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【発達障害児支援の試行錯誤の先に見えたこと】療育の本質を探る旅

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発達障害児への支援が思うようにいかずに思い悩んだことはありませんか?

発達障害児に関わる多くの支援者は、支援がうまくいかない状況に直面したことがあるかと思います。

かつての著者も、果たして今の取り組みが子どもたちの将来をより良い方向に導く取り組みなのだろうかと試行錯誤の状態でした。

一方で、試行錯誤の状態の中で見えてきた大切な視点もあります。

 

今回は、現場経験+理論+書籍の視点から、療育の本質を理解するヒントをお伝えします。

 

※この記事は、臨床発達心理士として10年以上療育現場に携わり、修士号(教育学・心理学)を有する筆者が執筆しています。

 

 

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目次

1.発達障害児支援に関する試行錯誤のエピソード

2.療育を理解する理論・書籍

3.療育の本質が見えてきた体験談

4.まとめ

 

 

1.発達障害児支援に関する試行錯誤のエピソード

それでは、著者のエピソードを紹介致します。

著者は、10年以上にわたり、発達障害児への支援、つまり、療育に携わる仕事をしてきています。

仕事に就き始めた当時は、覚えることが非常に多く大変である一方で、子どもたちとの関わりはとても楽しく充足していました。

その後、ある程度、経験と知識が身に付いてくる中で、〝療育とは本来、子どもの自立を促すものであり、そのためにも、個々の能力を高める必要がある″といった考えを持ち始めるようになりました。

つまり、子どもの現状の能力を理解していきながら(理解の方法も含めて)、どのような支援をすればさらに能力を高めていけるのか?といった問いを持っていました。

そのため、療育のエビデンス(根拠)を調べることに着手し、支援の効果を模索する日々が始まりました。

一方で、このような視点に基づいて行動(支援)するも、思うような結果を得ることができずにいました。

それはおそらく、著者が子どもにある課題、ある作業を〝させる″働きが強くなっていたからだと思います。

そのため、子どもとの関わりも少し窮屈な状態になってしまい、お互いにとって楽しいと感じられない方向に進んでしまっていったように思います。

 

著者は一度、療育について再考していくことを決め、本来、あるべき療育の姿をゼロから模索しようと考え始めました。

 

 

2.療育を理解する理論・書籍

それでは、まずは、1.療育の定義2.療育とは何か3.療育の目的について見ていきます。

そして、1~3を深掘りしていく中で、4.著者が考える療育の本質についてお伝えしていきます。

療育に関して参考にした書籍は以下です。

書籍①「てんねんDr.(2025)子どもの発達障害がよくわかる本 これ1冊で理解もサポートも!SB Creative.

書籍②「原哲也(2021)発達障害の子の療育が全部わかる本.講談社.

 

 

1.療育の定義

それでは、書籍①を引用しながら〝療育の定義″について見ていきます。

実は療育には定義がありません。しかし「障害があるか、もしくはあるかもしれない子どもに対し、個々の状態や特性に応じた発達を促す支援のこと」と捉えればよいでしょう。

 

療育には、定義はないとされています。

一方で、考え方として、療育(発達支援)は、障害のある子ども、あるいは、その可能性のある子どもに対して、個々の状態・特性を踏まえた関わりを通して、子どもの豊かな発達を促すことだと言えます。

療育を行うためにも、子どもたち一人ひとりの状態像の違い(個性)を理解していくことがとても大切になっていきます。

 

2.療育とは何か

療育(発達支援)とは何か?をネットや書籍などで調べると、障害など発達に躓きのある子どもたちに対する理解と支援を行うことで、自立や社会参加を目指すこととされています。

また、療育には、治療的な側面と、教育的な側面の両方が含まれます。

今回は、教育的な側面を重視してお伝えしていきますが、発達障害児においては薬物療法といった治療も有効な場合が多いため、様々な治療の側面も理解していくことが大切です。

そして、先ほどの、〝1.療育の定義″の項目に補足すると、療育には、自立や社会参加を目指すことが必要だと言えます。

 

ここで、〝自立″について少し詳しく見ていきます。

自立について参考になった書籍③は「本田秀夫(2024)知的障害と発達障害の子どもたち.SB新書.」です。

以下、著書を引用しながら見ていきます。

子どもの自己決定と相談を保障することは、その子の自立をサポートするうえで極めて重要なことなのです。自己決定力と相談力を身につけることが、社会参加につながっていきます。

 

〝自立″を育てる上でのキーワードは、〝自己決定力″と〝相談力″です。

自己決定力″とは、自分でできることを判断して実践する力、〝相談力″とは、困った際に他者に頼る力だと言えます。

そして、この〝自己決定力″と〝相談力″を育てていくことが、自立や社会参加に繋がっていきます。

つまり、自分でできる力を育てていくと同時に、できないことは他者に頼ることも必要であり、援助を求める力もまた育てていく必要があります。

そして、既存の社会でより良く生きていくために、あるいは、新しい社会との接点を持つためにも、〝自立″の力を育ていくことが大切です。

 

3.療育の目的

それでは、書籍②を引用しながら〝療育の目的″について見ていきます。

「社会で生きていけるようになる」ことは、子育てのひとつのゴールと思います。

 

幼かった子どももやがて思春期を迎え、社会のなかで、それぞれの場所で生きていく。その過程で子どもはさまざまな困難に出会います。

 

そのとき子どもを支えるのは「私は私でいいのだ」という自尊心と、自尊心に支えられた生きる意欲、生活のなかに楽しみがあること、人に助けてもらいながら困難を解決する力だと私は思います。

 

先ほど見た〝1.療育の定義″と〝2.療育とは何か″の項目にさらに補足すると、療育には、自尊心の育ちと何かをやる意欲、楽しさを見出すことが必要だと言えます。

 

ここで、自尊心の育ちとやる気・意欲を引き出す上で、著者が非常に参考になった理論(書籍)は以下です。

書籍④:「米澤好史(2015)発達障害・愛着障害:現場で正しくこどもを理解し、こどもに合った支援をする:「愛情の器」モデルに基づく愛着修復プログラム.福村出版.

それでは、著書を引用しながら見ていきます

重要なことは、愛情は貯めないと満足感が満ちて安心できない、行動のエネルギーにもなり得ないということである。そして、その愛情を貯める器は、養育者が養育の関係の中でこどもの中に作ってあげなければならない。初めからあるものではないということだ。これが「愛情の器」の発想であり、この「愛情の器」がなければ貯められない。

 

愛着障害児への支援として、「愛情の器モデル」といったものがあります。

「愛情の器モデル」によれば、愛情のエネルギーが満たされることで、行動のエネルギー(意欲のエネルギー)も湧いてくると言えます。

そして、愛情のエネルギーが満たされることは、子どもの自尊心・自己肯定感を支え、行動のエネルギー(意欲のエネルギー)は、主体性・モチベーションといった具体的な行動に繋がっていき、様々な行動を積み重ねていく中で、生活における楽しさを発見できる可能性が出てくると解釈できます。

 

4.著者が考える療育の本質

これまで、1.療育の定義、2.療育とは何か、3.療育の目的について見てきました。

どれも内容が共通している所もある一方で、療育には明確な定義がない分、様々な考え方があることが伺えます。

 

以上の1、2、3を踏まえて、著者は〝療育″の本質とは、「子どもたち一人ひとりの状態像(違い)を理解し関わること、中でも、愛情のエネルギーを多分に注ぎ、愛情が満たされることで、自尊心が育ち、自尊心の育ちは意欲のエネルギーに貢献し、意欲のエネルギーが湧いてくることで主体性が育ち、主体的な行動は様々な社会との接点を持つことや楽しみを見出すことに繋がり、他者との関わりを通して、自分にできることを判断して実践する力(自己決定力)と困った時に他者の力を借りる力(相談力)といった自立の育ちに繋がり、自立の力が育つことは、様々な社会参加を可能にしていくこと」だと考えます。

 

 

3.療育の本質が見えてきた体験談

著者が考える療育の本質は実体験から得られる所も大きくあります。

仮に、ここで一つの事例を通して、その実感を紹介します。

 

A君の事例:当時、小学校5年生のASD(自閉スペクトラム症)の診断在り

A君は、ASDの特性が顕著に見られる子どもであり、他者とのコミュニケーションの難しさ・聴覚の過敏さ・こだわり行動等が見られていました。

また、当時のA君は、社会との接点が少なく、社会の中での経験値が非常に少ない状態でした。

さらに、愛着の問題も見られており、大人に対する不信感が強く、時には、暴言を吐くことも多々ありました。

 

著者は、A君に対して、ASD特性からのアプローチを中心に、A君に対してできる限り肯定的に関わるようにしていきました。

A君は、次第に、大人に対する信頼感が高まっていき、それに伴い、自尊心・自己肯定感も高まっていきました。

さらには、様々な活動に興味を持つ様子も増えていき、自ら活動へのアイディアを出すなど積極的に他者と関わる姿も見られるようになっていきました。

主体性が高まっていったA君は、様々なイベントやプログラムにも意欲的に参加するようになりました。

そして、様々な他者との関わりを通して、自分の得意・不得意を言葉で表出できるようになっていき、まだ苦手な所はありますが他者に頼る様子も少しずつ出てきたように思います。

現在のA君は、自立に必要な自己理解が徐々に進んでいる状態にありますが、依然として、意欲のエネルギーは保たれているように感じます。

それは、おそらく、A君の特性・性格などを理解してくれる様々な環境(人的環境・物的環境など)があったことが大きく影響しているのだと思います。

 

著者は、A君との関わりを通して、以前成果の実感が弱かった〝させる″働きから、〝理解・承認する″ことを重視したことで、療育の成果が格段に高まっていったように思います。

つまり、療育で大切なことは、子どもの能力を大人が意図的に高めようとするのではなく、子どもの能力が引き出されるような土壌(環境)を作っていくことであると思います。

 

 

4.まとめ

療育には明確な定義はありませんが、大切な視点として、障害のある子ども(その可能性のある子どもも含めて)に対して、状態像の理解(特性)を踏まえた支援を行うことで、豊かな発達・自立・社会参加を目指すことだと言えます。

また、愛情のエネルギーを満たすことが意欲のエネルギーに繋がっていき、この過程において、自尊心・自己肯定感・主体性などが育まれていく環境を整えていくことが非常に大切な視点だと言えます。

 

 

書籍紹介

今回取り上げた書籍の紹介

  • てんねんDr.(2025)子どもの発達障害がよくわかる本 これ1冊で理解もサポートも!SB Creative.」
  • 原哲也(2021)発達障害の子の療育が全部わかる本.講談社.
  • 本田秀夫(2024)知的障害と発達障害の子どもたち.SB新書.
  • 米澤好史(2015)発達障害・愛着障害:現場で正しくこどもを理解し、こどもに合った支援をする:「愛情の器」モデルに基づく愛着修復プログラム.福村出版.

 

 

 

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