知能検査によって測られるものに〝IQ(知能指数)″があります。
私たちは、IQが高いと優秀であるなど、ステレオタイプ的な見方をすることがよくあります。
もちろん、IQ(知能指数)が高いことは、特定の能力の高さを意味していますが、必ずしもIQが高いことが人生の幸福度や社会での成功に直結するものではないと考えられています。
それでは、そもそも知能検査は何のために行うのでしょうか?
そこで、今回は、知能検査をすることの意味について、臨床発達心理士である著者の発達障害児支援の経験も交えながら理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「熊上崇・星井純子・熊上藤子(2024)WISC-V・KABC-Ⅱ対応版 子どもの心理検査・知能検査 保護者と先生のための100%活用ブック.合同出版.」です。
知能検査をすることの意味:WISCを例に
以下、著書を引用しながら見ていきます。
知能検査というものは、今の子どもの状態を知り、サポート方法をみんなで考えるためのものなのです。
IQの数値ではなく「個人間差」を踏まえたうえで、「個人内差」つまり、子どもの中の得意なところと不得意なところに注目し、子どもが何でつまずいていたり、苦労しているのか、子どもがどうすれば進んで生活や学習・行動などに取り組めるのかを考えるために役立てていただきたいと思います。
著書の内容から、知能検査をすることの意味とは、子どもたち一人ひとりの状態の理解と、理解した状態像を基に支援方法を考えていく手助けとなるものです。
そのため、子どもが抱える困り感の解決策や、より良い生活や学習に繋げていくためのヒントを与えてくれるものだと言えます。
著書には、〝個人間差″と〝個人内差″といった言葉が出てきています(知能に特化して以下見ていきます)。
〝個人間差″とは、同年齢集団における他者との間の知能の差を意味しています。
一方で、〝個人内差″とは、個人内の知能のバランス(偏り)を意味しています。
どちらの視点も大切だと言えます。
〝個人間差″の視点から、例えば、クラス学級の中で知能が境界域(例:IQ70程度)だとすると、様々な学習や生活において躓きが予測できます(通常級の場合)。
そのため、支援の観点において、学級内で様々な面でのサポートが必要になります。また、所属する学級についても検討の必要性が出てきます。
〝個人内差″の視点から、例えば、個人の中での得意な所、不得意な所を把握することができます。
個人内差は、他者との比較ではなく、個人の中の能力の偏りについて理解していくものなので、得意な所を活かして学習や生活をサポートする方法を見つけたり、逆に不得意な所においては、どのような配慮が必要なのかを考えることが、支援の観点では大切になってきます。
著者の経験談
著者はこれまで知能検査(WISCやK-ABCなど)の勉強を大学・大学院で学んできました。
実際に何度か検査を実施して所見を書いたこともあります。
もちろん、テスターとしての業務はやったことが無いので、実力不足な点は大いにありますが、それでも知能検査の必要性を様々な所で感じた体験があります。
例えば、知能といった漠然とした理解を細分化していくことで(群指数など)、人間が外界の世界をどのように捉えているのか、そして、どのような捉え方の違いがあるのかといった理解を深めていくことができるといった気づきがあります。
WISCでは、群指数間の偏りによって異なる認知のパターンが出てきます。
例えば、言語での理解が得意なタイプ、視覚で物事を理解することが得意なタイプ、記憶に関する処理が得意なタイプ、様々な作業が得意なタイプ、などを調べることができます。
こうした認知の偏り(得意・不得意)を知ることで、何となく○○が得意そうだ、何となく○○が苦手そうだ、といった漠然とした理解以上に、根拠のある理解(データに基づく)を行うことができます。
さらに、根拠があることの利点として、他の支援者との間で情報共有が行いやすい、そして、支援の方向性を検討しやすいといったものがあります。
また、保護者の方などから情報提供として知能検査の結果を見せて頂くことがありますが、少なくとも、知能検査についてある程度の知識があること、そして、知能検査の意味を把握しておくことで、提供して頂いた知能検査の結果を有意義に活用していくことに繋げていけると感じています。
もちろん、知能検査も含めて、子どものことをよく理解するためには、包括的なアセスメントが必要になります。
その中で、知能検査もまた、子どものことを理解する大きな手掛かりを与えてくれるものだと感じています。
関連記事:「発達障害への包括的アセスメントについて」
以上、【知能検査をすることの意味について】発達障害児支援の経験を通して考えるについて見てきました。
知能検査にもWISC以外に様々な検査があります。
そのため、それぞれの検査によって何が分かるのかといった理解に加えて、検査の限界についても抑えておく必要があります。
つまり、検査結果を拡大解釈しないように学びを深めていくことも大切です。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も知能検査をはじめ、様々な検査についても学びを深めていきながら、発達障害児支援の現場にその知見を活かしていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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熊上崇・星井純子・熊上藤子(2024)WISC-V・KABC-Ⅱ対応版 子どもの心理検査・知能検査 保護者と先生のための100%活用ブック.合同出版.