発達障害児・者には様々な感覚の問題が見られると言われています。
そのため、発達障害児・者支援に携わる人たちにとって、感覚の問題への理解と対応に関する知識は必須であると言えます。
感覚の問題の中で〝聴覚過敏″は非常に多く見られます。
その一方で、聴覚の〝低反応″の問題もまた見過ごせないものです。
それでは、聴覚の低反応とは具体的にどのようなものなのでしょうか?
そこで、今回は、聴覚の低反応とは何かについて、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら、支援の観点も含めて理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「前田智行(2021)子どもの発達障害と感覚統合のコツがわかる本.ソシム.」です。
聴覚の低反応とは何か?
以下、著書を引用しながら見ていきます。
聴覚の低反応の人は、脳内での音声情報の処理が適切に行われないために起こると考えれています。
聴覚の低反応の例として以下のようなものがあります(以下、著書引用)。
・声をかけても反応しない
・周囲の騒ぎに気づかない
・自分が大声を出していることに気づかない
著書にある聴覚の低反応の例は、著者の療育現場でもよく見かけるものです。
最も多いと感じるものが、こちらが話しかけても返答がない、周囲が騒いでいても気づかない、などはよく見る光景です。
まさに、一人の世界・空間に没頭しているようにも見えます。
このような特徴の背景には、聴覚の低反応に加え、ASDやADHDといった発達特性もまた影響していると感じています。
例えば、ASDであれば、そもそも人の声に注意が向きにくい、ADHDであれば特定の人の声に注意を向けることが難しいなどです。
それでは、聴覚の低反応があると、生活上どのような点で困り感が生じるのでしょうか?
以下、著書を引用しながら見ていきます。
聴覚の低反応を抱える人は、「聴覚的ワーキングメモリ」の低さも抱えているケースが多いです。
結果的に情報が処理できず、すぐに聞き間違いをしてしまったり、忘れてしまったりします。
著書の内容から、聴覚の低反応があると、〝聴覚的ワーキングメモリ″の低さが見られることも多く、その結果、生活の中で聞き間違いや大切なことを忘れてしまうなどの困り感が生じる可能性があると言えます。
〝聴覚的ワーキングメモリ″とは、音声情報を一時的に保持してその情報を操作する機能です。
そのため、聴覚の低反応があり必要な音声情報に耳を傾けることができないと、必要な情報を取りこぼしたり、忘れてしまうことに繋がる可能性があると言えます。
聴覚の低反応への支援について
著書を参照すると、聴覚の低反応への支援として、2つの支援策がある言えます。
一つ目は、①集中して聞く経験を積み重ねる、二つ目が、②周辺環境へのアプローチです。
それでは、それぞれについて簡単に見ていきます。
①集中して聞く経験を積み重ねる
以下、著書を引用しながら見ていきます。
音をよく聞いて反応する必要のあるゲームが有効です。
例えば、〝イントロクイズ″や〝しりとりゲーム″などは聴覚が優位に働く遊びです。
こうした活動は積極的に聴覚を活用しようとするため、聴覚の情報の処理が良くなると考えられています。
このように、遊びを取り入れながら、子どもの興味関心を活用して、集中して〝聞く″経験を積み重ねていくことも一つの方法です。
②周辺環境へのアプローチ
①でみた〝聴覚的ワーキングメモリ″を鍛える方法以外に、周辺環境を整理していく方法もまた大切です。
以下、周辺環境のアプローチの例について著書を引用しながら見ていきます。
・連絡はメモに書いて渡す
・タスクは黒板に書いておく
・声ではなく肩をたたいて教える
著書の内容から、〝聴覚的ワーキングメモリ″の苦手さへの配慮には、〝視覚情報″の活用(メモや黒板に書くなど)が有効だと言えます。
また、〝声ではなく肩をたたいて教える″ことも効果的だと感じます。
著者も声掛けだけではなかなか注意が向きにくい子どもには、肩を叩くなど他の刺激を入れることもあります。
このように、周辺環境からのアプローチを取る視点もまた大切だと言えます。
以上、【聴覚の低反応とは何か?】支援の観点も含めて考えるについて見てきました。
聴覚過敏の問題よりも聴覚の低反応の問題の方が見落とされる場合があると著者は感じています。
一方で、聴覚の低反応への理解と対応を怠ると、子どもが必要な情報を処理していく機会の損失に繋がっていきます。
そのため、聴覚の低反応への理解と対応策を考えていくこともまた大切だと感じています。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も療育実践を通して、子どもたちに見られる感覚の問題を理解する力、そして、対応する力を高めていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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前田智行(2021)子どもの発達障害と感覚統合のコツがわかる本.ソシム.