〝知的障害(ID)″とは、知的水準が全体的な発達よりも低く、かつ、社会適応上問題がある状態のことを言います。
最近では、知的水準よりも適応状態に目が向けられるようになってきています。
ここでいう〝知的水準(知的機能)″とは、一般的には心理検査で測られるIQから算出される数値のことを言います。
一方で、IQが○○といった数値を見てもどのような能力のことを指すのか実際に検査についての知識がある人でないと難しいと思います。
それでは、知的機能とは一体どのような能力のことを指すのでしょうか?
そして、知的障害児に見られる知的機能の遅れにはどのような特徴があるのでしょうか?
そこで、今回は、知的障害児の〝知的機能″の遅れとは何か?について、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「本田秀夫(2024)知的障害と発達障害の子どもたち.SB新書.」です。
〝知的機能″とは何か?
以下、著書を引用しながら見ていきます。
DSM最新版では、知的機能は「論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、学校での学習、および経験からの学習など」によって構成されるものだと説明されています。
つまり、知的機能というのは、言葉や記憶などを使って、さまざまなことを認知したり、考えたり、推論したり、学習したりする機能だと言えます。
著書の内容から、〝知的機能″とは、思考・推論、学習など非常に広義の能力であることが分かります。
人は経験を通して様々なことを学習していきます。
〝知的機能″に遅れがあると、日常生活スキルの習得の遅れ、学校の勉強の理解の遅れなどが生じます。
そのため、その子の合った学習環境や伝え方などの工夫が必要になります。
そして、高校以上の抽象的な思考を問う勉強よりも、日々の生活に必要な実践的な学び、それも体験を通した学習が大切だと思います。
以上を踏まえて次に、知的機能に遅れのある知的障害児について具体例をもとにその特徴を見ていきます。
知的障害児の〝知的機能″の特徴について
著者はこれまでの療育経験を通して、様々な〝知的障害″の子どもたちを見てきました。
その経験から〝知的障害″児に見られる〝知的機能″にはいくつかの特徴があると感じています(以下、4つの観点から見ていきます)。
1.言葉の理解・表出の遅れ
発達相談の多くは言葉の遅れから相談に繋がるケースが多いとされています。
知的機能に遅れがあると、言葉の理解・表出もまた遅れてきます。
他の発達障害(ASD)には、質的な言葉の理解・表出の特徴があります。
また、発達障害(SLD)には、全般的な知的機能に遅れはないも、読み書きなど特定の能力に困難さを有しています。
他の発達障害と比べて、言葉の発達(理解・表出)全般に遅れがあるのが〝知的障害″に見られる特徴です。
2.記憶の難しさ
人間の記憶には、過去の記憶、そして、今の情報を統合して物事を判断する〝ワーキングメモリ″が重要な機能をはたしています。
〝知的機能″に遅れがあれば、〝記憶″にも問題が生じると感じています。
一方で、知的障害児は経験を通しての学びは比較的覚えていることが多いと実感しています。
そのため、座学での学びよりも、実践経験を重視した学びの方が記憶の定着は良いと思います。
3.思考の難しさ
思考の段階は、感覚と運動を通して物事を理解していく段階から、抽象的な思考を要する段階まで発達段階があります(代表的なものはピアジェ理論)。
よく〝9歳の壁″といった言葉あるように、小学校中学年頃から抽象的な思考要する課題が出てきます。
抽象的な思考ができることは、思考の柔軟性にも繋がるものですが、〝知的機能″に遅れがあると思考の発達もゆっくりであると感じています。
先に見た抽象的な思考を問う課題を重視するよりも、生活スキルに関連する思考力(読み書き・計算など)を着実に身につけていくことが大切だと思います。
4.学習の難しさ
学習とは〝経験によって生じる比較的永続的な行動内容の変容″と定義されています。
つまり、人は経験によって自身の行動や思考の量的にも質的にも変えていきます。
例えば、自転車に乗れない→乗れるようになる、文字が書けない→書けるようになる、などです。
こうした行動の変容において、知的障害児は時間をかけてゆっくりと行動を変容させていくといった特徴があります。
ゆっくりな発達ではありますが、経験を通した学びの多くはその子の中に着実に残ると感じています。
以上、【知的障害児の〝知的機能″の遅れとは何か?】療育経験を通して考えるについて見てきました。
知的障害児の〝知的機能″の遅れについて、いくつかの特徴を見てきました。
その中での、キーワードは高い目標設定ではなく、手の届く範囲の目標設定を設けること、そして、体験を重視した学びにあると感じています。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も療育現場で関わる子どもたちに質の高い支援を届けていけるように、私自身も学びを続けていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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本田秀夫(2024)知的障害と発達障害の子どもたち.SB新書.