知的障害(ID)とは、知的水準が全体的な発達よりも低く、かつ、社会適応上問題がある状態のことを言います。
最近では、知的水準よりも適応状態に目が向けられるようになってきています。
著者は療育現場などを通して、知的障害のある人たちと関わることが多くあります。
知的障害のある人たちとの関わりを通して、基本となる対応にはいくつか大切なポイントがあると感じています。
それでは、知的障害のある子どもたちにとって、どのような対応方法が大切となるのでしょうか?
そこで、今回は、知的障害児で大切な対応について、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら、〝逆算の支援″について理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「本田秀夫(2024)知的障害と発達障害の子どもたち.SB新書.」です。
知的障害の認知機能について:ピアジェ理論を例に
以下、著書を引用しながら見ていきます。
認知の発達には4つの段階があるわけですが、知的障害の子の場合、将来的にも具体的操作期の段階にとどまる可能性があります。中等度よりも重い知的障害がある場合には、その可能性が高いでしょう。
大人になったときに「抽象的な思考が難しい」状態だと想定される場合もあるわけです。その場合、成人期に「状況に合わせて臨機応変に立ち回る仕事」に就くのは難しいでしょう。
著書の内容にある認知の4つの段階は〝ピアジェ理論″がもとになっています。
心理学者の〝ピアジェ″は、認知の発達段階を次の4つにまとめ上げています。
- 感覚運動期(0~2歳):感覚を通して外界を理解していく段階
- 前操作期(2~7歳頃):言葉での理解が可能となるが目の前の情報に左右され頭の中で思考(操作)することが難しい段階
- 具体的操作期(7~11歳頃):頭の中で具体的に物事を考えることができるようになる段階
- 形式的操作期(11歳頃から):抽象思考ができるようになる段階
以上の4つの段階において、知的障害のある人は第3段階:具体的操作期に留まる可能性が高いとされています(中等度から重度・最重度の場合)。
つまり、軽度の知的障害以外の場合、〝具体的操作期″に留まる可能性が高いと言えます。
もちろん、軽度の知的障害のある人たちにとっても第4段階の力を大いに発揮することは容易ではないと思います。
そのため、複雑な情報処理を必要とする仕事や複雑な対人コミュニケーション能力が必要となる仕事などは、知的障害のある人たちにとっては〝目標となりにくい″といったことが言えるかと思います。
それでは、以上の点を踏まえて、どのような対応方法が大切なのかを次に見ていきます。
〝逆算の支援″とは何か?
以下、著書を引用しながら見ていきます。
その子は将来「具体的なものを取り扱う定型的な仕事」であれば、問題なくこなせる可能性があります。そういった見通しから逆算して、いまから取り組んでいけることを考えるのが、「逆算の支援」です。
著書には、知的障害児への対応として、〝逆算の支援″の重要性を取り上げています。
〝逆算の支援″とは、将来から逆算して、問題なく(無理なく・高いハードルを設けずに)今後に向けてできること計画して実行する支援方法だと言えます。
例えば、先に見た複雑な情報処理が必要な仕事や複雑なコミュニケーション能力が必要な仕事は、知的障害児の今後においてハードルが高いと判断した際に、もう少しハードルの低い仕事を将来の目標に設定し、それに向けて計画を練るなどの方法があるかと思います。
実際に著者が関わることのあった軽度の知的障害の人は、当初はハードルの高い目標を設定してしまったことで、多くの失敗経験を積み重ねてしまっていました。
この方は、その後、目標設定のハードルを下げることで、環境への適応がうまく進んでいきました。
つまり、その人の能力以上のことを計画しない〝逆算の支援″がとても大切なのだということを、このケースを通して学ぶことができました。
著者が今関わることのある知的障害のある子どもたちについても、〝逆算の支援″はとても大切だと感じています。
将来を見据えて、目標設定をあまり高く設けすぎずに、今できることを着実に学習していくことがとても大切だと感じるようになりました。
以上、【知的障害児で大切な対応について】〝逆算の支援″を通して考えるについて見てきました。
知的障害の特徴として、認知機能の働きがうまく機能しない特徴があります。
その一方で、その人なりにできることが増えていくこともたくさんあります。
できることを広げていくためにも、高い目標を設定せずに、着実に積み上げていけばできるようになる目標を立てることが重要だと思います。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も知的障害児・者への対応・関わり方についても学びを深めていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
関連記事:「【知的障害児の対応で大切なこと】療育経験を通して〝ゆっくり″な発達について考える」
本田秀夫(2024)知的障害と発達障害の子どもたち.SB新書.