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【発達障害児の叱り方・褒め方をアップデートする】経験×理論から見える“ことばかけ”の本質

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療育(発達支援)の中で、子どもにどのような叱り方・褒め方をすれば良いかで思い悩んだことはありませんか?

発達障害児は、特性などが影響して定型発達児とは異なる行動を見せることがよくあります。

その中には、大人から見て止めたくなるような行為・注意したくなる行為もあります。

一方で、単純に叱る・褒めるを繰り返しても、行動の改善が見られないことはよくあると思います。

かつての著者も、子どもの望ましい行動が増えていくために、叱る・褒めるを使い分けながら対応していましたが、思うような行動改善が見られなかったことがあります。

一方で、叱る・褒めるの本質的な意味や効果を学ぶ中で、少しずつどのような叱り方・褒め方が望ましいのかが分かるようになってきました。

 

今回は、実体験+理論+書籍の視点から、発達障害児の叱り方・褒め方をアップデートしていくための理解と支援のヒントについてお伝えします。

 

※この記事は、臨床発達心理士として10年以上療育現場に携わり、修士号(教育学・心理学)を有する筆者が執筆しています。

 

 

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目次

1.発達障害児の叱り方・褒め方に苦慮していた著者のエピソード

2.叱り方・褒め方を理解する理論・書籍

3.叱り方・褒め方をアップデートし支援の意味・効果が見えてきた著者の経験談

4.まとめ

 

 

1.発達障害児の叱り方・褒め方に苦慮していた著者のエピソード

著者はこれまで10年以上にわたり、幼児期から学童期を対象とした療育を行ってきています。

療育を始めた当時の著者は、子どもが見せる望ましくない行動に対して、今振り返って見るとよく注意していたと思います。

その理由は単純であり、自分がそのような教育環境で育ってきたことや、望ましくない行動を放置するのはよくない(余計にその行動が助長してしまうなど)といった思いが強くあったからです。

一方で、いくら子どもを注意しても、また同じような望ましくない行動を繰り返すことが多く、酷いとさらに望ましくない行動がエスカレートしていくこともありました。

そのため、著者は叱る以上に褒める関わりに重きを置くようにしていきました。

つまり、叱る<褒めるという構図を大切に子どもと関わるようにしていきました。

しかし、こうした姿勢もまた思うような結果がでないことがありました。

褒めることを重視しても、肝心の〝褒める″が、子どもの心にしっかりと届いていないような感じがあり、単純に褒めても子どもの行動は簡単には変わらないといった実感が湧いてきました。

 

その後、叱り方・褒め方に関する様々な書籍を読み、実践していく中で、少しずつどのような叱り方・褒め方が良いのかが見えてきました。

 

 

2.叱り方・褒め方を理解する理論・書籍

それでは、発達障害児の叱り方・褒め方の理解を深めていく上で、著者が非常に参考になった書籍を以下に紹介していきます。

 

書籍①「小嶋悠紀(2023)小嶋悠紀の「特別支援教育・究極の指導システム」②.教育技術研究所.

書籍②「本田秀夫(2021)子どもの発達障害:子育てで大切なこと、やってはいけないこと.SB新書.

書籍③「村中直人(2024)「叱れば人は育つ」は幻想.PHP新書.

書籍④「島村華子(2020)モンテッソーリ教育・レッジョ・エミリア教育を知り尽くした オックスフォード児童発達学博士が語る 自分でできる子に育つ ほめ方 叱り方.ディスカヴァー・トゥエンティワン.

書籍⑤「村中直人(2022)<叱る依存>がとまらない.紀伊国屋書店.

 

 


以上の書籍を踏まえて、著者が非常に参考になったキーポイントとして、1.根底にあるのは子どもとの信頼関係2.効果のある叱り方3.そもそも叱るには効果はない4.効果的な褒め方5.学びや成長を支えるメカニズムです。

 


それでは、次に、以上の5つのキーポイントについて具体的に見ていきます。

 

1.根底にあるのは子どもとの信頼関係

単純に褒めても子どもの行動が改善しないのは、その背景に、子どもとの信頼関係が強く影響している場合があります。

逆に、信頼関係を軽視して、子どもに対して、〝力で押さえつけた関わり″をするとどのような影響がでると考えられているのでしょうか?

この点について、書籍①を引用しながら見ていきます。

力で押さえ付ける過剰な叱責をすれば、その場では子供たちは言うことを聞いているように見える。特に低学年の子供たちは、大人が本気ですごめば、委縮して言うことを聞く。

 

心の中では、大人への信頼度は失墜していく。

 

「間違えた成功体験」が「暴れる」「反抗する」という「誤学習」を更に強化していく。そして、それが周りにも伝搬していく。

 

著書にあるように、力で押さえつけた関わり″、例えば、過度に子どもを叱る対応によって、短い期間は子どもが言うことを聞く場合があります。

一方で、この間に、徐々に子どもとの信頼関係は低下していくことが予測できます。

関わり手によっては、〝子どもが言うことを聞く″といった現象にだけ着目してしまい、肝心な子どもとの信頼関係が望ましくない方向に進んでいることに気づかない場合もあります。

逆に、子どもが従うという構図に対して、信頼関係がうまく構築できているといった誤った錯覚を起こしてしまう可能性すらあります。

そして、怖いのは、〝力で押さえつけた関わり″が長期化すると、後に、ネガティブ行動として爆発する時期がくることがあるということです。

そのため、まずは、子どもとの信頼関係の構築を優先した対応を考えていくことが大切だと言えます。

 

著者の実感として、子どもに関わる大人、それも〝誰が″叱る・褒めるかどうかで、子どもの行動が変わるといった場面をこれまで多く見てきています。

そして、その背景には、子どもとの信頼関係があるということは間違いのないことだと感じています。

 

 

2.効果のある叱り方

子どもとの信頼関係が褒める・叱るのベースになっていることについてこれまで見てきました。

それでは、信頼関係の重要性を踏まえた上で、効果的な叱り方はあるのでしょうか?

この点について、書籍②を引用しながら見ていきます。

叱り方のキーワードは「本気」です。子どもに行動を改めてほしいと思ったら、そのための方法を本気で考える。それが叱り方のポイントです。叱るのがうまい人はいろいろと考えたうえで叱るので、めったに子どもを叱りません。

 

私は「叱る」は大きく3種類に分かれると思っています。

 

①教えるために「叱る」

②憂さ晴らしのために「叱る」

③その場をおさめるために「叱る」

 

親が子どもに行動を改めてほしいと思って叱っている場合、その効果があるのは「①教えるために叱る」だけです。

 

著書を通してのポイントは、叱り方のキーワードは〝本気″です。

そして、この〝本気″の姿勢による叱り方で効果を発揮するが〝教えるために叱る″ということです。

つまり、〝本気″で子どもに望ましい行動を身につけて欲しいと望んでいる大人は、〝本気″で子どものことを考えているため、ほとんど叱ることがなく、仮に叱ったとしても憂さ晴らしやその場をおさめるために叱るのではなく、ネガティブな行動をどのようにすればポジティブな行動に転換していけるのかを具体的に考え実行している人だと言えます。

例えば、ネガティブ行動に対して、〝○○した方がいいと思うよ″〝○○の時は○○しよう″など、ポジティブ行動への転換を促す具体的な声掛けなどがあります。

こうした行動の転換への声掛けには、子どもたち一人ひとりの特徴をよく把握しておく必要があると思います。

また、声をかけるタイミングも重要だと思います。

 

 

3.そもそも叱るには効果はない

それでは、効果的な叱り方について見てきましたが、そもそも叱ることは効果がどの程度あると考えられているのでしょうか?

この点について、書籍③を引用しながら見ていきます。

つまり年齢に関係なく、人間という存在は叱られることでは学ばないし、育たないのです。

 

叱られた子どもは、なぜ同じことを繰り返すのか。

 

その答えは、「防御システム」とも呼ばれる、脳の危機対応メカニズムにありました。

 

ネットワーク(防御システム)が活性化するとき、人は「闘争・逃走反応(Fight or Flight Response)」と呼ばれる状態になることが知られています。

 

重要なことは、この防御システムが人の学びや成長とは真逆のシステムであることです。

 

著書にある通り結論から言えば、〝叱ることの効果はない!″と言えます。

何故かと言えば、叱ることで、叱られた人は〝防御システム″が働き出すからです。

そして、〝防御システム″が働いた状態では、そもそも人は学ぶこと・成長することができないからです。

もちろん、子どもの命が脅かされる状況、他者を傷つける行為に対しては、叱る必要があります。

一方で、こうした叱るは、一時的な行動の制止しか意味を持つことはなく、本質的に行動を改善したい場合には、先に見た子どもとの信頼関係構築を重視し、教えるために叱るといった対応が大切だと言えます。

 

著者は最近子どもを叱ることはほとんどありませんが、これまでの経験の中では叱ったことは多くあったように思います。

一方で、子どもの行動が望ましい方向に進んでいった背景には、叱る頻度が減ったことが強く影響していたと感じます。

子どもは大人への信頼、そして、安心できる環境の中でこそ、様々な事を身につけていけるのだと思います。

そして、叱ることを減らすためには、日々、子どもの様子をよく観察する必要があること、そして、事前に叱ることを避ける環境を整えておくことが重要だと思います。

 

 

4.効果的な褒め方

それでは逆に、効果的な褒め方はあるのでしょうか?

この点について、書籍④を引用しながら見ていきます。

1 成果よりも、プロセス(努力・姿勢・やり方)をほめる

2 もっと具体的にほめる

3 もっと質問する

 

著書の内容から、効果的な褒め方とは、結果や一部分だけではなく過程を重視して褒める、表面的な褒めではなく具体的な褒めをする、子どもがやってきたこと(頑張ったことなど)について具体的に質問をする(質問→褒める)などがあります。

こうした褒め方を行っていくためには、普段から子どものことを深く理解しようといった姿勢が求められます。

例えば、活動にどのような姿勢で取り組んでいるのかを理解するためには、日々の子どもの様子や変化を把握しておかないと、プロセスを褒めることは難しいと言えます。

子どもたちにとって、関わり手が自分のことをよく見てくれている、よく理解してくれているという安心感が効果的な褒め方に繋がるのだと思います。

 

 

5.学びや成長を支えるメカニズム

叱ることの効果はない、その理由は、〝防御システム″が働くからだと3で述べてきました。

一方で、逆に、人が学び成長していくためには、どのようなメカニズムがあるのでしょうか?

この点について、書籍⑤を引用しながら見ていきます。

私なりに表現するなら、欲求に基づく行動を引き起こす報酬系回路の働きは、人間にとって「冒険システム」とでも呼べるメカニズムなのです。

 

冒険は常に、ワクワクする気持ちと困難を乗り越えるための試行錯誤や創意工夫に満ちています。

 

著書にあるように、〝防御システム″とは逆のシステムとして〝冒険システム″があります。

〝冒険システム″とは、子どものワクワク・ドキドキといった欲求を行動に繋げる働きであり、〝冒険システム″が稼働することで、子どもは行動を通して多くのことを学び自らを成長させていくのだと言えます。

〝冒険システム″を稼働させるためには、叱る・注意されるという環境ではなく、大人との安心できる環境がベースとなり、そこから一歩踏み出す挑戦が仮に失敗であったとしても、認められる・褒められることが重要だと言えます。

 

著者の療育経験を振り返って見ても、子どもの冒険心を引き出すことはとても大切であり、こうした気持ちを成長に繋げていくためにも、取り組み過程を褒めるなどの肯定的な関わりがとても大切だと感じます。

 

 

3.叱り方・褒め方をアップデートし支援の意味・効果が見えてきた著者の経験談

これまで見てきた〝叱り方・褒め方″に関する知識を療育現場に取り入れていく中で、次のような支援の意味・効果が見えてきました。

 

まずは、子どもとの信頼関係ができてくると褒める・叱るの効果を強く感じられるようになったことです。

子どもを褒めることはこれまでよくありましたが、その効果を強く感じられるようになったのは、子どもとの間に信頼関係が出てきたときです。

信頼関係ができてくると、著者の〝こどば″が良く子どもに届くようになっていく実感が出てきました。

以前は、〝すごい!″〝よく頑張ったね!″など肯定的な声がけをしてもほとんど反応がなかった子どもが、著者の声がけを聞いて嬉しそうに反応する姿がありありと伝わってくるようになりました。

逆に、叱る(教えるために叱る)対応をしても、褒めると同様に、子どもは著者の声がけをよく聞くようになり、その結果、望ましい行動を少しずつ身につけていく様子が増えていった実感があります。

 

次に、ポジティブな関わりを意識することで、叱ることが徐々に減っていき、そして、長期的にみて叱る効果はほとんどないと感じられるようになったことです。

著者は子どもが見せる望ましくない行動に対して、叱ることは大人の義務だと考えていた時期もありました。

つまり、放置しておくとその後、さらにマズイ結果になっていくといった考えを持っていました。

もちろん、行動の内容次第では、どうしても叱責が必要なこともあるかと思います。

一方で、子どもの行動が本質的に変わるためには、先に見た大人との信頼関係に加えて、自己肯定感の育ちが必要だと思います。

自己肯定感とは、ありのままの自分を認める・肯定する感覚です。

自己肯定感がしっかりと育まれていくためには、特定の誰かに大切にされた経験・認められた経験が重要です。

こうした子どもは長期的に見て、他者を大切にしようという気持ちが育っていくと思います。

そのためにも、日頃から子どもたちの様子をよく観察すること、その中で、子どもの良い行動、頑張っている過程などに目を向けポジティブな関わりをより多く持つ必要があると思います。

実際に著者自身、ポジティブな関わりが増えていったことで、相対的に叱るなどのネガティブな行動が徐々に減っていき、結果として、長いスパンで見た時に、子どもが望まし行動を身につけていくためには、叱ることはほとんど意味・効果がないと感じられるようになっていきました。

 

 

4.まとめ

褒める・叱るが効果が出るためには、子どもとの信頼関係が重要です。

それは、信頼関係が破綻したケース(〝力で押さえつけた関わり″)からも理解できます。

一方で、叱るにはいつかの種類があり、例えば、①教えるために「叱る」、②憂さ晴らしのために「叱る」、③その場をおさめるために「叱る」があり、中でも、望ましい行動改善の期待が持てるのが①だけだと考えられています。

また、そもそも叱ることの効果はなく、その理由は〝防御システム″が働くことで、学ぼうとする意志が妨害されるからです。

褒めることで効果が期待できる褒め方として、1成果よりも、プロセス(努力・姿勢・やり方)をほめる、2もっと具体的にほめる、3もっと質問するがあると考えられています。

子どもが様々な事を学び成長していくためにも、叱ることで稼働する〝防御システム″を極力回避して、逆に、認める・褒めることで稼働する〝冒険システム″を活性化させる働きかけが重要だと言えます。

 

 

書籍紹介

今回取り上げた書籍の紹介

  • 小嶋悠紀(2023)小嶋悠紀の「特別支援教育・究極の指導システム」②.教育技術研究所.
  • 本田秀夫(2021)子どもの発達障害:子育てで大切なこと、やってはいけないこと.SB新書.
  • 村中直人(2024)「叱れば人は育つ」は幻想.PHP新書.
  • 島村華子(2020)モンテッソーリ教育・レッジョ・エミリア教育を知り尽くした オックスフォード児童発達学博士が語る 自分でできる子に育つ ほめ方 叱り方.ディスカヴァー・トゥエンティワン.
  • 村中直人(2022)<叱る依存>がとまらない.紀伊国屋書店.


 

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