
実行機能とは、〝活動をコントロールする能力″〝遂行能力″〝やり遂げる力″などと言われています。
知的障害・境界知能において、実行機能に問題があることが指摘されています。
また、知的障害の研究において、実行機能は中核となるほど重要なテーマだと言われています。
それでは、知的障害・境界知能の実行機能にはどのような特徴があると考えられているのでしょうか?
そこで、今回は、知的障害・境界知能の実行機能の特徴について、臨床発達心理士である著者の経験と考察も交えながら理解を深めていきたいと思います。
※この記事は、臨床発達心理士として10年以上療育現場に携わり、修士号(教育学・心理学)を有する筆者が執筆しています。
今回参照する資料は「宮口幸治(2025)境界知能 存在の気づかれない人たち.扶桑社新書.」です。
知的障害の実行機能の特徴について
以下、著書を引用しながら見ていきます。
知的障害においてはこういった情動的、機能的な実行機能の問題が指摘されており、境界知能においても同様な状況が予想されます。
著書には、知的障害のある人は、実行機能において、機能面・情動面に問題が見られるとの記載があります。
また、境界知能においても同様の問題があると予測しています。
〝機能面″とは、〝思考の実行機能″を指します。
思考の実行機能に問題があると、目標に向けて計画・実行しようとしていたことに対して、そもそも計画を立てる難しさがあったり、やるべきタスクに対してついつい注意がそれてしまったり、柔軟な切り替えなどを苦手とする様子が出てきます。
つまり、実行機能の要素である、〝シフティング″〝抑制″〝更新″にネガティブな影響が出てきます。
〝情動面″とは、〝感情の実行機能″を指します。
感情の実行機能に問題があると、自分の衝動を抑えることができなくなるなど非常に本能的な機能に苦手さが出てきます。
また、感情の実行機能は、やる気や意欲を引き出すことに影響しているため、この機能に苦手さがあると、動機付けにおいて困難さが見られることが予測できます。
境界知能の実行機能の特徴について
以下、著書を引用しながら見ていきます。
境界知能のある人々は、実行機能(目標設定、計画、衝動抑制、問題解決など)に課題を抱えることが多く、特に、抑制制御、ワーキングメモリ、柔軟な思考(タスクスイッチング)において定型者と比較して低いパフォーマンスであること、境界知能は定型児に比べ実行機能が広範囲に低下していることが報告されています。
著書にあるように、境界知能の人の実行機能は広範囲において、低いパフォーマンスを示していることが記載されています。
例えば、目標設定、計画性、衝動抑制、問題解決力において課題があり、特に、抑制制御、ワーキングメモリ、柔軟な思考を苦手としています。
また、著書には、今後の課題として、実行機能と関連性の高い〝メタ認知″においても、境界知能児・者は定型発達児・者と違いがある可能性を指摘しています。
これまで見てきたように、知的障害・境界知能の人たちは、実行機能の様々な面で課題が見られることが分かってきています。
著者の経験談
著者の療育現場にも、知的障害児・境界知能児は多くいます。
こうした子どもたちとの関わりにおいて、実行機能(思考・感情)に様々な課題があるといった実感があります。
例えば、目の前の欲求を抑えることができずに、他者とトラブルになってしまう、計画を立てていたが衝動性が優位に働き活動が後手後手になってしまうなど、感情の実行機能の苦手さはよく見られるケースです。
また、その日の活動の予定をどのように計画すればいいか?遊びをどのように進めていけばいいのか?といった、計画性の難しさはよく見られます。
そのために必要なゴール(目標)設定にも苦手さがあります。
さらに、一度立てた計画を遂行し続ける難しさもまたあります。例えば、活動中に他のことに注意が向き、これまで取り組んできた活動を中断してしまうなどです。
こうした思考の実行機能の苦手さもまたよく見られるケースです。
一方で、以上の実行機能の課題・苦手さを理解して、子どもたち一人ひとりに適切な足場(サポート)を整えていくことで、着実に実行機能の力は高まっていくことも事実としてあると思います。
特に、知的障害・境界知能児のゆっくりな学習速度を理解し、本人に合った繰り返しの学習を重視していくことで、できる所が着実に増えていく傾向があると感じています。
関連記事:「【実行機能への支援で大切な足場づくりについて】療育経験を通して考える」
関連記事:「【知的障害児の対応で大切なこと】療育経験を通して〝ゆっくり″な発達について考える」
以上、【知的障害・境界知能の実行機能の特徴】療育経験を通して考えるについて見てきました。
改めて見ると、実行機能には様々な要素から構成されていることが分かります。
そして、知的障害・境界知能の人たちは、実行機能に様々な課題を抱えています。
一方で、本人に合った適切な支援を行っていくことで、実行機能の力は着実に育っていくことも事実としてあると思います。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も実行機能への理解を深めていきながら、療育実践の質を高めていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
宮口幸治(2025)境界知能 存在の気づかれない人たち.扶桑社新書.