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知的障害

【知的障害児の成長を支える】理論に基づき経験で深める支援の実践

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知的障害児への理解と対応の仕方で思い悩んだことはありませんか?

最近では、発達障害児への理解が進んでいる一方で、知的障害への理解と対応がどこか遅れている、厳密には、現場に浸透していない印象が著者にはあります。

DSM-5以降、知的障害(ID)も他の発達障害(ASD・ADHDなど)同様に、神経発達障害の中に位置付けられるようになりました。

かつての著者は知的障害児との関わりにおいて、どのような視点を大切に状態像の理解および支援を進めれば良いか試行錯誤の連続でした。

 

今回は、現場経験+理論+書籍の視点から、知的障害児に関する理解と支援のヒントについてお伝えします。

 

※この記事は、臨床発達心理士として10年以上療育現場に携わり、修士号(教育学・心理学)を有する筆者が執筆しています。

 

 

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目次

1.知的障害の理解の仕方に迷走していた著者のエピソード

2.知的障害を理解する理論・書籍

3.知的障害に関する支援の意味・効果が見えてきた著者の経験談

4.まとめ

 

 

1.知的障害の理解の仕方に迷走していた著者のエピソード

著者はこれまで、療育施設で重度の障害のある未就学児を対象とした療育、そして、放課後等デイサービスにおける学童期を対象に知的障害が見られる児童への療育の経験を豊富に持つことができました。

放課後等デイサービスにおける経験の中で難しいと感じたことが、発達障害(ASD・ADHDなど)への理解・支援の観点だけでは限界があると感じたことです。

著者が携わっている放課後等デイサービスには、発達障害の特性がありながらも、同時に知的障害の可能性もある子どもたちが思いの他多くいたからです。

両者の状態像は重なる部分がありながらも、根本的な違いがあり、同時に両方の特徴がある場合には(例えば、ASD+知的障害)、それぞれの視点も考慮した支援が必要だと感じていました。

一方で、具体的にどのような理論(知識)を手掛かりに状態像の理解、支援のヒントを得ていけば良いかわからずにいました。

しかし、〝発達障害との違い″をキーワードに文献等を読み進めて行く中で、少しずつ知的障害児への理解・支援のヒントが見えてきました。

それでは、次に、知的障害を理解する上で大変役に立った書籍等を紹介しながら、知的障害児への理解と支援を深める視点について見ていきます。

 

 

2.知的障害を理解する理論・書籍

それでは、知的障害の理解を深めていく上で、著者が非常に参考になった書籍を以下に紹介していきます。

書籍①「本田秀夫(2013)子どもから大人への発達精神医学:自閉症スペクトラム・ADHD・知的障害の基礎と実践.金剛出版.

書籍②「徳田克己・水野智美(監修)(2020)健康ライブラリーイラスト版:知的障害/発達障害のある子の育て方.講談社.

書籍③「本田秀夫(2024)知的障害と発達障害の子どもたち.SB新書.

書籍④「本田秀夫(2021)子どもの発達障害:子育てで大切なこと、やってはいけないこと.SB新書.

 

書籍①に関しては、改訂版が出版されています。

新訂増補 子どもから大人への発達精神医学: 神経発達症の理解と支援

 

以上の書籍を踏まえて、著者が非常に参考になったキーポイントとして、1.知的障害と発達障害の違い2.知的障害の特徴3.知的障害の理解と支援で大切なことです。

 

 


それでは、次に、以上の3つのキーポイントについて具体的に見ていきます。

 

1.知的障害と発達障害の違い

それでは、書籍①を引用しながら見ていきます。

発達障害を理解するためには、発達の「速度」と「質」という二つの軸で考えることが重要である。発達の速度の全般的な遅れ(知的障害)では説明できないような、これとは独立な発達の質的異常を呈する病態の理解が近年進んできた。

 

著書の内容から、発達障害を理解する上で発達の〝速度″と〝質″の2軸で考えることが重要だと述べています。

この2軸で捉えると・・・

知的障害とは発達の〝速度″の問題

発達障害とは発達の〝″の問題

ということになります。

つまり、知的障害は、発達の全般的な遅れが特徴(運動・認知・言語・情動・社会など)であり、発達障害は、ある領域において躓きが見られるといった質的な特徴・違いがあると言えます。

 


著者のこれまでの経験においても、知的障害児は、定型発達児と比べて全般的に発達がゆっくりである印象があります。

一方で、発達障害(ASD・ADHD・SLDなど)は、発達特性が影響して生活の中で、特徴的な躓き困り感が生じている印象があります。

それでは、なぜ、日本において知的障害と言えば、すぐに発達障害に該当するイメージがないのでしょうか?(少なくとも、著者はそう感じています)。

著者は知的障害も発達の問題であるため、なぜ発達障害に該当していないのかが不思議でした。

この疑問に関する考察を以下の記事に記載しています。

 

関連記事:「【知的障害と発達障害の違いについて】法制度・医学的な視点を踏まえて考える

 

 


一方で、知的障害と発達障害は重複することはあるのでしょうか?

この点について、書籍③を引用しながら見ていきます。

知的障害と発達障害は、しばしば併存するものなのです。

 

知的障害がある人のグループでは、一般の人口に比べて、自閉スペクトラム症の特性を持つ人の割合が多いと考えられています。

 

特に中等度以上の知的障害がある子どもには、自閉スペクトラム症の併存がみられることが多いです。

 

著書の内容から、知的障害と他の発達障害は併存することがあると記載されています。

中でも、知的障害と自閉スペクトラム症の併存率は高いとされ、さらに、中等度以上の知的障害の場合において、自閉スペクトラム症の併存率は高いとされています。

 

著者の療育経験を振り返って見ても、重度の知的障害児には、自閉症の特徴が顕著に出ていると感じるケースが多くあったように思います。

また、様々な発達障害は単独で発症していることもありますが、重複(併存)しているケースが非常に多いと感じています。

そのため、先に見た発達の〝速度″と〝質″の観点を考慮して、子どもたちの発達の状態像を理解していくことはこれから見ていく支援に繋げていくためにもとても大切な視点だと感じています。

 

関連記事:「【発達障害の重複(併存)をどう理解するか】経験と理論をつなぐ支援の視点

 

 

2.知的障害の特徴

書籍②には知的障害の特徴として次の7つを取り上げてます。

①言葉の遅れ

②記憶することが苦手

③抽象的理解が難しい

④自分で考えて行動することが難しい

⑤飽きることが多い

⑥理解に時間がかかる

⑦その他

 

知的障害とは、〝知的機能″に遅れが見られる状態のことです。

最近では、〝知的機能″以上に適応機能″つまり、自分が置かれた環境において、自立的な行動を取ることができるかどうかが重視されるようになってきています。

知的機能″とは、言葉・記憶などを活用して、様々なことを認知して考えたり、推論・学習したりする機能のことを指します。

〝知的機能″に遅れがあるということは、言葉・記憶の遅れ・苦手さ(①②)が見られ、より実体験と離れた理解を要する抽象的理解に苦手さを持ち(③)、考えて行動する苦手さ・実行機能に弱さがあり(④)、注意の持続が難しく(⑤)、言葉の理解・記憶の問題なども関連して物事の理解に時間がかかる(⑥)といった特徴が見られます。

また、運動機能の発達がゆっくりである(不器用さがある)、感覚の鈍さ(痛み・暑さ・寒さなど)、ふとりやすいなどの特徴があると言われています(⑦)。

 


著者の実感としても、知的障害児には、物事を理解して行動に移すことを苦手としており、また、粗大運動や微細運動に苦手さを持っている印象があります。

もちろん、こうした状態像も知的機能の違いや置かれている環境や配慮や支援の程度によって違いが出てくると言えます。

一方で、自らの経験を通して積み上げてきたことは定着しやすいと感じています。

著者の療育現場では、工作遊び・ごっこ遊び、ルール遊び、運動遊びなど様々なジャンルの遊びを行っていますが、知的障害のある子どもは、物事を学ぶことに時間はかかりますが、それでも、経験したもの(遊び)は着実に定着していくといった実感があります。

そのため、先に見た知的障害の特徴をおさえていきながら、どこに躓きがあり、どのような配慮やサポートがあるとより楽に楽しく過ごすことができるのかを考えていくことが大切だと感じています。

 

関連記事:「知的障害のある子とそうでない子の特徴の違いと支援方法について

 

 

3.知的障害の理解と支援で大切なこと

先に、知的障害と発達障害は重複することもあると述べてきました。

まずは、重複しているケースにおいてどのような視点を大切にしていけば良いか書籍④を引用しながら見ていきます。

発達障害と知的障害は重複することがありますが、私はこの2つもわけて考えたほうがよいと思っています。発達障害は発達の特性があって生活上の支障がある状態です。知的障害は、知的能力が平均に比べて低く、生活上の支障につながっている状態です。(略)発達障害と知的障害を重複している子には、発達の特性への対応と、知的能力への対応をそれぞれ検討します。(略)発達障害と知的障害を分けてそれぞれへの対応を考えたほうが検討しやすいというのが、私の考えです。

 

著書の執筆者である〝本田秀夫さん″は、知的障害と発達障害が重複しているケースにおいて、それぞれへの対応を分けた方が良いと考えています。

発達障害(ASD・ADHDなど)に対しては、発達の特性〝質″への配慮・支援の実施、知的障害に対しては、発達の〝速度″への配慮・支援の実施を、その子どもが置かれている環境で躓きが出ている(出る可能性がある点も含めて)ことへの対応を検討していく必要があると言えます。

 


著者もこの視点に関しては同意です。

なぜなら、冒頭にも記載しましたが、最近の発達障害(ASD・ADHDなど)への理解・関心が高まる中で、知的障害がどこか置き去りになっている印象が著者にはあるからです。

そのため、知的障害への理解・支援の内容にもしっかりと目を向けていくためにも、重複しているケースにおいて対応方法を分けて考えることには大きな意味があると感じています。

 

 


それでは、知的障害児への支援においてどのようなことを大切にしていけば良いのでしょうか?

書籍③を引用しながら見ていきます。

子どもに知的障害がある場合、その子の「ゆっくり」ペースに合わせて暮らしたり、教えたりすれば、基本的には大きな問題は起こりません。

 

子どもの発達がどのように「ゆっくり」なのか、どれぐらい「ゆっくり」なのかを理解して、それに即したプランを立てていく。これが知的障害の子育ての基本です。

 

その子は将来「具体的なものを取り扱う定型的な仕事」であれば、問題なくこなせる可能性があります。そういった見通しから逆算して、いまから取り組んでいけることを考えるのが、「逆算の支援」です。

 

著書の内容から、知的障害児への支援で大切なことは、〝ゆっくり″な発達を理解して、〝ゆっくり″な発達に合わせて子育て・支援をしていくことです。

一般的には、知的障害・発達障害は、自然経過の中で悪化することはないと考えられています。

そのためには、個々の発達の〝速度″や〝質″を理解して対応していくこと、環境調整が非常に必要になっていきます。

また、〝逆算の支援″も大切です。

〝逆算の支援″とは、例えば、将来の仕事内容を見据えて、そこから逆算して今から取り組んでいけることを考えることです。

つまり、知的障害児支援において、〝ゆっくり″な発達を理解して対応していくこと、将来を見据えて無理なく現実的に暮らせる(働ける)支援(逆算の支援)を考えていくことが大切だと言えます。

 


著者の療育経験を振り返って見ても、知的障害児の〝ゆっくり″な発達を理解していくことはとても大切だと感じています。

私たちは、どうしても定型発達児を基準に発達・成長を考えてしまうことがあります。

そうなると、本来的に〝ゆっくり″な発達をしていく子どもに対しても、過度な対応をしてしまうことがあります。

例えば、もっと勉強をできるようにさせたい、生活スキルを早く習得させないなど本人の現状に合わない無理な対応に繋がるリスクがあります。

〝ゆっくり″発達していくことを踏まえて考える上で、〝逆算の支援″もまたとても大切だと感じます。

支援上の無理のないある程度のゴールを設定しておくことで、著者自身も子どもたちの現状に応じた適切な配慮や支援に繋げていくことが可能になると考えています。

そのためにも、〝早期発見・早期支援″の視点が大切であり、早くから、理解のある環境に繋がることで、子どもたちが安心して過ごし、〝ゆっくり″ではありますが、着実に自己肯定感を保持しながら日々を楽しく過ごしていくことがなによりも重要なことだと思います。

 

 

関連記事:「【発達障害・知的障害の子どもへの対応:進路選択偏】自己決定力と相談力を通して考える

関連記事:「【発達障害・知的障害の子どもへの対応:仕事選択偏】自己決定の重要性を通して考える

 

 

3.知的障害に関する支援の意味・効果が見えてきた著者の経験談

これまで見てきた〝知的障害″に関する知識を療育現場に取り入れていく中で、次のような支援の意味・効果が見えてきました。

 

〝ゆっくり″な発達を踏まえて支援をすることでよりその子に合った理解・対応ができるようになったことです。

発達障害とは異なり、知的障害は発達の〝速度″の問題があります。

知的発達が〝ゆっくり″であるということは、生活上様々な点で配慮が必要になります。

これまでを振り返って見ると、定型発達児を基準にした発達を考える目がどうしても抜けきれず、知的障害児に少し無理な要求・課題設定をしてしまっていたところもあったと思います。

一方で、その子ができる生活経験を少しずつ積み上げていく、実体験を重視した支援を継続していくことで、知的障害のある子どもたちは、〝ゆっくり″ではありますが、着実に発達・成長していると実感できるようになっていきました。

例えば、活動の切り替えや身支度・片付けなどある程度決まったルーティンであれば大人の指示がなくても行動できるようになった、工作遊びを自分でイメージして完成まで一人で持って行けるようになった、繰り返されたごっこ遊び・ルール遊び遊びなら大人のサポートが少なくてもうまく遊べるようになったなど様々な成長を感じ取れます。

こうした変化の背景には、知的能力の苦手さを様々な所でカバーする支援者の介入に加え、無理なことはせさないこと、本人にとって分かりやすく楽しい活動であることが必要な要素だと考えます。

このように子どもたちに合った環境を整えていくことで、子どもたちには安心できる環境、分かりやすい活動内容を通して、自己肯定感を維持することができ、そして、日々、様々なことを〝ゆっくり″かつ〝着実″に吸収して成長していく様子が見れています。

 

 

4.まとめ

知的障害(ID)は神経発達症の一つです。

発達障害(ASD・ADHDなど)が発達の〝質″を特徴としている一方で、知的障害は発達の〝速度″を特徴としています。

知的障害には、①言葉の遅れ②記憶することが苦手③抽象的理解が難しい④自分で考えて行動することが難しい⑤飽きることが多い⑥理解に時間がかかる⑦その他(運動発達の遅れや感覚の問題など)の特徴があります。

知的障害は他の発達障害と併存しているケースもあります。

併存しているケースにおいて、様々な見解はあるかもしれませんが、両者の対応の仕方を分けて検討することも必要です。

知的障害児支援で大切なことは、〝ゆっくり″な発達を理解して対応すること、将来を見据えた無理のない目標設定を掲げる〝逆算の支援″が重要です。

そして、発達早期から理解のある環境に繋がり支援を受ける〝早期発見・早期支援“の視点が大切です。

 

 

書籍紹介

今回取り上げた書籍の紹介

  • 本田秀夫(2013)子どもから大人への発達精神医学:自閉症スペクトラム・ADHD・知的障害の基礎と実践.金剛出版.
  • 徳田克己・水野智美(監修)(2020)健康ライブラリーイラスト版:知的障害/発達障害のある子の育て方.講談社.
  • 本田秀夫(2024)知的障害と発達障害の子どもたち.SB新書.
  • 本田秀夫(2021)子どもの発達障害:子育てで大切なこと、やってはいけないこと.SB新書.

 

知的障害に関するお勧め書籍紹介

関連記事:「知的障害に関するおすすめ本【初級~中級編】

 

 

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