発達障害児の中には、〝切り替え″が苦手な子どもたち多くいます。
著者の療育現場でも、活動をなかなかやめることができない、次の活動に切り替えるのに時間がかかる、など切り替えの困難さがよく見られます。
〝切り替え″の困難さの要因として、〝ワーキングメモリ″に苦手さがあると言われています。
それでは、ワーキングメモリを例に切り替えの苦手さを考えるとどのような理解の仕方ができるのでしょうか?
そこで、今回は、発達障害児の切り替えの困難さについて、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら、ワーキングメモリを例に理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「小嶋悠紀(2023)小嶋悠紀の「特別支援教育・究極の指導システム」②.教育技術研究所.」です。
ワーキングメモリ(WM)の機能について
以下、著書を引用しながらワーキングメモリの機能(構造)について見ていきます。
学習を成立させるには、「WM上に『(1)記憶を追加』し、その記憶をまるで画面を見ているように『(2)モニタリング(観察)』して読む書くなどの行動を行い、必要がなくなれば『(3)記憶を消去』する」という三つの作用が、止めどなく働いている。これを「WMの更新機能」と呼ぶ。
著書の内容から、ワーキングメモリ(WM)の機能には、(1)記憶を追加、(2)モニタリング(観察)、(3)記憶を消去の三つの要素があり、それぞれが相互に関連して情報を整理し更新していると記載されています。
つまり、ワーキングメモリ(WM)の働きとは、必要な情報を取り込み、複数の情報を操作し、不要な情報を消去し、情報をアップデートしていく機能だと言えます。
また、ワーキングメモリは実行機能とも関連性が高いことが分かっています。
関連記事:「実行機能とワーキングメモリの関係」
それでは、次にワーキングメモリの観点(3つの要素)から切り替えの困難さについて見ていきます。
切り替えの困難さについて
(1) 記憶を追加
まずは、最初の段階の情報の入力・取り込みです。
この段階の困難さの例としては、黒板に書いてある内容に注意を向ける、大人の話を聞くなどの難しさがあります。
ASDやADHDの子どもたちは、他の活動や刺激に注意が向いていると、自然と大人が話しをはじめただけでは大人の声に注意が向きづらいことが多くあります(過集中傾向の強さ、人に注意が向きづらいことが要因となっている場合もあります)。
その結果、次に何をしていいのかわからなくなったり、次への行動に時間がかかることが特徴としてあります。
著者の療育現場でも、大人が自然と声をかけてもなかなか返答がないケースが多く見られます。
こうした子どもたちは、まず、記憶の追加といった新しい刺激に注意を向けることが困難であると感じます。
(2) モニタリング(観察)
モニタリングに苦手さがあると、入力された情報の交通整理に困難さが出てきます。
例えば、必要な情報よりも(情報を提示した大人が取り込んで欲しい情報よりも)、自分の興味が強い情報や印象に残りやすい情報、または、最後に話した内容(情報は最初と最後の部分が残りやすい)を中心とした情報の整理などです。
著者の療育現場でも、注意を向ける段階がうまくいっても、多くの情報を提示してしまうと内容の理解・整理が難しくなってしまう印象があります。
そのため、自分にとって重要な部分や興味の強い部分(本来の情報としては優先度が低い情報など)を覚えているというケースが少なからず見られます。
(3) 記憶を消去
必要な情報を整理して、情報を更新していくためには、不要な情報を消去する必要があります。
これが、苦手となると情報の更新が難しくなることがあります。
例えば、新しい情報を提示しても、過去の情報や自分がこだわっている情報が記憶の中心に残り続けてしまい新しい情報が更新されにくいなどです。
著者の療育現場でも、子どもたちの興味関心が強い情報(こだわりなど)や嫌な出来事の消去・修正がうまくできずに、不要な情報の消去が困難となり、情報の更新に時間がかかるケースも見られます。
以上、【発達障害児の切り替えの困難さについて】ワーキングメモリを例に考えるについて見てきました。
ワーキングメモリの要素を分解することで、発達障害児の切り替えの困難さをより深く理解することができるのだと思います。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も療育現場で子どもたち一人ひとりの過ごしが充実するように、発達障害の認知特性についての理解を深めていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
関連記事:「【発達障害児の切り替えの困難さへの対応について】療育経験を通して考える」
参考となる書籍の紹介は以下です。
関連記事:「発達障害の支援に関するおすすめ本5選【初級~中級編】」