臨床発達心理士の専門性を高めていくために必要なこと
以下、著書を引用しながら見ていきます。
「資格」が様々な人々の生活や行動の理解やその支援に、本当に役立つ必要があることである。
「資格」はあくまで何かの仕事をする上での入り口となるものです。
そのため、大切なことは、資格を得て仕事の入り口に立った後にどのような行動を積み重ねていくかだと思います。
臨床発達心理士といった資格を持っていても、著書にあるように、〝本当に役立つ″ものへとその専門性を磨いていく必要があります。
それでは、著書の内容にある〝本当に役立つ″とは一体どのようなことを指しているのでしょう?
以下、引き続き著書を引用しながら見ていきます。
支援の実践活動は、その支援の背景となっている学問の真価を問うことにもなるのである。「臨床発達心理学」という学問と、「臨床発達心理士」という実践活動とが、互いの真価を問い合う、よい緊張関係を保ちつつ、それぞれの内容を深化させていくことが求められているのである。
〝臨床発達心理士″の背景となる学問が〝臨床発達心理学″になります。
〝臨床発達心理士″は実際に現場に赴き、現場のニーズを解決する実践者です。
一方で、〝臨床発達心理学″は、〝臨床発達心理士″の実践を支えるもとになる学問であり、その最大の特徴は〝発達的視点″です。
関連記事:「臨床発達心理学とは?-療育経験からその視点の重要性を考える-」
〝本当に役立つ″もの(専門性)とは、〝臨床発達心理士″といった実践と〝臨床発達心理学″といった学問との双方を行き来しながら、人の発達への理解を深め、そして、〝発達的視点″を持った実践ができるということです。
著者の経験談
著者はずいぶん前に臨床発達心理士といった資格を取得しました。
臨床発達心理士が持つ〝発達的視点″を活かした実践は、長年、療育現場に関わったきた経験の中でとても大切なものとなっています。
少しかみ砕いて説明するために、あるお子さんを例に考えてみます。ここでは仮にA君とします。
著者は、A君と関わっていく中で、A君が頻繁に問題行動を起こすことから、その要因と対応を考えるといったことがよくあります。
一般的な心理学では、A君の現状の行動を分析し、行動の背景要因とその対応方法を考えるというアプローチを取ります。
一方で、〝発達的視点″を取り入れると、A君の行動は過去からの積み重ねでできたものといった、過去⇔現在、といった視点が入ります。
さらに、A君の今後に必要な支援を考える際に、中・長期的展望(過去⇔現在⇔未来)といった視点もまた入ってきます。
さらに、A君の行動は周囲との環境(親・友人・学校・地域など)の影響を受けて発達してきたものという〝環境″からの視点も含まれてきます。
そして、〝発達的視点″は、単に経験を積み重ねたことによる理解だけではなく、人の発達に関する様々な知識や理論を統合していく(実践を学問へと還元していく・学問から実践のアイディアを得る)ことも重要となります。
つまり、実践⇔学問、という双方的なやり取りを繰り返していくことで、人の発達への理解が深まり、そして、支援(実践)の幅も広がっていくことを実感しています。
以上、【臨床発達心理士の専門性を高めていくために必要なこと】療育経験を通して考えるについて見てきました。
現場にいると様々な疑問が湧いてきます。
こうした疑問へのアプローチには、実践を積み上げていくことに加え、学問に立ち返るという姿勢もまた大切だと思います。
こうした双方向性が、臨床発達心理士の専門性を高めていくために必要なことだと感じています。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も自分がもつ専門性を高めていけるように、日々の現場での実践に加え、学問からの学びも大切にしていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
関連記事:「臨床発達心理士の専門性とは?-療育経験を通して考える-」
西本絹子・藤崎眞知代(編)(2018)講座・臨床発達心理学② 臨床発達支援の専門性.ミネルヴァ書房.