〝知的障害(ID)″とは、知的水準が全体的な発達よりも低く、かつ、社会適応上問題がある状態のことを言います。
最近では、知的水準よりも〝適応状態(適応機能)″に目が向けられるようになってきています。
それでは、知的障害の適応機能とは一体どのようなものを指すのでしょうか?
そこで、今回は、知的障害児の〝適応機能″とは何か?について、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「本田秀夫(2024)知的障害と発達障害の子どもたち.SB新書.」です。
〝適応機能″とは何か?
以下、著書を引用しながら見ていきます。
適応機能については、DSMは、個人の自立や社会的責任という点でコミュニティの標準を満たせるかどうか、という目安を示しています。
これはつまり、自分の属するコミュニティにおいて、さまざまな場面で自立した行動・責任を果たす行動がとれるかどうか、ということです。それができれば適応機能が高く、難しい場合には適応機能が低いということになります。
著書の内容から、〝適応機能″とは、自分が置かれた環境において、自立的な行動を取ることができるかどうかががキーワードになるようです。
人は自分が置かれた環境の中で、自らの判断で行動できるということは、行動の結果に応じた責任も同時に取れることを意味します。
もちろん、コミュニティ側といった環境からの配慮やサポートも必要ですが、適応度の高低は、自立的な行動が環境の中でとれるかどうかが大切だと言えます。
著者のコメント
著者はこれまでの経験の中で〝知的障害″の人たちとの関わりが多くありました。
今回は〝適応機能″という観点からAさん(軽度から境界知能のある方)を例に見ていきます。
Aさんは軽度から境界知能の〝知的機能″のある方です。
IQではおそらく70前後~85程度だと思います。
Aさんは当時、通常学級の中で小学校から高校まで教育を受けていました。
Aさんにとっては周囲の環境に合わせることが精一杯であり、自ら判断して行動する機会はほとんどなかったように思います(その後の福祉のサポートを得るまでは)。
つまり、自立とは程遠い環境の中で生活していたと言えます。
そのため、自らの判断は置かれた環境の中で〝やりたくないこと″〝やれないと感じたこと″から回避するといった自己判断が大半を占めていました。
少なくとも、自ら〝これがやりたい!″〝これならやれそう!″といった積極的な意識決定はほとんどありませんでした。
この状態は、適応度では間違いなく〝低″の状態だと言えます。
その後、Aさんは福祉のサポートを受けることで支援を受けることのできる環境へとはじめて移行し始めました。
Aさんは環境が変わったことで、自ら〝やってみたいこと!″〝○○ならできる!″など、自己判断ができることが増えていきました。
〝自立″とは、何でもかんでも一人でできることではなく、何ができてできないのかといった自己理解力や、できない場合には助けや相談ができる力が本来の〝自律″を意味します。
環境が少しずつAさんに合っていくことで、Aさんの適応度は〝高″になっていきました。
このケースを通して著者は、いかに〝知的障害″の人たちが生きていく上で〝環境″の内容が大切だと痛感することになりました。
〝知的障害″の子どもたちは、定型発達児と比べて、〝ゆっくり″ではありますが、良い環境・コミュニティにいれば確実にできることや自信が向上していくのだと思います。
能力といった一元的な理解ではなく、子どもが置かれている〝環境″との相性をしっかりと見極めていくことがとても大切だと思います。
以上、【知的障害児の〝適応機能″とは何か?】療育経験を通して考えるについて見てきました。
〝適応機能″を測るツールとして代表的なものには〝ヴァインランド″などがあります。
個体の能力を把握することに加えて、環境への〝適応機能″についてもしっかりと理解していことがとても大切だと思います。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も療育現場で関わる子どもたちに良い環境を提供していけるように、実践・知識からの学びを深めていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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本田秀夫(2024)知的障害と発達障害の子どもたち.SB新書.